さきがけ「数学と情報科学で解き明かす多様な対象の数理構造と活用」(数理構造活)領域では、様々な対象に潜む数理構造や数学的概念を新たな「情報」として抽出し、それを次世代の社会の価値として利活用することで、私たちの認知能力を拡大し、次世代の社会や科学技術・産業の形成につなげるような情報活用基盤の創出を目指します。特に、数学・数理科学、情報科学の各分野の強みを活かしながら、領域として両分野の独立した研究者が連携・相補的に融合することにより、この目標達成を見据えた革新的な数理構造や数学的概念の提唱、その理論の構築、および、その情報化手法の研究・開発を推進します。
本領域は令和元年度に発足し3年度にわたって合計31名の研究者を採択しました。本シンポジウムでは、今年度でさきがけ研究を終了する第2期生が中心となって、数学と情報科学の連携を通じて様々な課題に挑戦してきた成果を紹介致します。
開催概要
- 日 時
- 2024年3月10日(日) 10:15~17:45
- 場 所
- AP市ヶ谷7階 会議室B
https://www.tc-forum.co.jp/ap-ichigaya/access/
- 参加費用
- 無料
- 参加定員
- 現地参加:100名
リモート参加:120名
プログラム
- 10:15
開会・事務連絡
- 10:20
総括メッセージ
セッション1
- 10:30
井元 佑介
(京都大学)
(講演25分)多重解像度の
細胞分化構造解析システムの確立
- 10:55
森岡 博史
(理化学研究所)
(講演25分)非線形表現学習による
大規模ネットワーク動的機能構造の解明
- 11:20
前原 一満
(九州大学)
(講演25分)生命現象の定性的理解を支援する
データ解析技術の創出
- 11:45
昼食休憩
セッション2
- 13:00
平原 秀一
(国立情報学研究所)
(講演25分)メタな視点に基づく
計算量理論の新展開
- 13:25
舩冨 卓哉
(奈良先端科学技術大学院大学)
(講演25分)乗法群スパースモデリングによる
幾何変換場のモデル化
- 13:50
川本 裕輔
(産業技術総合研究所)
(講演25分)統計解析プログラムのための
形式検証手法
- 14:15
休憩
セッション3
- 14:25
田中 健一郎
(東京大学)
(講演25分)最適点配置問題に内在する
近似的凸構造の探求と活用
- 14:50
町田 学
(近畿大学)
(講演25分)逆問題の級数的手法による
近赤外イメージング
- 15:15
山田 俊皓
(一橋大学)
(講演25分)マリアバン解析と深層学習による
高次元偏微分方程式の新しい計算技術
- 15:40
休憩
- 15:55
パネルディスカッション(さきがけ研究者トークライブ)
- 17:35
閉会
講演者紹介
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「多重解像度の細胞分化構造解析システムの確立」
井元 佑介 (京都大学 高等研究院 特定准教授)
課題研究概要
近年の遺伝子解析技術の急速な発展によって、様々な遺伝情報がデータ化され、そのデータ解析によって生命の設計原理が解明されつつあります。本研究では、高次元統計解析・統計的因果探索・トポロジー・力学系などの数学理論を多角的に利用して、遺伝子発現データから細胞集団・単一細胞の多重解像度の細胞分化構造を抽出する解析システムを新たに開発することで、生命の設計原理の解明に迫ります。
-
「非線形表現学習による大規模ネットワーク動的機能構造の解明」
森岡 博史 (理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIP) 研究員)
課題研究概要
本研究は、未だ多くの謎につつまれている大規模ネットワークに発現する様々な動的機能構造のメカニズムの解明を目的とします。そのために、新たな理論に基づく非線形ネットワークダイナミクス表現学習法を開発し、ネットワーク時系列データからの、非線形ダイナミクスと、その動的機能を駆動・制御している潜在因子のデータ駆動表現学習を実現することで挑戦します。
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「生命現象の定性的理解を支援するデータ解析技術の創出」
前原 一満 (九州大学 生体防御医学研究所 助教)
課題研究概要
本研究では、組合せ論的ホッジ分解をコア技術として、大規模なデータの背後に潜む定性的知識を獲得するためのデータ解析フレームワークを創出します。分子から細胞・組織スケールの複雑な生命システムを背景とする大規模計測データから、流れの構造を通した対象の定性的理解、すなわち人間に馴染みやすい概念の獲得を目指します。
