低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書

LCS-FY2020-PP-01

日本における蓄電池システムとしての揚水発電のポテンシャルとコスト(Vol.3)

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概要

 太陽光発電や風力発電などの変動する再生可能エネルギー(VRE)の年間発電量に対する割合が各国で増えており、今後電力系統の安定化のための様々な対策が必要とされるなか、電力貯蔵および調整機能として揚水発電の重要性が注目されている。

 電力貯蔵方式の一つの揚水発電は貯蔵の規模、設備コスト、応答速度、慣性力を持つ電源であることなどから系統安定化の有効な蓄電システムとされている。日本では全国に約40か所の揚水発電所があるが、ほとんどが0.2~2 GWの大規模発電所であり、分散するVREの調整には適さない。今後は中小規模の分散した安価な揚水発電所が必要である。2019年度提案書では、全国に分散している約2,700の多目的ダムのうち、揚水発電に適した931のダムを下池として使用することにより、多くの分散した揚水発電所がコストを削減して建設できることを示し、これを新揚水発電と呼ぶことにした。その蓄電設備可能容量の全国の合計は750~2,200 GWh/回/日であった。ただし、これらはダム周辺の地形によらずダムの利用可能水量分だけ上池に貯水できると仮定した場合の蓄電設備可能容量であり、実際には地形の影響で建設できる上池の貯水量(上池の数)は制限される。
 本提案書では、蓄電設備可能容量の精度を高めるため、実際の地形や道路状況に基づき上池の建設地を選別し、各新揚水発電所の総建設費と蓄電設備可能容量を個別に計算した。その結果、実現可能な全国の蓄電設備可能容量は使用できるダムの水量の条件により、585~1,390 GWh/回/日であった。各新揚水発電所の設備コストは全国で35~45円/Wh、発電コストは19~21円/kWhであり、ダムの規模や、地域による差は少なかった。またこのような新揚水発電所の建設可能な地点は全国に万遍なく分布し、開発費のばらつきの地域差も少なかった。従って、開発の手順としてはいずれの地域からでも開発が可能であるが、上池の建設候補地数が限られ選別しやすい比較的小規模のダムの開発を優先することを提案する。

提案書全文

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