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JST news

JST newsは、国立研究開発法人科学技術振興機構(略称JSTの広報誌です。JSTの活動と、最新の科学技術・産学官連携・理数教育などのニュースを、わかりやすくご紹介します。

2015
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3月号 研究監メッセージ
「超スマート社会」をめざして

情報通信技術担当 研究監 稲上 泰弘

4月から始まる第5期科学技術基本計画では、「超スマート社会」の実現が重要な目標となっています。超スマート社会とは「必要なモノ・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会のさまざまなニーズにきめ細かに対応」とあり、人々に豊かさをもたらすのが目的です。

ところで、今から15~20年ほど前、「いつでも、どこでも、誰でも」インターネットにアクセスできる社会を「ユビキタス情報化社会」と呼んで、その実現に多くの人が取り組み、多様な技術が開発されてきました。「超スマート社会」をあえて「ユビキタス情報化社会」と対比するなら、「今だから、この場所だから、あなただから」の観点で、必要なモノ・サービスがインターネットを通じて届けられる社会といえるでしょうか。価値の高いサービスをインターネットからタイムリーに受け取ることによって、人々がより質の高い生活を送ることができる社会です。

もちろんその実現は簡単ではありません。さまざまな情報通信技術が必要になります。例えば、ある時、ある人が、ある場所で何を欲しているかをコンピューターが推測する技術。この中には、その人が居る場所などの外界情報を収集・認識する技術(センシング)、その人の感情も含めて何を欲しているかを調べる技術(感情把握)、その結果どんなサービスが必要かを適切に推察する技術(学習と推論)などです。また、文字・音声・画像だけでなく、触覚などを含めた五感情報を扱う技術も必要になるでしょう(五感による情報収集と認識)。コンピューターが人間と高度なやり取りをするための高度な人工知能技術が必要となるので、着実に技術開発を積み重ねる必要があります。JSTでも歩き方からその人の意図や心身状態を読み取る技術、触覚情報を遠隔通信していつでもどこでも手触り感を実感できる技術などの開発を進めていますが、さらに研究テーマを充実させ、超スマート社会の実現に貢献していきます。

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2月号 研究監メッセージ
健康長寿

ライフイノベーション担当 研究監 古市 喜義

日本の平均寿命が世界一を記録しているのはよく知られています。しかし、寝たきりにならず健康で長生きのできる健康長寿となると、シンガポールに抜かれ第2位に甘んじている状態です。2012年に策定された国民の健康づくりの指針となる第2次「健康日本21」では、平均寿命のみならず、介護を受けたり、病気で寝たきりになったりせず、日常生活を健康的に送ることのできる健康寿命にも着目し、その期間を延ばす方針を打ち出しています。

2013年度の「健康日本21」では、日本人男性の平均寿命が80.21歳に対して健康寿命が71.19歳、女性は86.61歳に対して74.21歳と、男性で9.02歳、女性で12.4歳の差が出ています。この差を縮めることは、元気な高齢者が増え、医療費や介護費の増加を抑える大きな効果にもつながるのです。

健康長寿の実現には、特定健診やがん検診などの受診率向上による早期発見・早期治療、メンタルヘルスケアや適度な運動と共に、日常の食習慣が重要です。昨今は、種々の健康食品が開発され、国内市場は1~2兆円規模となっています。植物や微生物に特有の代謝経路についての研究などから、今後も多種多様な天然化合物が発見されるでしょうが、まずその機能や安全性を科学的に評価・検証することが求められます。

“機能性食品”を含む、新たなコンセプトの高付加価値食品を創出するための研究と共に、老化のメカニズムを科学的に解明する大きなチャレンジが欠かせません。欧米先進国だけでなく、中国を始めアジアの国々も続々と高齢化の難題を迎えているだけに、日本の果たす役割は世界が固唾をのんで見守っているのです。

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12月号 研究監メッセージ
求む、若きチャレンジャー

グリーンイノベーション担当 研究監 古賀 明嗣

この号が出る頃には、パリでCOP21の国際会議が始まっていることでしょう。各国の危機感は高まっているとの報道もありましたが、前進できるのでしょうか。2010年に比べて2050年までに温室効果ガスの排出量を地球規模で40~70パーセント削減しなければならないとされています。しかし、2度の温度上昇内に収める目標は、もうほとんど不可能との見方も出始めています。6月号では、人工光合成や燃料電池車が普及したとしても、低炭素社会の実現は漠然と思っているより、はるかに難しいということを、具体的な数字でお示ししました。