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「メタな視点に基づく計算量理論の新展開」
平原 秀一 (情報・システム研究機構 国立情報学研究所 准教授)
課題研究概要
メタ計算量とは、計算量を問う問題の計算量(=問題を解くために必要な計算時間などの資源)のことを言います。例えば、回路最小化問題や時間制限付きコルモゴロフ記述量を計算する問題の計算量がその例です。近年、計算量理論においてメタ計算量の研究が国際的に進展し、重要性が認識されてきました。本研究では計算量理論をメタな視点で統一的に見直すことにより、計算量理論の難問に進展を与えることを目指します。
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「乗法群スパースモデリングによる幾何変換場のモデル化」
舩冨 卓哉 (奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 准教授)
課題研究概要
ベクトル場に局所構造を含めた「幾何変換場」を対象として、主要な因子を抽出するスパースモデリング技術および解析結果の可視化技術を開発します。幾何変換には乗法のみが許され、加法による演算は意味を成さないため、加法に基づいて定式化された従来の解析技術をそのまま適用するべきではありません。幾何変換が持つ群としての特性を活かすため、演算を乗法のみに制約したスパースモデリングの定式化を目指します。
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「統計解析プログラムのための形式検証手法」
川本 裕輔 (産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 主任研究員)
課題研究概要
プログラムが意図どおりに動作することを数理的に厳密に検証する手法として形式検証手法が研究されており、様々なソフトウェアの検証に利用されてきました。本研究では、統計解析プログラムの正しさを数理的に厳密に検証するための形式検証手法を構築します。特に、統計解析プログラムの自動検証技術を開発し、統計解析プログラムの信頼性を高めることを目指します。
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「最適点配置問題に内在する近似的凸構造の探求と活用」
田中 健一郎 (東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)
課題研究概要
ユークリッド空間内の領域に有限個の点を「最もバランス良く」配置する問題は、数学・物理・情報などの分野で解決が求められています。この問題に対しては様々な最適化手法が多くの場合に考案されていますが、一般的な解法や理論が確立されているとは言えません。本研究では、これらの手法に対して数学的な基礎付けを行い、さらにそれらを統合する「近似的凸性」という統一的視点を見出し、最良点配置の理論と算法を確立します。
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「逆問題の級数的手法による近赤外イメージング」
町田 学 (近畿大学 工学部 准教授)
課題研究概要
近赤外イメージングは被曝の心配なく簡便な装置で計測できる技術として、医学はもちろん理学・工学の様々な分野での活躍が期待されています。しかし、そこに現れるのは非線形で非常に非適切な逆問題です。本研究ではこの逆問題に対し、輻射輸送方程式を用いた高精度化と逆級数を用いた高速化で挑みます。さらに継続計測における計測間の時系列に着目し、情報科学と融合した新たなデータ駆動型アプローチを構築します。
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「マリアバン解析と深層学習による高次元偏微分方程式の新しい計算技術」
山田 俊皓 (一橋大学 大学院経済学研究科 教授)
課題研究概要
研究代表者がこれまでに構成した確率微分方程式に対するマリアバン解析を用いた高次弱近似法と深層学習の方法を融合させた高次元偏微分方程式の新しい計算技術について研究を行い、実社会や自然科学・工学の現象を記述する複雑な線形・非線形偏微分方程式モデルや大規模計算モデルに対して有益な計算法・ソリューションを提供する。