成果概要

ネットワーク型量子コンピュータによる量子サイバースペース[4] 超伝導ネットワーク型技術

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、超伝導方式量子コンピュータのネットワーク化および分散による大規模化に必要不可欠な「量子トランスデューサー」の実現を目指して取り組んでいます。量子ビットの量子情報を担うマイクロ波光子を、極低温環境において光波長の光子に変換するための基盤技術として、ダイヤモンド中の窒素空孔中心(NV中心)の電子スピンを媒介としたトランスデューサーの開発を進めてきました。
この達成に向けて、バルクダイヤモンド結晶を含んだ光共振器の実装、極低温における光共振器の安定動作、およびマイクロ波共振器との複合化等の挑戦的課題に取り組んでいます。これらの課題を達成するために、振動が非常に低レベルで特殊な仕様の冷凍機を考案・設計して使用しています。

図1
図 1 本研究開発項目の目指す量子トランスデューサーの概念図(青:マイクロ波光子、赤:光波長の光子)。

2. これまでの主な成果

  • ① 無冷媒希釈冷凍機中に設置した光共振器を極低温においても安定的に動作させることに成功しました。
  • ② 片側に反射防止膜、もう片側に高反射膜をコートしたバルクダイヤモンド結晶が光共振器中に置かれた状態でも光共振器を極低温において安定動作させることに成功しました。
  • ③ マイクロ波―光複合共振器デバイスを設計・試作し、極低温において特性を評価しました。
  • ④ 本研究開発で取り組んでいる量子トランスデューサーのシミュレーションを行いました。
  • ⑤ コヒーレント状態でのマイクロ波-光変換を実現しました。

上記において、①は超伝導や半導体方式の量子コンピュータに必須な極低温環境を実現する無冷媒希釈冷凍機内で光共振器を安定的に動作させることに成功しました。無冷媒希釈冷凍機内ではコールドヘッドのパルス管が振動するため、冷凍機を運転した状態で光共振器を安定的に動作させることは困難とされていました。②はバルクのダイヤモンドが内部に置かれた光共振器が安定的に動作することを実証し、本研究開発で取り組んでいる量子トランスデューサーの方式が原理上動作することを示すことができました。③は本研究開発で取り組んでいる量子トランスデューサーデバイスの設計そのものです。ダイヤモンド結晶をマイクロ波と光共振器の両方のモード内に置く必要があるので、これを実現する複合共振器デバイスを設計・試作・評価しました(図2)。また、極低温においてこの複合共振器デバイスを用いて電子スピン共鳴の実験を行い、スピン集団との強結合や緩和時間測定に成功しました。④は本研究開発で取り組んでいる量子トランスデューサーのマイクロ波―光変換の理論を構築し、変換効率をシミュレーションしました。⑤はコヒーレント状態のマイクロ波から光への変換の初期実証に成功しました。現在は超伝導量子ビットによって生成される真に非古典的な状態に対するマイクロ波―光変換の実験を進めています。

図2
図 2 複合共振器デバイス。(挿入図)光共振器を安定化させるために片側のミラーがピエゾ素子に取り付けられており、これにより向かい合う2つの高反射鏡の距離を調節することが可能になっています。

3. 今後の展開

本研究で開発している量子トランスデューサーデバイスと超伝導量子ビットを用いて、非古典的なマイクロ波量子状態(猫状態、重ね合わせ状態など)の光への変換実証を行う予定です。加えて、マイクロ波および光の量子メモリ動作の原理実証にも取り組み、量子ネットワークを介した超伝導量子コンピュータの大規模化に必要な基盤技術の確立を目指します。
また、超伝導量子コンピュータプロジェクトの山本剛PMや、Q-LEAP「超伝導量子コンピュータの研究開発」中村泰信チームリーダー、野口篤史PIらとの連携をさらに強化し、実用化に向けた研究開発を推進します。