先日、JSTの低炭素化技術開発事業(ALCA)で、事業統括、運営総括による座談会がありました。ALCAでは、2030年以降の低炭素社会に向け、化石燃料を使わずとも豊かな生活が続けられるようゲームチェンジングな技術開発に挑戦しています。そこで、「2050年までに低炭素化社会を実現するということは、今の若者がまさに中高年で活躍している時代だ」との話題が出ました。当然のことですが、一瞬、虚を突かれた感じがしました。

IPCCの報告書からは、このまま化石燃料の使用が増大するならば、相当厳しい環境が待ち受けていることがわかります。気温上昇、異常乾燥、豪雨、海面上昇など極端な気象現象が現れます。最近の日本でも「観測史上最高」「観測史上初」が頻発しています。あるいはもっと過酷な環境下で、今の若い人は生活を強いられることでしょう。それを何割の人が自分のこととして感じているでしょうか。

「だから、若い人にこそもっと低炭素化の研究開発に挑戦してほしい」と座談会で声があがりました。いでよ、若手研究者!

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10月号 研究監メッセージ
「国際光年」にあたって

ナノテクノロジー・材料分野担当 研究監 古川 雅士

「近代光学の父」と呼ばれるイブン・ハイサムの光学研究から1000年、アインシュタインの一般相対性理論の発表から100年、チャールズ・カオの光ファイバーの提唱から50年など、2015年は光に関して節目となる重要な年です。

そこで国際連合は、2015年を「光と光技術の国際年(国際光年)」とすることを宣言しました。多くの国際学術連合も、この宣言に積極的に賛同し、日本でも日本学術会議が中心となって、4月に行われた国際光年記念シンポジウムを皮切りとして、各種イベントや、市民との対話が行われています。

JSTでも11月15日(日)午後に、東京台場地域で開催されるサイエンスアゴラ2015の一環で、“「ひかり」を通して見る宇宙・時・わたしたちの歩みと未来”を開催します。気鋭のアーティストや最先端の研究者たちによる、光にまつわる魅力的な講演や実演が行われます。身近な存在の光を改めて見つめ直す機会として、多くの方々のご参加をお待ちしています。

この記念すべき年に、JSTでは、光の分野を中心とした、新たな技術シーズを生み出すことをめざして基礎研究に取り組む領域を発足させました(戦略的創造研究推進事業CREST・さきがけ)。新たなものづくり産業を創り出すためには、画期的なレーザー加工システムの登場が期待されています。高度情報化社会を支えるためには、革新的な光通信ネットワークの構築が必要です。細胞内部や複雑な物質などの「見えなかったものを見る」ためのイメージング技術の開発にも、光科学技術の進展が欠かせません。JSTでは、光分野の研究開発や光技術の社会への普及を一層進めていきたいと思います。

https://www.jst.go.jp/csc/scienceagora/
  場所・東京国際交流館、参加費・無料、参加登録・不要

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9月号 研究監メッセージ
トランスディシプリナリー・リサーチ(「超域」研究開発)

社会技術・社会基盤担当 研究監 泉 紳一郎

地球環境変動の緩和や適応、人口減少や高齢化のもたらす影響の克服、さらには自然災害の脅威への対応などが喫緊の課題となっています。こうした複合的な問題の解決をめざして研究開発を進めるためには、鍵となる新しい技術の開発が重要です。しかし、問題の社会的構造や現場の現実に根ざした取り組みがなければ、本当の問題解決にはならず、そこから新たな社会的価値を生み出すことは困難でしょう。

こうした研究開発で人文・社会科学と自然科学との連携-学際(インターディシプリナリー)研究-の重要性が高まっています。最近は、研究者だけでなく、企業や政策決定者、メディア、さらには一般市民などのさまざまなステークホルダーの知識や経験・能力を組織化する研究開発のやり方が求められています。「トランスディシプリナリー」と呼ばれており、日本語で「超域」と訳しています。地球変動と人間社会の持続可能性を探ろうとする国際的な研究開発の枠組み「フューチャーアース」でも、中心的な考え方となっています。

