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研究チームの研究成果

ULPユビキタスセンサのITシステム電力最適化制御への応用

研究代表者

前田 龍太郎

((独)産業技術総合研究所
     集積マイクロシステム研究センター 研究センター長)

平成19年度
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
事後評価結果

平成19年度研究報告

1.研究実施の概要

  平成20年度から実施する実験用の小型データセンター(ミニ DC)の構築およびモジュラー型省エネ DC コンセプト構築のための基礎調査を実施した。また主たる共同研究機関が利用・運用している全国主要 DC、および米国内 DC に対してアンケート調査・文献調査・現地調査を実施し、DCにおける省エネ対策の現状と、床面積とエネルギー消費効率の関係について分析を行った。以上を反映して実験用の小型データセンター(ミニ DC)の構築を行った。
  ULP ユビキタスセンサの開発に関しては、センサ端末を構成する基幹要素部品である超小型コイルの設計開発を開始するとともに、センサ端末の基本仕様設計を行い、詳細設計を進めるための高精度温度センサ・AD 変換部を備えた実験用無線センサ端末の開発を行った。
  グリッドデータセンター運用管理システムについては、運用決定モジュール、仮想クラスタ構築システムおよび仮想計算機システムの研究開発を行うために、関連技術の調査を実施しながら運用管理システムの外部仕様を決定し、それに基づき各要素モジュール・システムおよびそれらのインタフェースの設計を行った。
  また、わが国の情報システム総消費電力量の推定のための予備調査として、消費電力量試算モデル作成のための既存試算方法の調査・分析、家庭を対象とした情報機器の消費電力測定を検討した。 

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2.研究実施内容

1. ULP ユビキタスセンサの開発

  ULPユビキタスセンサ端末を構成する基幹要素部品である高効率超小型コイルに関して、電源ラインが平行2芯の場合に対応できる、基本的な構造を検討した。スパイラルコイル構造を採用すれば、リソグラフィ的手法により高効率化に必須の高ターン数のコイルを超小型に作製することが可能であるため、スパイラルコイルと高透磁率のコアとを組み合わせた図1のようなプロ トタイプ構造を設計した。これは、電磁誘導で効率良く受電し、かつ電源ラインを侵襲しないような構造となっている。実際の電源ラインで受電するために必要となるスパイラルコイルのターン数や寸法、コアの最適構造に関しては、電磁場解析ソフトウェアを用いて、シミュレーションモデルの構築を行った。
  また、ULP ユビキタスセンサ端末の設計を行うため、実験無線センサ端末を開発した。この実験端末は、周囲温度を 0.1℃の高精度で高速測定可能な温度センサとAD 変換部とを備え、AD 変換部に入力された電気信号と温度値を所定周期で送信することができるが、組み込みソフトの書き換えによりデータ処理式や測定周期・無線送信周期を変更することが可能である。これにより、AD 変換部に非接触電力測定回路等を接続して、その測定データなどを、本研究で開発した独自プロトコルで無線送信してネットワーク実験等を行うことが可能になった。図1 高効率超小型コイル

図1 高効率超小型コイル

2. 消費電力を削減するグリッドデータセンター管理システムの研究

  消費電力を削減するグリッドデータセンター運用管理システムの研究では、関連技術の調査を行いながら運用管理システムの外部仕様を決定し、それに基づいて各要素モジュール・システムおよびそれらのインタフェースの設計を行った。運用決定モジュールは、利用可能な計算機群の情報を保持しておき、ユーザの要求に応じてマッチメーキングを行って適切な計算機を選択し、そのリストを仮想クラスタ構築システムに渡す。仮想クラスタ構築システムは、運用決定モジュールに指定された計算機を対象に、サンディエゴスーパーコンピュータセンターで開発されているクラスタ構築システム Rocks と仮想計算機ソフトウェアである VMWare を用いて複数サイトに跨った仮想クラスタシステムを構築する。データセンターに跨った環境での稼働中のジョブのマイグレーションを実現するためには、ジョブのディスクイメージの転送に時間がかかることを考慮しなければならない。
  そこで、本研究において実現する仮想計算機システムは、インクリメンタルにディスクイメージを転送する技術を開発し、この問題を解決することとした。また、システムの運用中に資源の利用状況や消費電力に基づいて構成変更を判断する機能については、ユーザからの指示によって構成変更の処理を開始し、仮想クラスタ構築システムによる構成変更および仮想計算機システムによる稼働中のジョブのマイグレーション機能を利用することにより、構成変更を実現することとした。

