成果概要
ネットワーク型量子コンピュータによる量子サイバースペース[3] 半導体ネットワーク型技術
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目では、半導体量子ドット中の電子や正孔の持つスピンを量子ビットとする半導体量子コンピュータをネットワーク化するための光子とシリコン量子ビットの量子インターフェース技術とシリコン量子ビット間結合技術を開発します。加えて半導体量子コンピュータの光ネットワーク接続技術の開発も推進します。これらの研究開発項目の達成により、半導体量子コンピュータのネットワーク化の要素技術を確立し、ネットワーク型量子コンピュータによる大規模化を開拓します。これにより目標6で目指す誤り耐性型汎用量子コンピュータ実現に貢献します。
この達成に向けて、シリコン量子ビットで構成されるNISQ規模の量子コンピュータをネットワーク化するシリコン量子ビット間の中長距離接続技術や、通信波長帯光子との量子インターフェースとしてのゲルマニウム正孔量子ドット、さらにもつれ光子対から遠隔スピン量子ビット間のもつれ生成など、半導体量子ビットの高い電気制御性、集積性、さらに光デバイスとしての通信波長帯光子との結合など多くの利点を生かした新しい量子インターフェースとネットワーク化基盤技術の開発に挑戦します。これまでは単一光子から単一電子スピンへの量子状態変換の実証にとどまっており、本プロジェクトで、シリコン量子コンピュータのネットワーク化と光ネットワーク接続による大規模化を目指した要素技術の研究開発を推進します。

2. これまでの主な成果
(1) シリコンスピン量子ビット間結合、光子―シリコン量子ビット間量子インターフェースのための超伝導共振器―量子ドット強結合系の実現
超伝導共振器のマイクロ波とスピン量子ビットを結合させ、チップ上で離れたシリコン量子ビット間さらには小規模シリコン量子コンピュータ間の結合の実現を目指しています。この方法は100μm以上の比較的長距離の結合が可能になる特徴があります。そのためにはスピン量子ビットとマイクロ波光子とのより強い結合が必要です。これを実現するために独自の知見として多重量子ドットでの高速ラビ振動とノイズ抑制法を導入し、離れたシリコン量子ビット間をより高速にかつ高精度で結合することに取り組んでいます。そのためにNbTiN高インピーダンス超伝導共振器を設計・作製しました。また共振器と結合させる多重量子ドットの設計と作製も進めています。
(2) ゲルマニウム量子インターフェースに向けた光照射下の安定性の評価
光ネットワークとシリコン量子コンピュータを接続する量子インターフェースとして通信波長にバンドギャップを持つゲルマニウムスピン量子ビットが有望です。我々は本プロジェクトで光子偏光状態から正孔スピン状態への量子状態変換の独自方法を提案しています。量子インターフェース動作では、従来の砒化ガリウム量子ドットでは、光照射により欠陥準位から電子濃度が永続的に生成され、量子インターフェース動作を不安定にさせる一因になっていました。そこで量子ドットを形成するゲルマニウム量子井戸基板に対する量子状態変換波長の光照射の影響を調査したところ、顕著な正孔濃度の変化は観測されず、光照射下でも安定して動作する可能性を示しました。
またこれまでの砒化ガリウム量子インターフェースでの知見を加えてゲルマニウム量子インターフェースのためのゲルマニウム正孔量子ドットの開発を推進しています。

3. 今後の展開
今後は、早期にゲルマニウム量子ドットを実現し、量子インターフェースとしての動作確認を行うとともに、超伝導共振器とシリコンやゲルマニウムスピン量子ビットの強結合の原理実証を行い、超伝導共振器によるシリコン量子ビット間結合と、ゲルマニウムスピン量子ドットを介した光子―マイクロ波光子量子インターフェースの実現へと展開します。また光ネットワーク化によって大規模化を図るため、もつれ光子対から遠隔2スピン量子ビット対のもつれ生成の実現を目指します。