成果概要

ネットワーク型量子コンピュータによる量子サイバースペース[3] 半導体ネットワーク型技術

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では、半導体量子コンピュータをネットワーク化するための光子とシリコン量子ビットの量子インターフェース技術とシリコン量子ビット間結合技術を開発します。加えて光子による半導体量子コンピュータのネットワーク化技術の開発を推進します。これらの研究開発テーマの達成により、ネットワーク型量子コンピュータによる大規模化の道筋が得られ、ムーンショット目標6で目指す誤り耐性汎用型量子コンピュータの実現に貢献します。
この達成に向けて、シリコン量子ビットで構成された小規模量子コンピュータをネットワーク化するために、シリコン量子ビット間の中長距離接続技術、通信波長帯光子との量子インターフェースであるゲルマニウム正孔量子ドット、もつれ光子対を用いた遠隔スピン量子ビット間のもつれ生成技術などを研究しています。半導体量子ビットの高い電気制御性、集積性、さらに通信波長帯光子との結合性など多くの利点を生かし、新しい量子インターフェースとネットワーク化基盤技術の開発に挑戦します(図1)。

図1
図1 半導体量子コンピュータネットワーク接続

2. これまでの主な成果

①多重コンベヤーベルトスピンシャトルの開発

シリコンスピン量子ビットの大規模化の方法として、小規模な量子演算システムを量子的に接続する中長距離接続技術がスピン量子ビット開発の重要な課題になっています。我々はこれまで超伝導共振器法、あるいは半導体量子ドットの1次元アレイを使ったスピン鎖法として、スピンシャトル法の研究を樽茶プロジェクトの藤田グループと連携して進めてきました。シャトル法の中でも、位相が異なる複数の正弦波信号で駆動するポテンシャルによりスピン量子状態を移送するコンベヤーベルト方式が有力な方式となりつつあります。そこで我々はスピン量子ビットを密に配置した2次元量子ビットアレイのための量子接続として伝送路を多重化した多重コンベヤーベルトシャトルを提案しました(図2)。複数の伝送路を並列に配置することで2次アレイの一辺の量子ビットを別のアレイの一辺の量子ビットと接続します。今年度、三重伝送路の作製方法を検討し、試作を行いました。

図2
図2 (a) 三重コンベヤーベルトシャトルデバイスの概念図と(b)三重伝送路の電子顕微鏡写真
②三重量子ドットを含む超伝導共振器と極低温ピエゾステージ光照射システムの構築

シリコン量子ビットを光量子ネットワークへ接続するための光子―スピン量子インターフェースとして、最終的に通信波長帯で動作するゲルマニウム量子ビットを有する超伝導共振器強結合系の開発を目指しています。その強結合化には一昨年に達成した三重量子ドットでの増強Floppingモードを用います。原理実証実験を目指し、GaAs三重量子ドットを含むNbTiN高インピーダンス超伝導共振器を作製しました(図3)。その光量子インターフェースとしての機能実証実験のために、光ファイバーで希釈冷凍機中に伝送された光子をピエゾステージにより精密にスピン量子ビットへ照射することが可能な、極低温光照射システムも構築しました。

図3
図3 GaAs三重量子ドットを含む超伝導共振器

3. 今後の展開

多重コンベヤーベルトスピンシャトルの実証実験を遂行するとともに、その拡張性についてさらなる検討を行います。また増強Floppingモードによるマイクロ波光子とスピン量子ビットの強結合の実証を行い、ゲルマニウム量子ビットへと展開します。さらに構築した極低温光照射系を使い、光子からマイクロ波への量子インターフェース機能の実証実験や、2台の希釈冷凍機を用いた光子対からスピン対へのもつれ変換実験へなど、一層、スピン量子ビットの量子ネットワーク型量子コンピュータのための要素技術開発を目指した研究を推進します。