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研究チームの研究成果

超低消費電力光ルーティングネットワーク構成技術

研究代表者

佐藤 健一

(名古屋大学大学院工学研究科 教授)

平成18年度研究報告

1.研究実施の概要

  インターネットの急速な普及,さらにブロードバンドアクセス環境の急速な進展により,ネットワークを流れるトラフィック量は指数関数的に増加し続けている.また将来のブロードバンドサービス,ユビキタスサービス,超高精細映像サービス,グリッドコンピューティング,OVPN (Optical Virtual Private Network)などの膨大な帯域を必要とする新たなサービスの実現に向け,ネットワークスループットの大幅な増強が必要となっている.一方,通信に必要な電力は増加の一途を辿り,国内大手の通信キャリアにおける電力使用量は年間74億kWh(2003年度)程度と見積もられている.この値はブロードバンド化の進展により今後大幅に増大する事が予測され,情報システムの低消費電力化は次世代ネットワーク構築における焦眉の課題となっている.
  この課題の解決に向けたブレークスルーをもたらす技術として,光ルーティング技術(フォトニックネットワーク技術)が有る.本技術では光のパッシブデバイスによるルーティングを用いる事により,通信ノードにおける電気レイヤの処理を大幅に削減し,通信ネットワーク全体の抜本的な低消費電力化を達成することができる.これ迄低消費電力化については,例えば装置のサーキットボードの低消費電力化(ひいては装置単体の低消費電力化)と言う視点で行われてきたが,本研究ではこれをネットワーク全体でとらえ,リンクとノードを構成要素とし,HAN/LANからWAN(コア並びにメトロネットワーク)までのネットワーク全体をあたかも一つのサーキットボードとして,低消費電力化の観点から最適化を図る.フォトニックネットワーク技術における各種の通信方式(光ストリーム,光バースト等)が有する超低消費電力のポテンシャルを最大限に活かした新しいネットワークアーキテクチャ,ネットワーク設計概念を明らかにするとともに,それを構成する超低消費電力ノードシステムの構成並びに究極の低消費電力性能を明らかにする.パッシブデバイスによる光領域でのルーティングを最大限に活かしつつ,スケーラブルに拡張出来るネットワーク構成,ネットワーク設計手法を明らかにする.
  本研究は平成17年10月に開始され,18年度末までに,需要に応じてフレキシブルに拡大することができる新しい光ルーティングノード構成の提案,並びにマルチレイヤフォトニックネットワークの効率的な設計法の基礎を確立した.また,システムに関連して,超低消費電力となる非対称波長ルーティングデバイス並びにシステム基本技術,アダプティブネットワークインタフェース基本技術の研究開発を行った.さらに,各種システム構築で必要となる高度な専用デバイスとデバイス自体の超低消費電力化を図る基盤技術の開発を行い,各種ルーティングデバイス並びに石英基板熱光学スイッチの開発を進め,システムに必要なデバイス供給や目標とした低消費電力化が達成出来る見通しを得た.また,これらの基本デバイス機能を最大限活かしたノード構成を提案し,ノード基本機能の検証を行うとともに,非対称波長ルーティングデバイスの試作,光ラベル処理デバイス,超低消費電力光処理機能の実現に必要不可欠なキーデバイスであるPLC(Planar Lightwave Circuit)型の光スイッチ,光フィルタ,光信号処理回路の研究開発を行って来た.
  19年度ではこれ迄の研究を発展させ,メッシュ主体のネットワークに加え,メトロポリタンエリアへの適合性の高いリングネットワークへの波長群の適合性の検討,トラフィック需要変動等に応じてアダプティブに拡張可能なネットワーク構成の研究を開始する.また,前年度迄の研究結果を基に,波長群クロスコネクトスイッチの実証装置の作製を行う.将来的な超低消費電力光ネットワークアーキテクチャを実現するための要素技術として,光ラベル処理装置や光CDM装置に適用する光信号処理の研究を進める.これらの実現でキーとなる光スイッチについては新しい構造や作製技術の開発を行い,その抜本的な低消費電力化を実現する基盤技術の開発を行う.

