成果概要
子どものこころを支援する触覚パートナー[1] 子どものこころを支援する触覚パートナー
これまでの進捗状況
1. 概要
本プロジェクトでは、非接触で多様な触感を再現できる触感再現技術によって、子どものこころの状態を改善する技術を開発しています。触覚パートナー、すなわちパートナーとなるAIが、視聴覚に加えて触覚を様々な身体部位に生成し、感情に働きかけます。心地よさ・安らぎと強く結びついた触覚によって子どものこころを安定させるとともに、望ましいこころの反応を体得するのを助けます。それぞれの子どもの好みや状況に応じて触覚パートナーの外見や触感も変化し、一人ひとりにとって最適なパートナーとなって子どものこころを導きます。
これまでに、養育者が子どもに優しく触れたときに子どもが感じると想定される触覚を、空中超音波によって合成できか、検証してきました。具体的には、空中超音波による触覚刺激を現実物体による心地よい刺激と比較し、ほぼ同等、個人によっては現実物体以上の快刺激を生成できることを、成人に対する心理物理実験によって確認しました。

2. これまでの主な成果
下の写真のように、超音波の触覚刺激と、現実の物体との接触を、プログラムで切り替えて体験できる装置を製作しました。この装置を用い、超音波の触覚提示について事前知識のない31名の実験参加者に、それぞれの触感を回答してもらいました。実験の際には自分の手元は見えないように布で隠しています。
軽く触れた際に心地よく感じる代表的な物体、すなわちウレタンゴム、柔らかい筆、布、などと、超音波によって生成されたいくつかの刺激サンプルに対して、柔らかさ、滑らかさ、温かさ、心地よさ、覚醒度(緊張/興奮)、くすぐったさ、の6項目について0から10までの数字で回答してもらいました。

まず、一連の実験の直後に、超音波の刺激がどのように感じられたか、言葉で答えてもらった結果は次の図のとおりでした。全体の48% は、超音波の刺激は筆あるいは綿が触れたような感覚だったと答えました。続いて風のように感じた実験参加者が13%、人肌を含む他の物体、あるは物体を特定できなかった、という回答を合計すると26% でした。
参加者の約半数は、毛筆あるいは綿のような物体との接触に近い感覚を感じていたことが分かりました。
また、超音波による刺激と実物体との接触とを、快の度合いについて比較した結果を下の図に示します。快の度合いの分布は、毛筆、ウレタンゴムなど、心地よい触感を代表するサンプルについての分布と比較して、大きな違いは見られない結果となりました。

3. 今後の展開
超音波でも現実の物体と同様に心地よい触覚が生成できることが確認されました。今後はこの結果をさらに検証するとともに、子どものこころの状態遷移を検証する研究へと進む予定です。
(篠田 裕之:東京大学、北田 亮:神戸大学)