成果概要

大規模・高コヒーレンスな動的原子アレー型・誤り耐性量子コンピュータ[1] 大規模・高コヒーレンスな動的原子アレー型・誤り耐性量子コンピュータ

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発テーマでは、レーザー光によって原子を個別に捕まえる「光ピンセット」という技術を用いて、冷却原子量子ビットを大規模に配列させた、実用的な冷却原子型・誤り耐性量子コンピュータを構築します。特に、計算途中での各々の原子量子ビットを自在かつ高速に移動させ、ゲート操作、誤り検出・訂正を行う動的な量子ビットアレーを実装します。さらに、一流のアカデミアと産業界との緊密な連携の下に、真空容器、レーザー光源、光学系、電子機器及びイメージングデバイス等の全ての構成要素を統合・パッケージ化し、従来に無い高い安定性とユーザビリティを達成します。これらのイノベーションにより、大規模な原子量子ビット配列を安定かつ高精度に制御し、2050年までに経済、産業、安全保障に革新をもたらす誤り耐性量子コンピュータを実現します。この実現のため、次の項目について研究開発を進めています。
原子量子ビットを収める真空容器の開発及び量子ビット配列の大規模化を通じたスケーラブルな冷却原子型量子コンピュータプラットフォームを実現していきます。また、エラーの少ない高コヒーレンス・高精度な量子ビット操作の開発を進めます。加えて、冷却原子の持つ特徴を活かした新たな量子誤り検出・訂正アーキテクチャの開発を理論・実験の両面から進めていきます。上記の研究開発の基盤となる冷却原子型量子コンピュータ専用のレーザーシステムの開発も平行して実施します。なお、量子ビットについては、多様性の観点からルビジウム(Rb)原子、イッテルビウム(Yb)原子及びストロンチウム(St)原子について研究開発を実施しています。

2. これまでの主な成果

量子コンピュータプラットフォームの開発においては、QPU(Quantum Processing Unit)の仕様策定を完了し、具体的な設計、基礎的な実験に着手しました。
量子ゲートの開発においては、コヒーレンス時間を測定し、ダイナミカルデカップリングによるコヒーレンス時間の延伸に成功し、1量子ビットゲート操作時間と比べ100倍以上のコヒーレンス時間を実現しました。

図

また、原子の波動関数スクイージング、800ピンセット整形・均一化・全自動化に成功しました。
量子誤り検出・訂正アーキテクチャ開発においては、非破壊測定の予備的な成果を得ています。今後はパラメータの最適化を進めます。
高安定・高強度レーザーシステムの開発においては、新規レーザーシステム(ゲート操作用パルスレーザー及び原子トラップレーザー)の設計を完了しました。

トラップレーザー仕様
トラップレーザー仕様

3. 今後の展開

今後は、スケーラブルな量子コンピュータプラットフォーム開発においては、設計に基づき、ColdQuanta, Inc. d.b.a. Infleqtionと協力して各モジュールを統合した小型冷却原子系QPUの構築を進めます。また、リソース管理機能などを統合した量子オペレーティングシステムプロトタイプの開発も進めます。 高コヒーレンス・高忠実度量子ゲート開発においては、先行研究などを参考にし、誤り耐性の理論面で藤井啓祐氏(阪大)と連携し、さらに長いコヒーレンス時間の実現を進めます。高安定・高強度レーザーシステムの開発においては、大規模量子ビット配列のための原子トラップレーザー光源の高出力化、超高速量子ゲートのための高安定なパルスレーザー光源の開発等を進めていきます。