取材レポート

【イベントレポート】JST公正研究推進ワークショップ~研究現場での教育~

JST公正研究推進ワークショップチラシ
「JST公正研究推進ワークショップ」が東京(平成29年3月8日)と大阪(平成29年3月14日)の2会場で開催されました。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催する当ワークショップは、アメリカで開発された公正な研究活動を推進するための方法を体験し、ディスカッションやワークを通じて研究現場で行う指導の進め方を考えるプログラム内容です。両会場とも参加者はグループに分かれ、教育の意義や手法についてディスカッションやグループ毎の発表を行うなどアクティブに課題に取り組みました。ワークショップでは、グループワークなどを通じて、さまざまな意見が交換され、情報の共有が行われました。
 東京会場、大阪会場の内容を合わせてレポートします。


研究倫理教育の現状と課題―単なる研究不正防止を超えて―

札野順教授
札野順教授
 ワークショップの参加者の所属機関は、大学、民間企業、公的研究機関などで、専門分野も医療系、工学系、人文社会系など幅広い分野で構成されています。また、研究支援等の事務局からの参加もありました。ワークショップでは4名〜6名のグループに分かれて課題に取り組みます。東京会場は7グループ、大阪会場は6グループ編成となりました。グループ編成に際しては、メンバーはできるだけ同様な専門分野の方を集め、その分野特有の課題も議論しやすいようにしました。
 午前中のワークショップは、講師を務める東京工業大学 札野順教授の講義で始まりました(講義資料はこちらをご覧ください)。札野教授は、研究倫理には法令遵守型の「予防倫理」と社会への貢献を目的とした「志向倫理」の二つがあることを示し、従来から行われてきた単なる研究不正防止を目的とした研究倫理教育から、責任ある研究活動(Responsible Conduct of Research)を目的としたRCR教育への転換を提案しました。さらに、米国国立衛生研究所(NIH)が、RCR教育を研究者養成の中核的部分と位置づけていることを紹介し、そのための教育方法としてe-Learningだけでなく、必ず対話による議論が必須とされていることをポイントとしてあげました。また、札野教授は、日本でも文部科学省のガイドラインを受け、各研究機関で取り組みが進んでおり、良好な事例が蓄積されてきている現状を概説し、中でも注目される好事例として、東北大学がキャリアステージ(学部生、大学院生、新任教員等)に応じ、レベルに合わせたRCR教育を体系化している取り組み等を紹介しました。

講義風景(東京会場)
講義風景(東京会場)
 このように国内でRCR教育が進展しつつあるものの、札野教授はいくつかの課題があるとし、そのうちの一つとして「倫理的判断能力、問題解決能力の育成」や「態度、プロフェッショナルとしての品格の育成」をあげました。そして、これらの能力等は講義やe-Learningだけで十分に育成することは難しく、ケースメソッドによる教育が有効であると解説しました。しかし、現段階では適切な教材や各機関の中でのRCR教育に対する教育目標や学習内容への共通理解が不足している状況に加えて、授業を担当する教員によって教える内容が異なる点など、さまざまな課題があることを指摘しました。
さらに、機関によってはRCR教育の担当者を、研究費不正を担当するコンプライアンス担当者が兼ねるケースがあることについて触れ、法令遵守を目的とするコンプライアンス担当者がRCR教育担当を兼任した場合、教育内容が管理監督型の予防倫理的な傾向があることへの懸念が示されました。

PI(研究主宰者)からRCR教育に対する理解を得るためのプログラム

< 講義に続いてアイスブレイクを行い、自己紹介等で雰囲気が和んだところで、札野教授から参加者に対して、今後の日本におけるRCR教育の普及、発展に貢献することへの期待が語られた後、ワークショップのテーマや進め方について説明がありました。(説明資料はこちらをご覧ください)

