取材レポート
令和6年度 第1回 JSTワークショップ 公正な研究活動の推進- 研究倫理教育映像教材「研究活動のグレーゾーン」の利活用を考える-報告
今年度1回目のJSTワークショップ「公正な研究活動の推進-研究倫理教育映像教材「研究活動のグレーゾーン」の利活用を考える」が7月17日(水)にオンラインで開催されました。2024年5月に公開した映像教材「倫理の空白Ⅲ 研究活動のグレーゾーン*」は、「倫理の空白」 シリーズ3作目として、「疑わしい研究行為(QRP: Questionable Research Practice)」を扱っています。参加者は、QRPのきっかけとなる場面を通じて、研究室主催者(PI)等が責任ある研究を実施するために何を意識すべきか、映像教材をどのように活用できるのかグループワークで議論しました。
*「倫理の空白Ⅲ 研究活動のグレーゾーン」はこちらから視聴いただけます。 https://www.jst.go.jp/kousei_p/measuretutorial/mt_movie.html
研究公正教育の現状や課題、疑わしい研究行為の現状について説明された後、特に強調されたのが、PIやシニア研究者への研究公正(倫理)研修の重要性についてです。欧米では「研究不正を防ぐことから研究公正を推進していく方向に移行してきている」と述べられ、SOPs4RI(Standard Operating Procedures for Research Integrity)(https://sops4ri.eu/)を紹介されました。
SOPs4RIの"Tool Box"には、大学を含め研究を行う様々な機関や研究資金配分機関が、どのように研究公正を推進すればよいか具体的な方法が提示されています。札野氏は、"Tool Box"にある9つの領域のうち、「研究公正教育研修」(RI Training)を例にあげ、"Key recommendations"のうち"Motivate and reward"では「研究者への動機づけと報奨は、研究公正教育への積極的な取組みを促進するのに役立つ」と示されました。
それを踏まえ、研究公正教育を単に研究者に何をすべきか伝えたりすることのみでなく、研究を改善する方法を考える機会として位置づけることを提案されました。 具体的には、「倫理の空白Ⅲ」を用いて、よりよい研究を行うための「研究室マネジメント」に関するPI向けの研修として、研究公正の観点から考えられる点を列挙するとともに、研究室の学生に対してどのように教育するのか考案するようなものを例示されました。
最後に、研究公正教育の目指すべきものとして、「こういうことをやらないようにしましょう」といった予防倫理的な観点だけでなく、何がよい研究なのか、どのように研究室をマネジメントすれば、よりよい研究ができるのかといった、志向倫理的な観点を入れるべきであるとの考えを示されました。人と社会のwell-beingに貢献するという価値を共有することによって「責任ある研究活動」を推進する、これが研究公正教育の目指すべきものではないかとまとめられました。
VIRT²UE Projectの枠組みは、研究者が法令やルールに基づいて行動するだけでなく、専門職として何が望ましいかを考えて行動することにあることを野内氏は述べられました。このプロジェクトでは、シニアから中堅の研究者を対象としており、自己学習、ワークの進行に必要な教育スキルの習得、課題を実際に実践すること、フォローアップを通して研究公正(Research Integrity)のトレーナーを養成するものとなっています。研究者は、教育者として責任ある研究活動について理解し、リフレクション(内省化)する機会になると指摘されました。
では、このプロジェクトを具体的にどのように活用できるのでしょうか。野内氏は、「VIRT²UE Projectのポイントは、ルールベースの教育ではなく、研究公正の根本について理解する」ことであり、「問題の背後にある考え方を理解できれば、どんな新しいQRPがでてきても対応できるのではないか」、「ルールを覚えるのでなく、どのような行為がよいのか判断できるようになる」と説明されました。
そして、このプロジェクトのエッセンスを活用し、映像教材を使って同じ立場や職種にある者同士でトレーニングを行い、学生達に教育を実践し、フォローアップを行うといった講習を実施できるのではないかと提案されました。
また、札野氏は、「あれをやってはいけないという予防倫理的なものではなく、よりよい研究につながるよう、公正な研究を推進するにはどうすればよいかといった観点で考えてほしい。よい研究をすることは誰にとっても大切なことであり、そういった認識を広めていっていただきたい」と講評されました。
アンケートでは参加者から、「実践に生かせそうなアイデアが得られた」「多様な参加者が熱心に取り組んでおり、モチベーションが上がった」といったご意見をいただき、また、今後の課題として、研究者の時間確保や意識改革などがあげられました。
当日の講義資料はこちら
前回のワークショップ取材レポート
*「倫理の空白Ⅲ 研究活動のグレーゾーン」はこちらから視聴いただけます。 https://www.jst.go.jp/kousei_p/measuretutorial/mt_movie.html
講義 研究倫理教育映像教材「研究活動のグレーゾーン」の利活用を考える
早稲田大学教授 札野 順 氏
