さきがけ「数学と情報科学で解き明かす多様な対象の数理構造と活用」(数理構造活)領域では、様々な対象に潜む数理構造や数学的概念を新たな「情報」として抽出し、それを次世代の社会の価値として利活用することで、私たちの認知能力を拡大し、次世代の社会や科学技術・産業の形成につなげるような情報活用基盤の創出を目指します。特に、数学・数理科学、情報科学の各分野の強みを活かしながら、領域として両分野の独立した研究者が連携・相補的に融合することにより、この目標達成を見据えた革新的な数理構造や数学的概念の提唱、その理論の構築、および、その情報化手法の研究・開発を推進します。
本領域は令和元年度に発足し3年度にわたって合計31名の研究者を採択しました。本シンポジウムでは、今年度でさきがけ研究を終了する第3期生が中心となって、数学と情報科学の連携を通じて様々な課題に挑戦してきた成果を紹介致します。
開催概要
- 日 時
- 2025年2月20日(木) 10:00~18:00
- 場 所
- AP市ヶ谷6階 会議室C
https://www.tc-forum.co.jp/ap-ichigaya/access/
- 参加費用
- 無料
- 参加定員
- 現地参加:50名
リモート参加:120名
プログラム
- 10:00
開会・事務連絡
- 10:05
総括メッセージ
セッション1
- 10:15
小串 典子
(明治学院大学)
(講演25分)協同的デジタル知識空間の
評価指標の確立
- 10:40
河瀬 康志
(東京大学)
(講演25分)マルチエージェント環境における
モデリングとアルゴリズム
- 11:05
柴山 允瑠
(京都大学)
(講演25分)変分的および幾何学的手法による
人工衛星と惑星探査機の軌道設計
- 11:30
昼食休憩
セッション2
- 12:50
園田 翔
(理化学研究所)
(講演25分)複雑データに内在する深層構造の
理論と応用
- 13:15
谷川 眞一
(東京大学)
(講演25分)組合せ計算幾何学の新展開
- 13:40
細江 陽平
(京都大学)
(講演25分)確率統計情報を活用する数理モデルベース
適応学習制御
- 14:05
休憩
セッション3
- 14:15
間島 慶
(量子科学技術研究開発機構)
(講演25分)量子インスパイア機械学習で切り拓く
超高次元脳・行動データ解析
- 14:40
宮武 勇登
(大阪大学)
(講演25分)発展方程式の数値計算に対する
不確実性定量化理論の創出
- 15:05
本武 陽一
(一橋大学)
(講演25分)解釈可能AIによるパターンダイナミクスの
数理構造抽出と材料情報学への応用
- 15:30
横井 優
(東京科学大学)
(講演25分)選好下のマッチングが生みだす構造の
解明と活用
- 15:55
休憩
- 16:10
パネルディスカッション(さきがけ研究者トークライブ)
- 17:50
閉会
講演者紹介
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「協同的デジタル知識空間の評価指標の確立」
小串 典子(明治学院大学 情報数理学部情報数理学科 准教授)
課題研究概要
Wikipediaのような自由参加の参加者と生成されるコンテンツという多様な要素が自己組織的に構造化した集合知においては、情報の価値や質は選ばれた専門家のみが関わる従来の辞書のようには保証されません。本研究では、データ解析と数理モデルの双方を用いて自己組織的に構造化した集合知が持つ複雑な構造やその特徴を明らかにし、Wikipediaに代表される協同的デジタル知識空間の評価指標の確立を目指します。
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「マルチエージェント環境におけるモデリングとアルゴリズム」
河瀬 康志(東京大学 大学院情報理工学系研究科 特任准教授)
課題研究概要
マルチエージェント環境における基本的な問題である安定マッチング問題、公平割当問題、複数財オークション問題などに対し、解の品質の理論保証・高速計算・戦略的な問題を同時に解決するようなアルゴリズムの設計を行う。そこで得られた知見を元に、マルチエージェント環境におけるモデリング手法とアルゴリズム設計手法の基盤技術を構築する。
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「変分的および幾何学的手法による人工衛星と惑星探査機の軌道設計」
柴山 允瑠(京都大学 大学院情報学研究科 准教授)
課題研究概要
近年、宇宙開発は脚光を浴びてきている。ロケットの軌道設計はこれまで2体問題の解を用いるか、制限3体問題の数値計算をして得られた軌道を用いるのが主だった。本研究では、数学的に高度な理論を導入するというこれまでなされていなかったアプローチにより、斬新な軌道を構築する。
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「複雑データに内在する深層構造の理論と応用」