 ワークショップのプログラムは、カルフォルニア大学サンディエゴ校の研究グループがアメリカ国立科学財団(NSF)の研究助成を受けて作ったもので、PI(研究主宰者)など指導的立場の研究者を対象としています。ただし、PIを教育の対象とするのではなく、PIに対して研究倫理教育の様々なアイディアを示し、自身の研究室でポスドクや学生等を対象にRCR教育を実施してもらうためのプログラムです。つまり、上からのお仕着せとならないよう配慮し、各PIにそれぞれの研究環境に適した内容を考えてもらうという、研究現場に導入しやすい優れた特徴があります。そして、札野教授から、本日のワークショップの学習目標として、次の6つが示されました。
  1.  1.RCR教育の必要性について理解し、説得的に説明できる。
  2.  2.研究の現場でRCR教育を行う理由について、説明できる。
  3.  3.(研究環境に適した)研究倫理プログラムの素案を設計できる。
  4.  4.RCR教育の目的(教育目標)と内容を説明できる。
  5.  5.RCR教育のツールを理解し、具体的な適用方法を考案できる。
  6.  6.RCR教育の効果を測定・評価する必要性を理解する。


ワークショップ課題、「なぜ、RCR教育が必要か」を説得的に説明する

 ワークショップ最初の課題は、「今、なぜ、RCR教育が必要か」について、説得的に説明するための3つのポイントを各グループで議論して発表することです。議論のための時間は15分。各グループ内では、研究不正の防止や文部科学省のガイドラインで定められている等の理由をあげ、熱心な議論が行われました。グループ発表は、RCR教育に関心のない頑固なPIを説得するという設定で行われ、 "怖いPI役"に向かって各グループの代表者がRCR教育の必要性を説明しました。
各グループからは、
「文科省のガイドラインに対応するため」といった率直な理由のほか、
「良い研究者、良い医療人を育成するために暗黙知を明示する(形式知にする)」、
「科学への信頼のため」、「社会への説明責任」、
「研究成果を社会に還元するためにはデータを正しく積み重ねておく必要がある」、
「不正防止によって、将来の患者さんなどユーザーに迷惑をかけないようにする」などの理由があげられました。
また、
「組織の中期目標に記載されているため」、
「不正が発生すると費用の返還に加え、処理を行う人件費など多大なコストを要し、社会的評価の低下により良い人材を得られなくなる」、といった ガバナンス・組織防衛の観点の理由も示されました。
このほか、
「各研究分野によって研究作法が異なり、研究不正の定義も異なる。ルールの改正もあるため、RCR教育を通して最新の状況を認識する機会が必要」、 「研究不正によって、当該研究分野が不健全と見られることで、若い研究人材が集まらなくなる」などの理由もあげられました。
さらに、
「部下がうっかり、あるいはルールを知らないことで不正を犯すと先生も傷ついてしまいます。先生自身を守るために遠回りでも一緒に考えましょう」、といった共感を誘うアプローチもありました。

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PI役を説得する(大阪会場)             PI役を説得する(東京会場)

 これらに対して、PI役からは、「良い研究者の"良い"の定義は何か」といった本質的な質問や「RCR教育への関わりを必要最低限にしたいと考えているPIを説得することは非常に難しく、一般論では説得できない」などのコメントがあり、参加者は、「RCR教育=研究者としての義務である」という考え方を共有することの難しさを改めて認識しました。


ワークショップ課題、「RCR教育の目的とは何か」、「教育に含まれるべき項目は何か」

 ワークショップの次の課題は、「RCR教育の目的とは何か」、「RCR教育に含まれるべき項目は何か」です。RCR教育の目的(目標)と内容について、NIHやCITI Japan、日本学術振興会「グリーンブック(科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―)」の資料が示され、これらをふまえて各グループは20分間で議論し、教育の目的(目標)を3つ、教育項目(内容)を3つ発表します。
 各グループからの発表ではRCR教育の目的(目標)として、
 「研究成果の社会還元を通じた社会貢献」、 
 「倫理課題を発見、解決する能力の育成」、
「公正な研究活動のルールを知り、その背景を自分で考えることができる」
「責任ある研究活動をする研究者の育成」などがあげられました。
このほかに、
「社会人としての一般教養を身につける(学部生対象)」、
「研究活動に関して守るべき作法を身につける(大学院生対象)」、
「学生、ポスドクへの指導力を身につける(PI対象)」などキャリアステージに応じた目的をあげるグループもありました。
また、RCR教育に含まれるべき項目として、
「社会とのコミュニケーション」、
「研究リスクの把握(被験者保護、健康被害防止など)」、
「過去の不正事例から学ぶ際は、大きな事件だけでなくヒヤリ・ハット事例も知る」などがあげられました。
ほかには、
「社会人としてのモラル教育(学部生対象)」、
「研究活動に関して守るべき作法(データの保存、実験ノート等)(大学院生対象)」、
「研究室のチームリーダーとして必要な指導力(PI対象)」などレベルに応じた教育項目も示されました。
さらに、
「組織として研究不正の判断基準を示し、各PIの価値観の違いによる判断のばらつきをなくすことで研究者や学生を守ること」をあげたグループもありました。