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2.研究実施内容

1. 超低消費電力光ネットワークアーキテクチャ

  超低消費電力光ネットワークアーキテクチャとして,これ迄フォトニックネットワーク技術における波長ルーティングを最大限に活かした新しいネットワークアーキテクチャの検討を進めて来た.本年度は,ネットワークのスループット拡大の観点からストリームとして波長パスに加えてウェーブバンドパス(波長群パス)を利用するネットワーク,波長群クロスコネクト,波長群合分波器に関する研究を行った.主要な成果を以下に示す.
(1) フレキシブル光クロスコネクトノード設計
  需要に応じてフレキシブルに波長群パス単位でクロスコネクトが行えるこれ迄には無い新しい波長群クロスコネクトスイッチノード構成を提案した.また,キーとなる構成要素である新しい波長群合分波器を発明した.これを基に,グループ内で詳細仕様を検討し,入力ファイバ6本(ファイバ当り:波長多重数=40,波長群数=5,波長群幅8)を収容する波長群合分波器をPLC技術により試作し,良好な特性を確認した。
(下図1参照)
波長群合分波器

      図1  新しく開発した波長群合分波器の例

(2) フレキシブル光ネットワーク設計法の開発
  設計の難易度が高い波長群パスを用いるマルチレイヤフォトニックネットワークの効率的な設計法の基礎を確立した.これを用いて波長群パスを用いたネットワークが従来の1階層のネットワークと比べて有利となる条件を明らかにした.一例として,図2に波長群パスを用いた場合の規格化ネットワークコスト(1階層ネットワークコストとの比)を示す.
波長群パスを用いた場合の規格化ネットワークコスト

      図2  波長群パスを用いた場合の規格化ネットワークコスト

2. 超低消費電力光ネットワーク構成技術

   超低消費電力光ネットワークアーキテクチャを実現するための部品技術として,本年度は17年度から引き続き,非対称な波長ルーティングデバイスの研究に取り組んだ.本方式では,光信号の経路制御にアレイ導波路回折格子(AWG)と呼ばれる,プリズムに類する機能を有する平面導波回路(PLC)を基盤技術として採用している.AWGは電力供給を必要とせずに動作するパッシブデバイスであるため,本質的に超低消費電力なネットワークの構築に適している.さらに我々は,ネットワーク内には不可避的に不均一性が存在することに着眼し,従来の常識と異なり設計パラメータを積極的に不均一な値とすることで,有限の資源を効率的に使用する可能性を模索する.本研究期間では,特に対地容量を不均一な値に設計できるデバイスを2方式提案し,需要に応じて適切な伝送容量を割り当て可能なAWGルータの原理確認に成功した.典型的な透過特性を図3に示す.
図3              図 3 対地容量不均一な波長ルータの特性

  本研究期間で得られた原理確認結果を元に,ネットワーク実験への適用に向け,引き続き性能向上に努めると共に,ネットワーク装置化に取り組む.
  比較的大規模なネットワークに適用する波長群スイッチングノードについては,グループ間の協議の元で仕様を策定し,装置化を進めている.機能ごとに分離した設計を採用することにより,並行して進められている研究にも活用し,リソースの有効活用に配慮している.試作装置の完成は19年度中を目指しており,実証実験に向けて開発を進める.
  本年度の新たな取り組みとして,光信号の送受信に関わる電力の抜本的な省電力化を目指して,光符号分割多重(OCDM)技術の検討を開始した.本研究期間では,時間軸上と波長軸上に情報を分散して配置する手法を提案し,その符号生成と検出に成功した.次年度以降も,引き続き特性向上に努めると共に,バーストネットワークに利用する光ラベル処理への応用も見据えて,研究に取り組む.

