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人々の生活や社会の発展を支え、未来を拓く鍵ともなる科学技術。
JSTは、日本の科学技術と社会、地球の未来を見据え、国際社会と協調しながら、長期的な広い視野を持って科学技術の振興を進めている。その事業は多岐にわたり、その制度設計から実施に至るまで多くの方々と協働している。JSTと志を同じくして国民の幸福や豊かさの実現に向けた科学技術を推進する人の思いと、それをサポートするJST職員。

今回はJST「低炭素社会戦略センター(以下、LCS)」1)で研究統括 松橋隆治氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科 環境学研究系 環境システム学 教授)をサポートするJST低炭素社会戦略センター 企画運営室 兼 研究開発戦略センター2) 環境・エネルギーユニット 福田佳也乃氏に松橋氏の魅力やJSTの果たす役割について聞いた。

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JST Partners JST低炭素社会戦略センター 企画運営室 兼 研究開発戦略センター 環境・エネルギーユニット 福田佳也乃氏_1

世論に後押しされてのLCS設立

2009年7月。LCS設立の検討が始まった。
福田によれば、この事業は研究開発戦略センター(以下CRDS)と文部科学省がほぼ同時に検討していたアイディアに基づき企画されたとのことだ。社会情勢から見ても本事業が必要とされるタイミングだったと言えるだろう。そして2009年9月22日、鳩山由紀夫 前内閣総理大臣が温室効果ガス排出量25%削減を世界に宣言した。これがLCS設立の追風になったそうだ。

「松橋教授は『低炭素社会を作るためには新しい技術を生み出すのも大事だけれど、その技術をどのようにして普及させればよいのかを考えるというのも大事です』と明言されたんです」。福田は当時を振り返る。
「初めて松橋教授にお会いしたときの印象ですか?そうですね、見た目は細身で声も穏やかなのですが、その体には熱い信念を持っているという印象でした。あ、でもとってもお優しいんですよ」

福田はLCSの設立に尽力したメンバーのひとりである。本件のJST担当者は、当時たったの3人。しかも、そのうち2人が他の部署との兼務であった。CRDSと兼務していた福田は、翌年度に向けた設立準備を進める中、急遽12月にLCSを設立するように命じられる。当時の世界情勢に鑑みて、迅速な対応が求められていたからである。
「もちろん、CRDSの一部にLCSを組み込む、という体制も考えられました。しかし低炭素化へのシナリオ作りを目的とするLCSは、必ずしも研究開発戦略に重点を置く訳ではありません。場合によっては、国策や物価の設定にまで踏み込んでシナリオを作成します。CRDSとは方向性が異なる検討も必要とすることから、別の組織とすることで動きが良くなると考えたのです」

新しいセンターをゼロから作る。そのためいろいろな相談を松橋教授にしたそうだ。例えばセンターはどのようなビジョンとミッションを掲げて活動するのか。研究員の方にどのような仕事をしてもらえばよいか。設立を公開するプレス発表資料はこれでいいか。記者会見の日程調整もある。LCSの設立に向けて決めるべき事、やるべき作業は多い。福田の帰りはいつも遅くなり、いつのまにか深夜になっていることも珍しくはなかったという。
「でも松橋教授はいつもすぐにメールを返信してくださって、しかも仕事用ではない個人のメールアドレスも教えてくれました。少しでも返信が遅くなると、済みません忙しくて、と丁寧に謝られてむしろ恐縮でした。相談ごとにも対しても、ではこうすれば良いのでは、と提案してくださるので本当に助かりました」

LCS事務所の設営

JST Partners JST低炭素社会戦略センター 企画運営室 兼 研究開発戦略センター 環境・エネルギーユニット 福田佳也乃氏_2

「設営にあたってはJST内の他の部署にも手を貸していただきました。ネット環境の整備をしたりメールアドレスを取得したり、パソコンの調達を行ったり。JSTのルールで経理を行うためのシステムを導入する必要がありましたし、什器の搬入もあります。さらにJST内部の例規を一部改正する必要もありました。ゼロからの立ち上げを少ない人数でやらなくてはいけなかったんです」
新しい研究をするためにはやはり集中ができる専用の研究場所が必要である。福田は周辺のビルをあたって場所探しを行った。