 各グループの発表後、札野教授から、RCR教育を行う際は、研究活動に関して守るべき作法の習得にとどまらず、倫理的判断能力、問題解決能力の育成や、プロフェッショナルとしての品格、態度の育成といった目標を目指すことが必要であり、そのためには何よりも、まずはRCR教育を実行してみることが重要であるとの解説がありました。


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グループ発表の様子(大阪会場)             グループワークの様子(東京会場)


研究の現場でRCR教育を行う理由、事例考察のためのセブンステップガイド

 次に、札野教授から「RCR教育の方法」、「研究の現場でRCR教育を行う理由」、「研究倫理プログラム」、「RCR教育のためのツールの使い方」についての説明がありました(説明資料はこちらをご覧ください)。
RCR教育の方法として、講義、e-Learning、両者を組み合わせたハイブリッド、ワークショップなどさまざまな方法が紹介されました。札野教授はその中でも、RCR教育のために特定の科目を設置するのではなく、各科目の中にRCR教育の要素を加える「Micro-insertion」とそれらの科目を組み合わせ、教育課程全体として取り組む「Ethics across the curriculum」について解説し、その例として、実験科目のグループ報告書を作成する際にオーサーシップについて学ぶ、などの具体的な方法も提案しました。
 また、研究の現場でRCR教育を行う理由について、「実例から学ぶ」、「実践により学ぶ」、「状況の中で学ぶ」、「最も重要なことは何かを学ぶ」、「継続的に学習する」の5つをあげ、日々の研究を通じて、その研究室が最も大事にしていることに気づくことができる点に加え、セミナー等の1回限りの受講とは異なり、日々の研究の中で継続して取り組むことができる点を長所としてあげました。
 加えて、研究倫理プログラムを作成する場合、トップのコミットメントが極めて重要となることに加え、ミッションステートメントを作成する必要があることを強調しました。そして、ミッションステートメントを作成する際、大学の場合は教育面でのミッションを必ず盛り込み、人を育てる機関である自覚を持つことが大切だと述べました。さらに、研究室単位でミッションステートメントを作成する場合、自分たちの研究が社会とどのように関わっているか、自分たちの大事にしている価値は何か、について具体的に考えることで、価値共有型のミッションステートメントが作成できると説明しました。
また、研究倫理プログラム作りを学生の教育に取り入れるためのツールとして有効な「セブンステップガイド」について解説がありました。セブンステップガイドは、示された事例について、まず直感で判断し、その後、段階的に考察を進める構成になっています。事実関係の整理、ステークホルダーとその価値観などから行動案を導き、その行動案を複数のテストによって多角的に評価します。そして、意志決定の後は、再発防止策まで検討する7段階の構成です。このセブンステップガイドを使って、学生に事例づくりを任せることで高い教育効果が得られるとの説明がありました。さらに、ケースメソッドでの事例は、不正事例を扱う場合が多いが、ノーベル賞受賞者などをモデルとした良い事例を作り、それらの好事例を使ってRCR教育を行うことが提案されました。
 なお、セブンステップガイドを使って、学生に実際に所属する研究室のRCR教育プログラムを考えさせる授業を、必修科目として行っている例として、金沢工業大学の事例が紹介されました(詳しくはこちらをご覧ください)。
 また、映像教材「THE LAB」の使い方としてケースメソッド以外に、研究者の日常を描いたシーンなどを題材に用いることで、「研究者にとって大切なものは何か」など日頃話しづらいようなテーマでも話し合う契機にすることができるというアイディアも示されました。  このほか、学生とPIとの間で研究指導の進め方について定めた「個人能力開発プラン」や「研究を行う学生と指導教員のためのチェックリスト」を活用する方法などさまざまなツールと使い方が説明されました。
そして、札野教授は、RCR教育で大切なことは、法令遵守型のルールで研究者を縛ることではなく、創造的な研究活動が妨げられないよう、内発的な動機付けによって研究者一人ひとりが自身で判断・行動できるように方向付けることであると述べました。


