研究開発の概要

ありたい未来を共に考え行動を促すAIロボット

1.プログラムにおける位置づけ

人生には、その時さし迫った必要性を感じないが、後から振り返ると、やっておいてよかった、もしくは、やらなければ大変なことになるところであった、と実感されることがあります。そういった大切なことに、必要なタイミングで気づいて、行動を起こすことができれば、一人一人の人生がよりよいものになり、人がお互いに余裕を持って助け合える社会が実現することが期待されます。本プロジェクトで目指すAIロボットは、利用者の成長を促す気づきを与え、行動を起こせるよう支援するものです。目標3が目指す「人と共生するロボットの実現」に貢献します。
日本が世界に先駆けて経験している高齢化は、低中所得国を含む世界中で進むと予想されています。超高齢社会において、誰もが直面するのが、加齢に伴う身体、認知機能の低下です。これには対策があるにも関わらず、実際に必要な行動をしている人は少数で、多くの人が高齢期に生活が成り立たなくなり、社会全体で支えきれなくなる問題が発生し、2050年に向けて深刻化することが予想されます。その中で、機能の低下を遅らせ、機能が低下しても生活に支障を来さないための対策となる行動を、毎日の生活の中で取り入れることを支援するAIロボットを社会実装することで、一生にわたって人が成長し、助け合うことができる社会を実現します。

図1)毎日の生活で使えるように設計されたロボット
図1)毎日の生活で使えるように設計されたロボット

2.研究開発の概要及び挑戦的な課題

人に気づきを与え、行動を促すことは、人にとっても難しいことです。特に、高齢になってから、それまでと異なる行動を生活に取り入れ、習慣化することは至難の業です。フレイル予防、認知症予防の現場には、生活の質を高める上で有効な行動ができるよう支援する、高い技能を持つ熟練支援者が存在します。現在の技術課題は、熟練した支援者にある暗黙知が抽出、構造化されていないことと、構造化されたとして、それを実装する技術が存在しないことが挙げられます。本プロジェクトの独創的な点は、実在する熟練支援者をモデルに、熟練支援者の有する暗黙知、具体的には、人の状態を読み取り、個性を理解した上で、よりよい状態に向かうよう、継続的なやり取りを通じて働きかける技能を、抽出、解析、構造化し、各種生体情報を収集解析することで、AIロボットに実装することです。さらに、自ら学ぶ協働アブダクション能力を持ち、熟練支援者の絶妙な支援スキルを学習し、利用者の状況を把握して、利用者の問題解決と夢の実現を支援する機能・能力を持たせることで、熟練支援者を超えるAIロボットを開発します。
人の状態の読み取り技術には、表情や音声に基づく感情認識などの技術が存在しますが、熟練支援者がどのような状態を読み取っているのか自体解明されておらず、それを読み取る技術を開発することは極めて挑戦的です。また、適切な行動を促すプログラムは目的に応じて数多くありますが、プログラムの内容を実行するための動機づけをする支援者を必要とします。人手によらず、状態や個性に応じて行動を促す働きかけをする技術を開発することは、極めて挑戦的です。

図2)熟練支援者の技能を学習するAIロボット
図2)熟練支援者の技能を学習するAIロボット

3.今後の展開

熟練支援者の暗黙知と利用者の生体情報を収集解析することで利用者の状態を認識する技術と、更に利用者の内部状態や各人の特徴に応じて、利用者が、よりよい方向に向かうための介入知識を生成する技術の開発を進めます。このアルゴリスムを各種ロボットプラットフォームに実装、実証しながら改良を進め、利用者の人生に寄り添い、人とAIロボットが共に成長する世界を目指します。

図3)各種生体情報(脳波データ)の収集と解析
図3)各種生体情報(脳波データ)の収集と解析