社会問題解決のための科学技術は、社会の側からどう投射されているのかという視点が研究開発をデザインする上で欠くことができません。また、新しい科学技術が時間的にも量的にも飛躍的な早さで社会実装されつつある時代にあって、常に社会の中の科学技術という視点を敏感にとらえ、社会との相互作用に想像力を働かせることが不可欠です。予想を超えるような事態にも、しなやかな復元力を社会の側に組み込むための研究開発が必要となるでしょう。これらを進める上でも新たな「超域」研究開発の考え方は重要な手がかりになるはずです。

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8月号 研究監メッセージ
豊かな暮らしを生み出す情報通信技術

情報通信技術担当 研究監 稲上 泰弘

情報通信技術が社会や生活を支える基盤となっていることは、スマートフォン 1 つを見ても実感できます。その基礎となる技術はコンピューターと、コンピューター同士を結ぶ通信、それらを使って情報を賢く処理するソフトウェアです。ところで、最初のコンピューターがどのくらいの能力だったか、ご存じでしょうか。1946 年に稼働したENIAC(エニアック)と最近のマイクロプロセッサーを比べると、約 200 万倍から 1,000 万倍高速になっています。たった 70 年で起こった、劇的な進歩です。

私たちの生活や社会の発展のためには、コンピューター、通信、ソフトウェアはこれからも革新的な発展が必要です。中でも重要と考えられている技術がビッグデータ処理です。多くの情報機器がインターネットにつながり、大量の情報がいろいろな形で得られる時代になりました。この状況は今後も着実に進展し、すべてのものがインターネットにつながっていくと予想されています(Io T)。大量のデータを解析することで、まったく気づかなかったことが見えてくることがあります。例えば、地震のときに避難した人たちの携帯端末やカーナビの情報を集めると、人々がどのような動きをしたかがわかり、今後の防災対策に生かすことができます。

人間はデータを手にすると、そこから学習してさまざまな知識を得、それを知恵に変えて日々の行動に反映させます。コンピューターにおいても、多くの情報から知識を得、知恵に変えていく人工知能が研究されています。この技術が進むと、コンピューターと人間が一緒になって、より知的な未来を切り開くことができるでしょう(超スマート社会)。

ビッグデータ、Io T、人工知能の技術を大きく発展させることが、より良い未来への鍵となります。JST もこれらの技術分野の研究開発を積極的に進め、情報通信技術が支える豊かで人間らしい暮らしの創造、住み心地の良い社会の実現、新しい産業やサービスの創出などに向けて、力を尽くしていきたいと考えています。

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7月号 研究監メッセージ
夢を現実に!

ライフイノベーション担当 研究監 古市 喜義

今後の超高齢化社会に向かって「食料」「環境」「健康」分野などで多様な社会的ニーズを満たすことが求められていますが、その課題解決のためにはバイオテクノロジーなどの最先端の科学技術を生み出すことが極めて重要です。

1970 年代初めに遺伝子組み換え技術が発明されると、一躍脚光を浴び、医療をはじめ、さまざまな分野に大きな影響を与えてきました。1つの画期的な科学技術が、社会的に大きなインパクトを与えたという代表例であると思います。

最近では、2012 年のノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授の注目すべき研究があります。マウスやヒトの皮膚細胞に4 種類の遺伝子を導入することで、さまざまな細胞になりうる能力をもった人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発に世界で初めて成功しました。解決すべき課題はまだ残っているものの、再生医療や治療法の見つかっていない遺伝病などの難治疾患への応用に向けた研究が着々と進められています。

また、サイエンス・フィクション(SF)の世界でしか考えられなかったことも、科学技術の進歩により一部現実のものとして報告されるようになってきました。昨年末に東京大学の上田泰己教授の研究チームが、マウスの臓器や全身を丸ごと透明化する技術を世界で初めて報告しました。透明化で各臓器や細胞1つ1つの識別が可能となることから、個体レベルでの生命現象をとらえ、その現象を解明する研究に貢献すると期待されています。いまはまだ生きた状態では透明化できませんが、全身透けているマウスが歩いている姿を空想してしまいます。