ワークショップ課題、「現段階で最も有効と思われるRCR教育の方法」

 RCR教育の方法、ツールなどの概説の後、各グループは「現段階で最も有効と思われるRCR教育の方法」を議論し、3つを提案する課題に取り組みました。議論の時間は15分です。グループによっては、所属機関で苦心した経験をふまえて有効な方法を検討するなど、リアリティのある活発な議論が展開されました。なお、この課題は東京会場でのみ議論されました。
発表の際、各グループからは、教育方法の提案に加えて、RCR教育のための環境をいかに整えるかという課題について次のような意見が出されました。
「各研究の現場にフィットした教材や教育をどう準備すれば良いかが分からない」、
「研修に参加しないPIにどのように対応するかが悩ましい」、
「各研究者にとって納得感があり、役立つ教育内容が必要」、
「教材等を準備する側も講習を受ける側も負担が大きいが、それに比して得られるものは小さい」など、
各機関でRCR教育の企画・運営を担う側にとって悩ましい問題が共有されました。こうした問題を率直に語り合えることも機関横断型のワークショップの長所の一つと言えるでしょう。
これらの課題に関連してグループ発表では、
「研究者の負担感を減らすために事前テスト等でチェックし、個人別に必要な教育内容を厳選する」、
「研究室の学生が議論する場を設定して、そこにPIも参加してもらう」、
「講習を受講しないと研究の申請ができない等の強制的な仕組みを作る」、
「分野による違いが大きいので、大学単位ではなく学会単位でRCR教育を行う」などのアイディアが示されました。

 これらの意見をふまえ、札野教授からは、各研究分野によってルールや考え方が異なるため、学会単位でのRCR教育は有効とのコメントがありました。そして、研究室は一つの小さな学会とも言えるため、それぞれの研究室はRCR教育の有効な場となり得るとの見解が示されました。 
 
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グループワークの様子(東京会場)                          「THE LAB」の活用法を解説(大阪会場)


ワークショップ課題、「研究室の倫理綱領を作る」、「どのツールを用いてRCR教育を行うか」

 ワークショップ最後の課題は、グループごとに特定の研究室を想定して、その研究室の倫理綱領を作成し、どのツールを利用してRCR教育を行うか、について議論して発表することです。RCR教育については、できるだけ具体的に考えること(誰が、いつ、どこで、何を、何を目的に、どのように)が求められました。なお、グループワークおよび発表に当たっては、倫理綱領は想定した研究室に特有な項目を3つ以上定めること、RCR教育のためのツールは2つ以上使用することとされ、研究室のミッションステートメント、想定されるリスクの評価をふまえて取り組むよう指示がありました。議論の時間は約1時間とされ、各グループでは熱心な議論が行われました。
そして、各グループの発表した倫理綱領は、
「社会に役立つ研究をする」、「社会へ貢献し、社会からの信頼に応える」、
「良き研究者たれ」、
「自律的に意志決定する」、
「持続可能な発展に貢献する」、
などのほか、
「全ての研究室の構成員と各研究プロジェクトを明確に対応付けする」、
「常にオープンマインドなコミュニケーションを行う」、
「透明な研究室運営に取り組み、風通しの良い研究室文化を醸成する」、
「ワーク・ライフ・バランスに配慮した研究環境の実現」など、研究室の運営について具体的に定めた内容も見られました。
 また、「人権を尊重する」、「安全、健康、環境への配慮を万全にする」、「研究協力者へはリスクも含めて十分に説明して同意を得る」など、研究の進め方をあげるグループもありました。

