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新規作出繭を用いた結城紬の試作開発

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背景と目的

(国)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で新たに作出された「くも糸シルク」繭は、従来シルクと同様の光沢や柔らかさを持ちながら、強くて伸びが良く切れにくい特徴を持ち注目を集めている。国産の繭であるくも糸シルク繭の新規性や機能性を活かすことで、ユネスコ無形文化遺産「結城紬」の新商品開発が期待できることから、結城紬へのくも糸シルクの適用可能性を検討した。

くも糸シルク結城紬の試作

くも糸シルクで結城紬を試作し、目付、厚さ、保温性、通気性、風合い物性、強伸度、摩耗強度のデータを取得し、従来品と比較することで新規材料を使用した結城紬が持つ特性について調べた。また、結城紬として適用できるかどうか農研機構の技術を参考に新たな知見を見出し、各製作工程における作業状況についても作業者から意見を徴しその特性を見出すヒントを得た。

【従来の工程との作業性の違い】
煮繭    :通常の方法により作製可能
真綿掛け  :多少かけづらいが、通常通り繭5、6個で真綿作成が可能
手紬糸作製 :わたの引きが弱く、細い糸がとりにくい
地機織り  :糸切れがほとんどなく、短時間で製織可能

くも糸を使用した結城紬の特性

【目付と厚さ】
従来の結城紬に比べて、くも糸織物は目付が大きいが、厚さは0.278㎜と若干薄い織物となった。作った手紬糸が太めだったことと、ヨコ糸の打ち込み本数がやや少ないことが影響していると考えられる。
【引張強伸度】
くも糸織物の引張強度はタテ・ヨコ方向ともに従来品より強く、伸びに関しても両方向ともに伸度が大きい。強くて伸びが良いと言われるくも糸の特性が反映されたと考えられる。
【保温性と通気性】
従来品は保温性が23.7%で一番高く、通気性が9.3%と一番低いため、体温で暖められた空気が外に逃げづらく、よって暖かいと感じることがわかる。くも糸織物についても従来品と比べると少し数値は下がるが、保温性が高く、通気性が低いという傾向があるため、従来品と同様に暖かく感じる特性を持つと考えられる。
【摩耗強度】
従来品が53回に対して、くも糸織物が80回と従来品に比べて摩耗強度が強いことが確認できた。
【風合い物性】
曲げ試験における曲げ特性の結果から、くも糸織物は2HB(ヒステリシス)の数値が小さいことから、曲げた後の戻りも良く、着心地にはプラスに働く特性を持つことが考察できる。
せん断試験におけるせん断変形の結果からは、くも糸織物や結城紬は2HG(せん断角0.5°におけるヒステリシス)の数値が小さいため、変形後の戻りが良いことがわかった。
曲げ変形とともに、せん断変形後の戻りの良さ・回復性は、着用した時の微小な動きに対しても生地が元に戻りやすいという特徴を示し、着心地を考慮する際、重要な特性として評価できる。

蛍光シルクmAG繭を用いた「いしげ結城紬」の試作開発

本研究成果を元に農研機構・奥順株式会社と共に蛍光シルクを用いた「いしげ結城紬」について現在試作開発を進め、特性および工業化のための研究も推進している。
*原料に使用されている蛍光タンパク質mAGは、国立研究開発法人理化学研究所及び株式会社医学生物学研究所により開発されました。

研究開発機関情報

機関名:茨城県産業技術イノベーションセンター繊維高分子研究所

部署名:紬技術部門

研究責任者:主任研究員 本庄 恵美

支援プログラム

事業名:マッチングプランナープログラム企業ニーズ解決試験 

研究課題名:結城紬の着衣安定性に関する研究

支援期間:平成28年6月~平成29年3月

研究開発に関するお問い合わせ

茨城県産業技術イノベーションセンター繊維高分子研究所

紬技術部門 主任研究員 本庄 恵美 TEL:0296-33-4154

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