プロテオリポソーム工学

人工細胞法によるイオンチャネルプロテオリポソームの構築と機能解析
 カリウムイオンを選択的に輸送することで細胞内外のカリウム濃度を調整しているカリウムチャネルは、細胞の活動電位の調整、細胞間同調、また、インスリン分泌など様々な生理現象に深く関わっています。このことからも、カリウムチャネルの構造・機能を迅速に解析可能となれば、生命現象の理解、また、カリウムチャネルに対する創薬開発が加速度的に飛躍します。カリウムチャネルをはじめとした膜タンパク質の構造・機能解析は、人工的に調製したリン脂質二重膜(リポソーム)に膜タンパク質を再構成することで可能となりますが、その再構成操作は容易なものではなく、解決すべき課題が山積しているのが現状です。我々はこれまでに、試験管内で膜タンパク質を合成する反応(無細胞膜タンパク質合成)にリポソームを添加することで膜タンパク質が自発的に再構成されることを見出しています。そこで今回、この技術を用いて放射菌Streptomyces LividansのカリウムチャネルであるKcsAの再構成を試みました。その結果、無細胞膜タンパク質合成反応溶液にリポソームを混ぜるといった簡単な操作でKcsAの再構成することができ、KcsAが持つ電位依存性、pH依存性といった電気生理学的機能の確認に成功しました。また、再構成から機能解析に要する時間も従来1週間程度かかるものが、わずか半日以内と短縮することに成功しました。 プロテオリポソーム 図1
 図1 無細胞膜タンパク質/リポソームシステムを利用した
 KcsA再構成リポソームの調製             

無細胞膜タンパク質/リポソームシステムを用いて合成したKcsAは発現と同時にリポソーム膜へ組込まれ、活性本体である4量体を形成した。脂質平面膜へ展開した後、KcsAの電気生理学評価を行った。 
論文
M. Ando, M. Akiyama, D. Okuno, M. Hirano, T. Ide, S. Sawada, Y. Sasaki, K. Akiyoshi, Liposome chaperon in cell-free membrane protein synthesis: one-step preparation of KcsA-integrated liposomes and electrophysiological analysis by the planar bilayer method, Biomater Sci-Uk (2016).
リポソームによる大腸菌膜タンパク質可溶化の網羅的解析
 これまでに我々は、無細胞膜タンパク質合成反応液にリポソーム添加することで簡便にリポソームへ再構成可能であることを見出しています。しかしながら、リポソームへの再構成効率は再構成したい膜タンパク質そのものの性質に強く依存しており、現在までに多種多様な膜タンパク質の構造とリポソームヘの再構成効率を系統立てて解析できていません。そこで大腸菌由来の85種類の膜タンパク質を無作為抽出し、リポソーム存在下、無細胞膜タンパク質合成を行いました。リポソームが膜タンパク質の可溶化に与える影響を包括的に解析することで、リポソームによる膜タンパク質の可溶化とその構造的特徴の相関関係を明らかにすること目的とし、研究を行いました。可溶化率を評価した結果、リポソームの添加無しでは、70%以上の膜タンパク質で可溶化率は5%以下であったのに対し、リポソームを添加することで90%以上の膜タンパク質で可溶化率が50%以上に増加しました。得られた可溶化率と膜タンパク質の構造的特徴とをバイオインフォマティクス解析した結果、膜タンパク質の構造的特徴の中で、特に18因子がリポソームによる可溶化率と相関関係を示すことが明らかとなりました。 プロテオリポソーム 図2
 図2  リポソームが大腸菌膜タンパク質の可溶化に与える影響
85種類の大腸菌膜タンパク質を無作為抽出し、無細胞膜タンパク質/リポソームシステムを用いて膜タンパク質の可溶化に与える影響を評価した。得られた結果をもとにバイオインフォマティクス解析を行い、膜タンパク質の構造的特徴とリポソームによる可溶化の相関を調べた。                          
論文
T. Niwa, Y. Sasaki,E. Uemura, S. Nakamura, M. Akiyama, M. Ando,S. Sawada, S. Mukai,T. Ueda, H. Taguchi, and K. Akiyoshi, Comprehensive study of liposomeassisted synthesis of membrane proteins using a reconstituted cell-free translation system、Scientific Reports, in press, Doi:10.1038/srep18025 (2015)