 なお、各グループとも想定する研究室について、「複数の企業と複数の共同研究を進める研究室」や「ユニット制で複数のPIによる研究グループで構成される研究室」など、人員構成や外部資金を含め、かなり具体的に設定され、想定されるリスクについても検討した上で、倫理綱領を策定しており、グループワークへの取り組みの真剣さが伝わってくる発表内容でした。
研究上のリスクとしては、
「研究資金獲得を目指した研究のための研究」、
「自己判断によるプロトコルからの逸脱」、
「ユニット制複数グループ編成による縦割りにより、ラボ内で情報が共有され難い」、
「毒劇物などの安全問題(化学系研究室)」、
「作業中の事故」など、具体的な内容が想定されていました。
 そして、研究室で行うRCR教育の教育ツールとして、「事例」、「THE LAB」、「個人能力開発プラン」など複数のツールが組み合わせて計画され、RCR教育を行う時期、対象者別に階層的なプランを考えた発表もみられました。また、e-Learning、講義、ワークショップなどの教育方法も時期や対象によって使い分けて計画されるなど随所に工夫が見られました。
例えば、
「着任時に全員必修、e-Learningで実施する」、
「2年毎に研究室リーダー研修を実施し、『THE LAB』をセブンステップガイドで検討する」、
「年1回、各研究室横断型の研修を『事例』によるワークショップ形式で実施する」、
「各研究ユニットで『個人能力開発プラン』を用い、さらに統括PIがチェックすることで各ユニット間のマネジメント基準を統一する」、
「研究室配属時にグリーンブックで基本的な知識を学び、共同研究プロジェクトに参加する際にプロジェクト毎に定められた事項を学ぶ」、
「ラボミーティングの一部の時間を使って、個人情報保護などテーマを設け、定期的に実施する」など、具体的な発表が相次ぎました。
また、「『チェックリスト』を活用してRCR教育を行い、他の研究室と『チェックリスト』を相互点検する」など、風通しの良い研究室運営のための交流機会を提案するグループもありました。

 札野教授からは、各発表に対して、短時間のワークで多くのアイディアを示したことを賞賛したうえで、各参加者が所属機関に戻って、それぞれの研究現場と一緒にRCR教育を考えることで、さらに多くの優れたアイディアが生み出されることへの期待が語られました。
また、各グループが示した想定されるリスクは、それぞれの研究室で異なっていることから、各分野に共通する内容でRCR教育を実施すると一般的な内容となってしまう点を指摘し、機関全体で行うような一律のRCR教育を続けることは、RCR教育の形骸化につながることが危惧されると述べました。
さらに、研究室の倫理綱領を作成する際は、規則やルールの作成になってしまわないよう、自分たちが大切にしている価値や社会との関わりについての項目を必ず入れる必要があると強調しました。

 次に、RCR教育の効果測定・評価について説明があり、個人の効果測定に加えて、組織がRCR教育によって、どのように変わったかを評価する組織の効果測定も必要であると解説されました。そして、個人の効果測定について、すでに開発されたテストなどで知識の測定は可能となっているものの、問題発見能力・解決能力や態度などの測定方法は現段階ではまだ開発されていないことが説明されました。
また、アメリカで作成された、学部・学科単位等の組織単位の効果測定のための質問表について紹介し、日本に応用するためにはさらに内容の検討が必要との見解が示されました。
最後に、参加者に対し、今後も連携して公正な研究活動を推進することへの協力を求め、一日を通して熱気にあふれたワークショップは終了しました。

ワークショップ終了後、参加者からは、
「新しい各種教育ツールの情報を得られた」、
「研究倫理教育のプログラム設計、実践する場合のイメージなどへの理解が深まった」、
「これまで漠然としていた倫理教育の必要性が、講義やディスカッションを通じて明確になった」
「普段とは異なる分野の多様な参加者とディスカッションができたことで、これまでにない新しい視点を持つことができた」、
「他機関の取り組み、課題について、研究倫理教育を行う側の者同士で議論や情報共有ができた」、などの意見に加えて、
「今日の成果を組織に持ち帰ってどう広めていくかが問題」、
「自身の機関ではさまざまな制約もあり、十分な時間を確保することが難しい」、
「不正について幅広く取り扱っているので、研究倫理の問題が深まらなかった」
「内容のボリュームに対して時間が短いので、テーマを絞った方が良い」など、今後のプログラム改善につながる意見もありました。


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