ワークショップは札野氏の講義から始まりました。(講義資料はこちらをご覧ください)。研究公正教育の現状や課題、疑わしい研究行為の現状について説明された後、特に強調されたのが、PIやシニア研究者への研究公正(倫理)研修の重要性についてです。欧米では「研究不正を防ぐことから研究公正を推進していく方向に移行してきている」と述べられ、SOPs4RI(Standard Operating Procedures for Research Integrity)(https://sops4ri.eu/)を紹介されました。
SOPs4RIの"Tool Box"には、大学を含め研究を行う様々な機関や研究資金配分機関が、どのように研究公正を推進すればよいか具体的な方法が提示されています。札野氏は、"Tool Box"にある9つの領域のうち、「研究公正教育研修」(RI Training)を例にあげ、"Key recommendations"のうち"Motivate and reward"では「研究者への動機づけと報奨は、研究公正教育への積極的な取組みを促進するのに役立つ」と示されました。
それを踏まえ、研究公正教育を単に研究者に何をすべきか伝えたりすることのみでなく、研究を改善する方法を考える機会として位置づけることを提案されました。 具体的には、「倫理の空白Ⅲ」を用いて、よりよい研究を行うための「研究室マネジメント」に関するPI向けの研修として、研究公正の観点から考えられる点を列挙するとともに、研究室の学生に対してどのように教育するのか考案するようなものを例示されました。
最後に、研究公正教育の目指すべきものとして、「こういうことをやらないようにしましょう」といった予防倫理的な観点だけでなく、何がよい研究なのか、どのように研究室をマネジメントすれば、よりよい研究ができるのかといった、志向倫理的な観点を入れるべきであるとの考えを示されました。人と社会のwell-beingに貢献するという価値を共有することによって「責任ある研究活動」を推進する、これが研究公正教育の目指すべきものではないかとまとめられました。
講義 研究公正の意識を自律的に醸成する取り組み
広島大学准教授 野内 玲 氏
野内氏の講義では、研究公正の意識を自立的に醸成することができる取組として、海外で実際に行われているトレーニング「VIRT²UE: Train the Trainer Project」を紹介されました(講義資料はこちらをご覧ください)。VIRT²UE Projectの枠組みは、研究者が法令やルールに基づいて行動するだけでなく、専門職として何が望ましいかを考えて行動することにあることを野内氏は述べられました。このプロジェクトでは、シニアから中堅の研究者を対象としており、自己学習、ワークの進行に必要な教育スキルの習得、課題を実際に実践すること、フォローアップを通して研究公正(Research Integrity)のトレーナーを養成するものとなっています。研究者は、教育者として責任ある研究活動について理解し、リフレクション(内省化)する機会になると指摘されました。
では、このプロジェクトを具体的にどのように活用できるのでしょうか。野内氏は、「VIRT²UE Projectのポイントは、ルールベースの教育ではなく、研究公正の根本について理解する」ことであり、「問題の背後にある考え方を理解できれば、どんな新しいQRPがでてきても対応できるのではないか」、「ルールを覚えるのでなく、どのような行為がよいのか判断できるようになる」と説明されました。
そして、このプロジェクトのエッセンスを活用し、映像教材を使って同じ立場や職種にある者同士でトレーニングを行い、学生達に教育を実践し、フォローアップを行うといった講習を実施できるのではないかと提案されました。
グループワーク
グループワークでは、映像教材の活用方法について参加者に考えていただきました。前半の25分では、問題となる場面や違和感を持つ場面などをあげ、どのような問題があるか・どのように研修等に活用できるのかを検討し、それを踏まえて後半の25分では、映像教材を使ったPI向けの研修を組み立てていただきました。グループのメンバーで意見を共有しながら、皆さん熱心に取り組まれていました。全体講評
野内氏は研究論文等のオーサーシップについてふれ、「著者になるということは責任を伴うことであり、研究不正があれば連帯責任になることもある。安易に共著者となったりすることには一歩立ち止まったほうがよい。何のために研究をするのか、知りたいことがある、探求したいことがあるから研究するのだといったことに立ち返るとよいのではないでしょうか」と話されました。また、札野氏は、「あれをやってはいけないという予防倫理的なものではなく、よりよい研究につながるよう、公正な研究を推進するにはどうすればよいかといった観点で考えてほしい。よい研究をすることは誰にとっても大切なことであり、そういった認識を広めていっていただきたい」と講評されました。
アンケートでは参加者から、「実践に生かせそうなアイデアが得られた」「多様な参加者が熱心に取り組んでおり、モチベーションが上がった」といったご意見をいただき、また、今後の課題として、研究者の時間確保や意識改革などがあげられました。
当日の講義資料はこちら
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