研究への情熱映像と取材記事

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現実環境仮想化による自動運転インタラクションシステムの研究

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石黒 祥生

(名古屋大学 未来社会創造機構 特任准教授)

ますます高性能化し、複雑な処理や思考が可能になるコンピュータと私たちはこれからどう付き合っていくのだろうか。ACT-I研究者の石黒さんは、自動運転車とそれに乗る人が意思疎通を図るための研究を進めている。自動運転車から提示される膨大な運転環境の情報も、バーチャル空間のゲームで表現すればスムーズに伝わる。石黒さんはそう考え、自動運転を楽しくかつ安全に行う技術の実現を目指している。

自動運転車がつくるもう一つのイノベーション
現実環境を仮想化して楽しみながら安全走行

自動運転技術の研究開発が加速している。その拠点である名古屋大学で、人と車のインタラクションを研究している石黒さん。「何の操作もいらない完全自立型の自動運転車が普及したら、乗っている人は何か新しいことができるのだろうか?」という疑問がトリガーになり、「今まで経験したことのないエンタテインメントを楽しめる空間にしよう」と、独自の研究を立ち上げた。

自動運転車は、レーザーレーダーやカメラなどからなる高度なセンサで周辺環境と自車の位置・姿勢を認識し、100%安全な自立走行を実現しようとしている。ところが、乗り心地にやや難がある。石黒さん自身、「運転席にいて目の前でハンドルが勝手に回っていると、ちょっとドキドキします」という。そのうえ、車間距離わずか数㎝ですれ違うと、その挙動に人が驚いてしまう「オートメーションサプライズ」が起きる。それが、緊急停止ボタンを押すなどの人為ミスにつながる恐れもある。

こうした問題が生じるのは、車が認識した情報を人が咀嚼(そしゃく)できないためで、車から情報提示を行い、意思疎通を図る必要がある。従来の車では、加速したり車線変更をする際、注意を喚起するためのアノテーション(関連情報)をモニター上に出したり、警告音を鳴らして情報提示を行ってきた。開発中の最先端自動運転車は、周囲360度を最大120mの範囲まで、計130万点を計測することができる。この膨大な情報を従来と同じ方法で人に提示したら、オートメーションサプライズをさらに増大させてしまう。新しい技術で対応しなければならない。

「車から人へ情報を提示するとき、楽しみを加えたい」と石黒さんは考えた。自動運転車は安全のために三次元空間のさまざまな情報を計測している。この情報を使えば、自分の好きな空間を組み立てることができる。そこで、車両が得た情報を仮想化して提示し、乗っている人はヘッドマウントディスプレイ(HMD)をつけて簡単なゲームを楽しめるシステムを開発した。例えば、「駐車している車両をよける」、「歩行者が飛び出してきて急ハンドルを切る」という状況を、それぞれ「障害物の回避」、「モンスターの襲来」のイベントに変換し、車の動きを反映させる。それを見た人は、走行する車の重力加速度を体感しながらゲームをすることになるので、不安感や不快感がなくなると考えられる。

その効果を見るため、現在、現実環境(HMD装着なし)と仮想環境(HMD装着)での走行を比較する実験を進めている。実験はまだ途中だが、バーチャルリアリティ(VR)の映像を見たときに起こる「酔い」はほとんどなく、車と人との情報が共有されていると評価されている。

この研究を実用化につなげていくキーテクノロジーは、現実環境を仮想化空間に対応させるためのソフトウェアである。対象となる情報量が大きいので、重要度の高い順に開発を始め、段階的に進めていくという。具体例で説明すると、基本的な走行経路情報である「信号停止」を、止まっていたいと感じる「お気に入りのキャラクターが見える」シーンに変換する。ところが、そのシーンは人によって異なる。オートメーションサプライズの度合いや感覚も人さまざまで、また年代によっても違ってくる。ユーザーが自由に選べるような選択肢を用意する必要がある。

ソフトウェアをもとにしてつくるゲームコンテンツにも多様性が求められる。現在は、既存のゲームエンジンでつくった簡単なコンテンツで基礎実験を行っているが、「最先端のゲーム技術の導入やゲームデザイナーが参入してくれれば、『ポケモンGO』のようなヒット作ができるかもしれません」と期待している。
応用の幅も広がっていくことだろう。バスや船、飛行機まで、現状を把握しながら移動する乗り物全般に応用することができる。

「乗り物だけに限りません。機械やコンピュータと人とのインタラクションが問題になっているさまざまな場面に応用できます」と石黒さん。将来、センサが小型化し、かつ安価になったら、スマートフォンのように人が持ち歩く機器に使うこともできるだろう。

「自動運転車の普及にも役立てたいですね。自動運転車はまだハードルが高く、不安感を与えています。エンタテインメントという付加価値が、自動運転車に乗ってもらえるきっかけになればと考えています」。

石黒さんの研究は自動運転車とともに進歩し、未来社会に深く浸透していこうとしている。

*取材した研究者の所属・役職の表記は取材当時のものです。

研究者インタビュー

インタビュー動画

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より深く知りたい方へ

研究について

この研究は、ACT-I研究領域「情報と未来(後藤真孝 研究総括)」の一環として進められています。また、ACT-I制度の詳細はこちらをご参照ください。

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