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SATREPS:イノベーションを途上国と共に
~グローバル・イノベーション・サミット2012参加報告~
2012年7月16日(月)~18日(水) 米国カリフォルニア州

米国シリコンバレーの中心地サンノゼで「グローバル・イノベーション・サミット2012」が、T2ベンチャーキャピタルの主催で開催されました。米国国際開発庁(USAID)、世界銀行、アフリカ開発銀行(AfDB)、米州開発銀行(IDB)、レメルソン財団、カウフマン財団などが協賛し、元日本学術会議会長の黒川 清教授も顧問委員を務めました。独立行政法人科学技術振興機構(JST)もサミットの機関スポンサーとなり、地球規模課題国際協力室及びJSTワシントン事務所の3名に加え、アフリカで実施しているSATREPS環境分野の2プロジェクトのメンバーも参加しました。パネル討論や発表、展示ブースでの社会起業家などとの活発な議論により、研究成果の事業化に向けた様々な視点とグローバルな人脈を得ることができ、途上国との共同研究の成果を社会に還元することを目指すSATREPSにとって、極めて有意義な連携の場となりました。途上国を巻き込んだインクルーシブ・イノベーション注1)政策を実践する日本のSATREPSの存在感は大きく、各国の参加者から高い評価を得ることができ、SATREPSとそのプロジェクトに関心を抱いた多くの参加者から、積極的なアプローチがありました。

7月16日から18日まで3日間の日程で行われた今回のサミットは、ヒューレット・パッカード(HP)やアップル、グーグルをはじめとするIT企業、多くのベンチャー企業、ベンチャーキャピタルが拠点を置くシリコンバレーに、政府系機関や金融機関など世界中の主要な開発機関が集い協働した初めての試みでした。本サミットには49カ国から約400人が参加し、多様なステークホルダー間で、途上国におけるイノベーション環境の整備とその活用について活発な議論が行われました。サミットの主題は、イノベーションを育む環境やプロセスを自然界の生態系(エコシステム)になぞらえ、「イノベーションエコシステム」と称し、シリコンバレーの事例研究から「熱帯雨林モデル」注2)を提唱し、研究機関、資本家、市場、関連企業の有機的かつグローバルなネットワークの形成を促すものでした。

「コンポスト(堆肥)トイレ導入による農業支援サービスの提供」という新たな社会イノベーションの事業化を目指しているブルキナファソのプロジェクト「アフリカサヘル地域の持続可能な水・衛生システム開発」(船水 尚行 北海道大学 大学院工学研究院 教授)からは、北海道大学の研究者らに加え、相手国研究機関である国際水環境学院(2iE)の工学科専攻生3名を招聘しました。新たな水・衛生システムのビジネスモデルを提唱する船水教授のパネル発表は、社会的企業の事例として注目を集め、聴衆から多くの質問を受けました。特に、社会学的観点から調査を始め、トイレシステムのユーザーの視点からローカルニーズを把握した上で研究開発を進めた点が、多くの賛同を得ました。また展示ブースでは連日、BOPビジネスの専門家たちと積極的な意見交換が交わされました。

<写真>左:ブルキナファソプロジェクトの展示ブースにて社会起業家などと意見交換
右:船水教授のパネル講演

気候変動予測技術の向上によりアフリカ南部の異常気象の影響の軽減を目指す南アフリカのプロジェクト「気候変動予測とアフリカ南部における応用」(山形 俊男 JAMSTEC アプリケーションラボ 所長)」からは、JAMSTECの研究者とForecast Ocean Plus Inc.(JAMSTEC発第一号ベンチャー企業)の実業家が参加しました。連日展示ブースで、考案した気候変動予測モデルを紹介し、途上国での事業化の実現に向けたネットワーキングを展開しました。財団基金や社会企業コンサルタントからアプローチがあり、展示ブースは活発な会談の場となりました。

<写真>南アフリカプロジェクトの展示ブースにて社会企業コンサルタントなどと意見交換

最終日3日目の、「イノベーションのアイディアをどのようにしてマーケットに送り込むか(Accelerating Ideas to Markets)」をテーマとしたパネル討論には、JSTの岡谷 重雄参事役が登壇し、「SATREPSを通して日本と途上国が共同で、イノベーションのアイディアと起業家を含めたマーケットのプレーヤーとを結びつけるパイプラインを作っている」とコメントしたところ、会場から驚きの声が上がりました。それを受けて、「途上国を含めたインクルーシブ・イノベーションにおいては途上国政府のコミットメントが重要であり、先進国の企業や大学の一方的な関与では起こりえない」「イノベーションはパーツとなるステークホルダーが同じ地域に存在する必要はなく、世界規模の密接な信頼関係の中で生まれる」などと、議論が盛り上がりました。

<写真>左:会場の様子
右:JST岡谷参事役のパネル講演。ステージの様子は会場内のスクリーンで放映され、ツイッターのコメントがライブで流された

また、猪俣 弘司サンフランシスコ総領事が会場を訪問した際には、日本人参加者及び議長が一堂に会し、今回のような開発関連のグローバルな会合で日本のプレゼンスが大きいことを高く評価しました。今後もオールジャパンで取り組もうとの激励を受けて皆のモチベーションが上がったことが感じられ、私自身も「地球のために、未来のために」というSATREPSのミッションの実現に向けた決意を新たにしました。

SATREPS事務局 戸塚 麻友子

注1) インクルーシブ・イノベーションとは、特に途上国のポテンシャルに注目し、イノベーションのプロセスに途上国の人々を巻き込むこと。
注2) 熱帯雨林モデルとは、新たな種を生むのに熱帯雨林が肥沃(ひよく)な生態系を提供したように、イノベーション創出にはそれに適した生態的な環境が必要との認識に基づき、多様な役割を担ったステークホルダー間で、有機的かつグローバルな人的ネットワークの形成を推奨するモデルのこと。

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  • 「SATREPS」
  • https://www.jst.go.jp/global/
  • 地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)の略語。独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)が共同で助成し、地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3~5年間のプログラムです。現在、34カ国66のプロジェクトが実施されています。