「4月に移転が決まったので、同じく立ち上げの担当者であった古旗さんがオフィスのデザインをし、内装工事の手続きを行いました。また、場所も広くとれる目途がついたので、研究員を多く雇用できるようにもなりました。その手続きにも苦労したようですが、いまでは非常勤の方を含めて、20名以上の研究員が集まってきています」
事務所を設営するのも大変だったようだ。“一カ所に人と物を集める”と口で言うのは簡単だが、そのためには手を必死で動かさなくてはならない。
実はその間にも、福田には別の大きな仕事があった。シンポジウム「日々のくらしのグリーン・イノベーション」3)の企画を行っていたのである。

「研究員の方には研究に集中していただかなくては」

シンポジウムの開催に際し、趣旨やプログラムを明文化しなくてはならならない。その案を作ったのも福田だった。一方、登壇していただく先生については山田副センター長から指示があった。
「当初2009年度中に行う予定でしたが、日程調整がうまくいかずに4月の開催になってしまいました。いくつかの業者さんとも契約をしていたのですが、こうなると年度をまたぐ契約になります。この手続きも非常に煩雑で、総務課の方に手伝っていただきながらなんとか進めることができました。その他、ホームページやポスター、チラシのデザインに関して業者さんとの打合せを行ったり、校正をしたり、当日の会場運営の打合せを行ったりという作業がありました。すべてひとりで取り仕切ったんですよ。兼務もあるので本当に大変でした。古旗さんも事務所の設営で忙しくて、お互い助け合うことはできなかったんですけど、励まし合ってなんとか進めたんです」

JSTの職員が公開シンポジウムを企画運営していたのですね。普通、学術的なシンポジウムは教員が事務手続きも行いますよね。てっきり研究員の方にもご助力いただいたのだと思っていました。
「研究員の方にはその貴重な時間を研究に注力していただかなくてはなりません。雑務は私たちJST職員がやります。その間に、研究員の方は環境モデル都市の13市区町を対象に、低炭素社会化への取組について分析されました。ホームページにも成果が公表されています4)」。結構面白いんですよ、と福田は満足そうに笑う。

JST Partners JST低炭素社会戦略センター 企画運営室 兼 研究開発戦略センター 環境・エネルギーユニット 福田佳也乃氏_3

三位一体での低炭素社会化

「JSTの事業は、やはり新技術の創出が中心です。じゃあ低炭素社会づくりのためにどんな技術開発を支援すれば良いのか。当初はその戦略を提案するのがLCSの役割という位置づけでした。しかしLCSは、低炭素化を確実に進めるために必要な技術とその普及策を提言するセンターとして活動を進めているのです」

では、低炭素社会化に関わる新技術創出はどこが担うのでしょうか。
「そのために先端的低炭素化技術開発事業5)(以下、ALCA)という別の事業が同時に立ち上がったんです。研究テーマの公募も始まっています。LCSで未来のシナリオを描き、それに必要な新技術開発の戦略をCRDSが立案する。そしてALCAが実際に技術開発を行う。この三つが上手く連携していくことで、低炭素化を促進できればと思っています」

JSTの事業が三位一体で進める低炭素社会化。LCSの設立を支えた福田は、そんな理想的なプランを目に映しながら研究者のパートナーとして働いている。

1) 低炭素社会戦略センターサイト https://www.jst.go.jp/lcs/

2) 研究開発戦略センターサイト https://www.jst.go.jp/crds/

3) シンポジウム「日々のくらしのグリーン・イノベーション」 https://www.jst.go.jp/lcs/result/sympo20100413/

4) 環境モデル都市の取組 (PDF:3.3MB) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/siryou/pdf/13EMCs.pdf

5) 先端的低炭素化技術開発事業サイト https://www.jst.go.jp/alca/

(文:米澤崇礼、写真:渡邉美生)
※本記事のJST職員所属部署は本記事掲載時現在のものです。

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