園田 翔(理化学研究所 革新知能統合研究センター 研究員)
課題研究概要
深層学習により、写像を深さ方向に分解する方法(深層分解)の有効性が実証されました。写像を幅方向(基底と係数)に分解する方法は情報技術に普遍的であり、調和解析によって体系付けられています。一方、深層分解の理論は未整備であり、深層学習によって得られる中間情報表現の性質はほとんど予測不能です。本研究では、深層分解の理論と方法を開発し、特に写像やデータの「深さ」を定式化して、次世代の情報技術へ展開します。
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「組合せ計算幾何学の新展開」
谷川 眞一(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)
課題研究概要
リンケージやロボット等の動作計画や、より一般に幾何制約システムの自由度解析など、計算幾何学の諸問題に現れる代数方程式系に対し、その解空間の一般的な性質を考察する。マトロイドや劣モジュラ関数などの組合せ論・離散最適化の技術を軸に、方程式系が有する組合せ構造の意味で幾何的性質の特徴付けを行い、解釈可能なアルゴリズムの設計基盤となる組合せ計算幾何学を展開する。
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「確率統計情報を活用する数理モデルベース適応学習制御」
細江 陽平(京都大学 大学院工学研究科 講師)
課題研究概要
モデルベースト制御では数理モデルの良し悪しが制御性能に直結しますが、対象によっては十分精度のよいモデルを得られないことがあります。本研究では、事前および事後情報に基づいてモデルの未知部分を確率過程の分布として補完し、その結果を制御に活かすことを可能にする理論と技術を開発します。これにより、さまざまな対象の自動制御化に関する社会的課題の解決への礎を築くことを目指します。
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「量子インスパイア機械学習で切り拓く超高次元脳・行動データ解析」
間島 慶(量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所 研究員)
課題研究概要
脳信号から情報を読み出す研究(脳情報デコーディング)では、脳データに特化した機械学習法を開発することで、詳細な情報の読み出しに成功してきた。しかし近年、計測技術の発展により、データの計測点数(次元数)が増加しており、計算時間増加の問題から、従来の機械学習法が適用できない事例が生じている。本計画では、量子インスパイア計算と呼ばれる計算法によりアルゴリズムの劇的な高速化を達成し、その問題を解決する。
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「発展方程式の数値計算に対する不確実性定量化理論の創出」
宮武 勇登(大阪大学 D3センター 准教授)
課題研究概要
発展方程式の数値計算は、現象の予測や理解に欠かせない現代科学の構成要素です。しかし、近年ではアルゴリズムや計算機の進展よりも需要の高まりが顕著であり、数値計算の信頼性を定量的に評価する手法が求められますが、そのための手法や理論は全く整備されていません。本研究では、これまでの数値解析学の知見に確率・統計的考え方を導入することで実用的な定量化手法と基礎理論を整備し、新しい研究トピックを創出します。
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「解釈可能AIによるパターンダイナミクスの数理構造抽出と材料情報学への応用」
本武 陽一(一橋大学 大学院ソーシャル・データサイエンス研究科 准教授)
課題研究概要
多様な材料科学分野でみられるパターンダイナミクスの理解の深化は、複雑な環境下における材料の生成や破壊過程等の時間発展を予測する上で重要である。本研究課題では、位相的データ解析、深層ニューラルネットワーク、ベイズ推論などの機械学習手法を融合させることで、パターンダイナミクスの解釈可能な数理構造を抽出する手法を開発する。これにより科学者による外挿可能な一般原理の探究が促進されることが期待される。
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「選好下のマッチングが生みだす構造の解明と活用」
横井 優(東京科学大学 情報理工学院 准教授)
課題研究概要
人と人、もしくは人と組織との間で、参加者の選好にもとづき効率的で公平なマッチングを計算するための理論は、近年大きく発展しています。本研究では、参加者がもつ様々な選好を表せる表現力豊かなモデルを考え、望ましいマッチングの集合がなす構造を解析します。そしてその結果を活かし、人々の戦略的な振る舞いも考慮しながら、公平性や最適性を達成するアルゴリズムの設計に取り組みます。