3. ULP 情報システムのデザイン

  わが国の情報システム総消費電力量の推定のための予備調査研究として、既存研究の調査、パソコン・サーバーの稼働量等の推計、情報機器の消費電力測定システムの構築を行った。 まず、わが国の総量を試算した文献として、@情報通信機器の省エネルギ−と競争力強化に関する研究会報告書(経産省、2025 年まで)、A地球温暖化問題への対応に向けたICT政策に関する研究会報告書(総務省、2010 年まで))、およびB本ULP領域のシンポジュウム資料(三菱総研、2020 年まで)など代表的な文献の調査を行い、評価モデルの妥当性について検討を行った。また、パソコン・サーバーの稼働量等の推計を試みた。家庭用パソコンの普及率は、消費動向調査、通信利用動向調査、インターネット人口普及率調査から 2006 年度 68.5%〜74.1%であると推定するとともに、企業用パソコンの保有台数については、情報処理実態調査(経産省)から推計し、2004 年度で 5,648 万台と推定した。これら実稼働台数については、他の統計と合わせて精査する。なお、当チームのシステム実験グループが測定した企業におけるパソコンの消費電力量は約 680Wh/ 日・人であった(ディスクトップ)。データセンターの国内延べ床面積は 2007 年度 1,050,000 u、システム実験グループがマクロに調査したデータセンターの消費電力は 381kWh/u・年であった。この値を用いると、国内データセンターの年間電力消費量は 4 億kWh となるが、これは文献@の推計値 8.1 億kWh(2007 年度)の約 1/2 の数値であった。
  さらに、情報機器の消費電力測定システムとして、家庭用パソコンの使用状態を模擬するためのソフトの作成し、電力消費測定システムと組み合わせ、各動作状態と消費電力との関係を測定できるシステムを構築した。

4. DC 電力モニタリングおよび省エネ施策実証実験

  効率的な省エネ型 DC を目指すため、国内 DC および米国 DC の消費電力量の分析を実施した。国内は NEC 関連 DC12 箇所の 2006〜2007 年の実績値を使用、米国の DC については米国環境保護庁公開データ 19 箇所を参照し、分析を行った。図 2 に各 DC のエネルギー消費効率指数(PUE 値)の比較結果を示す。PUE 値は、米国の"グリーングリッド・コンソーシアム"で採用している DC のエネルギー効率指標で、数値が小さいほど効率的運用を実現しているとされている。今回の分析結果では、国内と米国で大きな傾向の違いは、見られなかった。消費電力の内訳で、全消費電力に対する割合が DC ごとに異なる空調消費電力について比較を行った。国内 DC を稼動面積当たりの空調消費電力量で比較をした結果、稼動床面積率が低いほど床面積当たりの空調消費電力量が多くなる傾向が見られた。
  これらの結果を検証するため、稼動床面積と空調消費電力量、IT 機器消費電力量のモニタリングを実施するとともに、モジュラー型 DC による効率的な省エネ対策を実施するための実験用ミニDC の構築を行った。この実験用ミニ DC は、NEC コンピュータテクノ株式会社茨城事業所内の商用 DC のフロアの一部の床面積 37 u(有効床面積 24 u)のエリアに設置され、サーバ 10 台とモニタリング装置を備えている。図2 DCのエネルギー消費効率指数(PUE値)の比較結果

     図2 DCのエネルギー消費効率指数(PUE値)の比較結果

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3.研究実施体制

1. 「ユビキタスセンサ」グループ

(1) 研究分担グループ長:前田 龍太郎((独)産業技術総合研究所、主幹研究員)
(2) 研究項目
  IT機器の消費電力を無給電(バッテリーレス)・非接触で測定する平均消費電力1μW レベルの無線センサ端末およびネットワークシステムを開発するため、以下の研究項目を実施する。

  • 高効率超小型コイル開発
  • 超低消費電力専用回路開発
  • 超低消費電力無線センサ端末の開発
  • ネットワーク測定システムの開発
  • 情報システムの将来予測モデルの開発

2. 「グリッド」グループ

(1) 研究分担グループ長:伊藤 智((独)産業技術総合研究所、副センター長))
(2) 研究項目
  地理的に分散された複数の DC を仮想的に統合し、DC 間で資源を共有することにより、設備の過剰投資抑制および資源の利用効率向上を実現しつつ利用者の要求に応じて適切なサービスを提供する“グリッドデータセンター”の運用管理システムの研究開発を行う。

3. 「エコデザイン」グループ

(1) 研究分担グループ長:藤本 淳(東京大学、特任教授)
(2) 研究項目
  情報機器の消費電力の実測値を活用し、わが国の情報システムの総消費電力量を試算することで、情報システムの省エネ施策立案に資する。わが国の民生部門からの二酸化炭素排出量削減(電力由来)を目的に、ユビキタスセンサを用いた電子・電気製品の消費電力の“可視化”の社会実証試験を実施する。

4. 「システム実験」グループ

(1) 研究分担グループ長:田村 徹也(日本電気株式会社、シニアマネージャー)
(2) 研究項目

  • DC 消費電力量のマクロ的な調査・分析支援
  • 国内外の DC 省エネ化対策の調査
  • DC モニタリングのための予備研究

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