3. 超低消費電力光ルーティングネットワーク用PLC光デバイス

  H18年度もグループ間で密接に連携して低消費電力光処理機能を実現するPLCデバイスの開発を行った.開発は二つのフェーズに大別して進めている.一つは超低消費電力化を目指し開発中の各通信システムに必要不可欠な「専用デバイスの開発」であり,もう一つはPLCスイッチの抜本的な低消費電力化を図る「超低消費電力基盤技術の開発」である.開発したデバイスは,専用デバイスが12種類(一部は開発中),低消費電力PLCスイッチが3種類であった.
(1) 専用デバイスの開発  
  光信号を群に束ねて処理することで低消費電力化を目指すフレキシブル光クロスコネクトノードにおいて,システムのフィジビリティ確認とH19年度の装置化を目指して各種デバイスの開発を行った.本プロジェクトで考案され,このシステムの心臓部と言うべき多チャンネル波長群合分波フィルタを実現し,システムの有用性を実証すると共に装置化に向けてその高性能化やモジュール化を行った.また,群に束ねた信号から所望の信号を取り出すための波長合分波フィルタや光スイッチも,最新技術を投入して高機能・高集積化を進めている.一方,セルフルーティング機能や光バースト機能よる抜本的な低消費電力化を目指した光信号処理用光CDM回路や波長資源の有効利用のためにノード間のトラヒックに応じて最適な透過帯域を割り当てる最適トランスペアレントネットワークのキーデバイスである各種AWGルータの開発も行い,デバイスやシステムの有用性を確認した。
(2) 超低消費電力基盤技術の開発
  PLCスイッチの抜本的な低消費電力を目指し石英基板をベースとした熱光学スイッチの開発を進めている.H18年度は,低消費電力化実現のキーポイントであった断熱用深溝の形成をサンドブラスト技術の適用により可能とし,スイッチの実現に成功した.二度の試作を通して構造パラメータの適正化を進め,従来の1/8(消費電力:30mW)となる低消費電力化を実現した.
  H19年度はフレキシブル光クロスコネクトノードの装置化が予定されており,その実現に向けて開発を進める.また、他のシステムも高機能化,装置化が図られるため,各種デバイスの高性能化,高機能化も継続して行う.一方,石英基板スイッチでは,回路構成の最適化と加工技術の改善に努め,従来の1/10以下の低消費電力化を目指す。

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3.研究実施体制

1. 名古屋大学グループ

(1) 研究分担グループ長:佐藤 健一(名古屋大学大学院工学研究科、教授)
(2) 研究項目

  • フレキシブル光クロスコネクトノード構成
  • フレキシブル光ネットワーク設計法の開発
  • ラベルスイッチネットワーク実現法
  • アダプティブ光ネットワークの設計法の開発
  • ネットワーク実験

2. NTTフォトニクス研究所グループ

(1) 研究分担グループ長:界 義久(NTTフォトニクス研究所 複合光デバイス研究部、研究グループリーダ)
(2) 研究項目

  • 波長ルーティング装置及びネットワークノード装置の開発
  • 光ラベル処理装置の開発
  • アダプティブネットワークインタフェースの開発
  • ネットワーク実験

3. 「NTTエレクトロニクス」グループ

(1) 研究分担グループ長:大森 保治(NTTエレクトロニクス 技術開発本部、プロジェクトリーダ゙)
(2) 研究項目

  • フレキシブル光クロスコネクトノード用光デバイスの開発
  • 超低消費電力光ルーティングネットワーク用デバイスの開発
  • 超低消費電力基盤技術の開発(石英基板熱光学スイッチ

4.成果発表等

1. 論文(原著論文)発表 (国内 0件、国際 2件)

  • K. Sato, "Recent developments in and challenges of photonic networking technologies," IEICE Trans. Commun., vol. E90-B, No. 3, March 2007, pp. 454-467.
  • O. Moriwaki, K. Suzuki, K. Takiguchi, Y. Sakai, “AWG-Based Wavelength Router With Nonuniform Number of Transmission Paths,” IEEE Photonics Technology Letters, Volume 19, Issue 3, pp. 167 - 169, 2007.

2. 特許出願

累計数
1) 平成18年度特許出願(国内 4件、海外 0件)
2) CREST研究期間累積件数(国内 4件、海外 0件)

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