研究開発の概要
人・AI ロボット・生物サイボーグの共進化による新ひらめきの世界
1.プログラムにおける位置づけ
AIロボットから人が気づきなどを得て、行動変容するためのAI技術の開発を加速・強化するプログラム全体の取組のうち、本プロジェクトは「未知環境における群行動創発AI」の研究開発を行うプロジェクトと位置づけられます。
生物は不確かな環境情報しか得られないにも関わらず、環境に応じて巧みに行動します。本プロジェクトでは、そのような生物の「行動ルール」を抽出し、「制御ルール」を設計、ロボットに適用することによって、生物の巧みさを活かしつつ所望の自己組織化を創発させるAI技術を研究開発します。人とロボット、生物サイボーグが協働・共進化する「新ひらめきの世界」の実現を目指します。
2.研究開発の概要及び挑戦的な課題
前述の目標達成のために、以下3つの研究開発テーマを実施します。
①生物サイボーグ群開発エンジン
生物の「行動ルール」の抽出や、設計した「制御ルール」の適用のため、昆虫に神経電極やその他の電子回路のボードを搭載した「生物サイボーグ」を開発します。生物をサイボーグ化することで、生物自身の知覚・行動情報や周辺環境情報を抽出し、さらに知覚や行動への働きかけが可能となります。これにより、神経電極を介した電気刺激や音・光・熱などの環境変化を通じて、生物の行動(前進、回転、後進、左右並進など)を誘因する方法の開発に挑戦します。
開発した生物サイボーグを用いることで、従来のシミュレーション等の手法とは異なり、生物の知覚・行動への直接的な働きかけを通したモデルの検証、改良が初めて可能になります。これにより、生物の振る舞い(生物の行動ルール)をよりよくモデル化することができるようになります。
②自己組織化プラットフォーム
生物サイボーグを通じて得られたデータから生物の行動を学習し行動ルールを抽出するAI技術と、行動ルールに付加的な制御を入力することで所望の自己組織的な振る舞いを創発させる制御ルールを設計するAI技術からなる「自己組織化プラットフォーム」を開発します。さらにその応用によって、ロボットの自己組織的な協調作業を可能にすることを目指します。
行動ルールの抽出に関して、生物を対象に連続状態かつ決定論的な行動ルールを抽出する手法は従来技術にはなく、本研究開発の挑戦的な点です。また、制御ルールの設計に関しても、均一な条件設定等で検討された従来技術に比べて、「極めて個体差が大きい生物を対象とする点」「自由に振る舞う生物を制御することで自己組織化させる点」「限定的な制御によって所定の自己組織的な振る舞いやタスクを実行させる点」などが本研究開発の挑戦的な点です。
③生物活性度計測
生物の巧みさを活かした自己組織化を創発させるためには、生物の快・不快度など生物活性度を反映した行動ルールを抽出し、これを考慮した制御ルールを設計する必要があります。そのために生物の知覚・行動情報から生物の活性度を定量的に計測する方法を確立します。生物の真の情動は根本的にはわかりませんが、生物にとっての快・不快を想定して環境を構築します。そこでの生物の生体情報や行動情報を計測し、環境との関連を検討することで、生物の情動の定量化へと繋げます。
3.今後の展開
行動ルール・制御ルールを適用した群ロボットにより、難環境における自己組織的な協調作業の実現を目指します。2050年には、人とロボット、生物サイボーグが協働・共進化する「新ひらめきの世界」の実現を目指します。