このように、科学技術は信じられないスピードで進歩しています。今まで不可能だったこと、夢だったことを、現実のものとできるような画期的な科学技術が続々と発明されることを期待しています。

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6月号 研究監メッセージ
手強いCO 2 削減への道

グリーンイノベーション担当 研究監 古賀 明嗣

低炭素化社会へ移行することは待ったなしの状況です。地球規模で2010年に比べて2050年までに温室効果ガスの排出量を40 ~ 70パーセント削減しなければならないとされています。

「低炭素化社会への移行は、なんとかなるのでは」と、何となく思っていませんか?

人工光合成という研究があります。植物がCO2 を吸収して有機物に固定化するのを、半導体などで人工的に行うという夢のある研究です。最近も新聞で取り上げられ、「2020年、年間10トンのCO2 を吸収して6,000リットルのエタノールを生産する敷地面積1ヘクタールの人工光合成プラントを稼働させる」という目標が書かれていました。技術的には極めて革新的な挑戦ですし、明るい未来を予感させます。

では、実社会で考えてみましょう。日本の年間のCO2 排出量は約14 億トン、その1パーセントのCO2 を吸収するとしても、前述の技術でも140万ヘクタール(1.4万km2 )が必要になります(ちなみに、四国の面積が1.8万km2 )。

もう一つの例。燃料電池車の販売が開始されました。いよいよ「水素社会」への期待が高まります。15年後に200万台が保有されているとしましょう(おおよそハイブリッド車の普及ペース)。それでも日本全体のCO2 削減は、0.4パーセント程度にしかなりません(日本国全体の自動車保有台数が約8千万台、そのCO2 排出の割合は日本全体での15パーセント、燃料の水素は全て再生可能エネルギー由来とする)。

ですから、少々のことではCO2 排出削減はびくともしないでしょう。しかし、いつ、どこでかはわかりませんが、ブレークスルーが生まれてくることは歴史が証明しています。もちろん、「挑戦し続けること」が大前提です。日本からぜひ出てきてほしいものです。人類の英知に期待しています。

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5月号 研究監メッセージ
研究環境と発想の転換を

ナノテクノロジー・材料担当 研究監 古川 雅士

「研究監」とは、JSTでの重点分野ごとの研究開発を一気通貫でリードする役割を負っており、私は「ナノテクノロジー・材料」分野を担当しています。この分野は、環境、エネルギー、情報通信、健康・医療など、私たちの生活にも直結する幅広い横断的技術としてますます重要さを増しています。物質等の原子・分子レベルでの新たな理解を手がかりに、「新機能の実現」に取り組み、わが国の基幹産業を支える要として高い国際競争力を有しています。2000年代以降は、特に国を挙げての重点的な取り組みが功を奏し、原子・分子を自在に制御するさまざまな要素技術や、それらを融合した新機能・デバイスの検証などが進み、一部は実用化へと進んでいます。

さて、この分野で今後もわが国が世界的優位性を保ち続けるには、研究環境や発想を大きく転換させる必要があります。研究環境の転換では、従来型の研究グループ内での集中的な研究と平行して、「SPring-8」や「京(スーパーコンピューター)」、「ナノテクノロジープラットフォーム」などの最先端の研究ポテンシャルを最大限活用する流れを、オールジャパン体制で作り上げることが挙げられます。発想の転換では、将来の材料開発につながる新物質・新機能探索で、材料データ群の徹底した計算機解析による新たな設計手法(マテリアルズ・インフォマティクス)を確立することが挙げられます。いずれも、原子・分子レベルでの理解という基盤的研究から、将来の技術・材料を生み出す“出口”までを見すえて加速することが強く望まれています。

魅力ある研究環境とそこで展開される研究テーマは、異分野・異業種の人材交流をも促進し、若手研究者の育成・刺激にもつながると期待できます。関係者の協働をさらに促進し、横断的技術としての進化を図り、新たな時代の要請に積極的に応えていきたいと考えています。

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編集発行/国立研究開発法人 科学技術振興機構 総務部広報課
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