平成23年度研究代表者

大村 達夫 迅速・高精度・網羅的な病原微生物検出による水監視システムの開発
沖 大幹 安全で持続可能な水利用のための放射性物質移流拡散シミュレータの開発
小杉 賢一朗 良質で安全な水の持続的な供給を実現するための山体地下水資源開発技術の構築
都留 稔了 多様な水源に対応できるロバストRO/NF膜の開発

迅速・高精度・網羅的な病原微生物検出による水監視システムの開発

大村 達夫

研究代表者

大村 達夫
東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授

共同研究者

押谷 仁
東北大学 大学院医学系研究科 教授
渡部 徹
山形大学 農学部 教授

 水循環系を媒介とする感染症リスクの拡大防止策は脆弱であり,安全で安心な水利用を期待する人々に社会的不安をもたらしています。本研究では、毎年560万人にのぼる感染性胃腸炎患者数を低減する新しい水監視システムの構築を目指します。下水中の病原微生物を迅速・高精度・網羅的に検出する技術を新たに開発し、その技術を用いて都市下水を継続的に監視することで、感染症発生後速やかに社会に情報を発信することが可能となります。これにより、感染が拡大する前に感染拡大防止策をとれるため、感染拡大を大幅に抑制することが期待されます。

迅速・高精度・網羅的な病原体微生物検出による水監視システムの開発

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安全で持続可能な水利用のための放射性物質移流拡散シミュレータの開発

沖 大幹

研究代表者

沖 大幹
東京大学 生産技術研究所 教授

共同研究者

芳村 圭
東京大学 生産技術研究所 准教授
末木 啓介
筑波大学 数理物質系 教授
村上 道夫
福島県立医科大学 医学部 准教授

  2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一発電所の事故により大量の放射性物質が環境中に放出されました。一部は大気中の移流拡散過程を通じて広域に広がり、河川等に流出し、水道水源に到達して浄水から放射性物質が検出されました。また、食品からも放射性物質が検出されました。
 このような事故は二度とあってはならないことですが、不測の事態に対する準備を怠らないことも大切です。持続可能な水利用のためには、人類が利用しようとする水源の水が利用に適しているかどうかを的確に診断予測する技術が不可欠といえます。本研究では、ヨウ素131 やセシウム137 等の放射性物質が大気の流れによって移動し、雨などに伴って地表面に降下し、土砂等とともに水の流れに沿って川を流下して、どういうタイミングでどの程度の濃度で水道取水源に到達するかを推計できるシミュレータを構築します。また、飲食物中の放射性物質濃度と農作物の産地情報、平均的な摂取量から、飲食物由来の被曝量を推定します。
 本研究により、一時的な取水停止や積極的な水処理の実施など臨機応変な対応によって安全な水質が確保されるようになり、安全で安心な水利用の実現に貢献することが期待できます。さらに降水や土壌、流水の中の放射性物質濃度観測値等をどの程度再現できるかという研究を通じて、化学物質の大気中、水圏中の循環に関する我々の理解を確認し、必要に応じて修正、改良することが可能となるなど、科学技術・学術の推進にも役立つことが期待されます。また、飲食物由来の被曝量の推計結果は、今後、緊急時における規制値を定める際に役立つ資料となることも期待できます。

安全で持続可能な放射線物質移流拡散シュミレータの開発

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良質で安全な水の持続的な供給を実現するための山体地下水資源開発技術の構築

小杉 賢一朗

研究代表者

小杉 賢一朗
京都大学 大学院農学研究科 教授

共同研究者

勝山 正則
京都大学 学際融合教育研究推進センター 特定准教授
松四 雄騎
京都大学 防災研究所 准教授
中村 公人
京都大学 大学院農学研究科 准教授
佐山 敬洋
京都大学 防災研究所 准教授
藤本 将光
立命館大学 総合理工学院理工学部 助教
山川 陽祐
筑波大学 農林技術センター 助教

  気候変動等によるリスクが高まる中,良質で安全な水の持続的な供給を実現するためには,本来の自然の力を活かした,汚染や災害に強い水資源開発を行うことが重要です。本研究では,今後の開発が期待される水資源として,河川源流域における山体地下水に着目しました。日本の山地は地形が急峻であり,従来から水資源開発は難しいと考えられてきましたが,最新の水文研究によって,降水の多くが山体基岩内に浸透し,地形が急峻な山体ほど大量の地下水を有している可能性が示されています。
 良質で安全な水供給を持続させるためには,互いに独立した涵養域を持つ取水源を多数開発することで水資源の多様性を確保し,リスクを分散することが必要になりますが,源流域の山体地下水開発は正にこの要件を満たしています。同時に山体地下水は,元々の水質が良好であり,人間の生産活動の影響を受けにくく涵養域の汚染状況の把握が容易など,水質事故に強い水資源でもあります。また,急峻な地形を活かした取水が行えるので,大規模な構造物が不要であり,災害時の電力不足に強く,省エネルギーにも役立ちます。さらに取水による水位低下の結果,気候変動により集中豪雨が増加した場合でも,過剰な雨水が地下水賦存量回復に充てられ洪水が軽減されます。水位低下は山体斜面の深層崩壊防止にも効果的であり,人的被害や水道施設の破損,水源地の荒廃を抑制します。このように山体地下水の利用は,災害の軽減や国土の保全にも役立つというwin-winの関係をもたらすと期待されます。
 本研究では,観測が容易な山地河川流出水に着目し,その水量や水質のシグナルを的確に解析する手法を検討することで,山体地下水の賦存・流動状況を把握する手法を開発します。この手法を,最新のリモートセンシング・物理探査手法と効果的に組合わせることによって,水資源開発に適した山体地下水帯を効率よく探査・開発するための革新的な技術の構築を目指します。この技術によって,国土の73%を占める山地の山体を天然のダムとして活用し,水資源の多様性を確保することで良質・安全な水の持続的供給を実現すると同時に,洪水・土砂災害の軽減を図ることが期待できます。

良質で安全な水の持続的な供給を実現するための山体地下水資源開発技術の構築

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多様な水源に対応できるロバストRO/NF膜の開発

都留 稔了

研究代表者

都留 稔了
広島大学 大学院工学研究院 教授

共同研究者

大下 浄治
広島大学 大学院工学研究院 教授
西嶋 渉
広島大学 環境安全センター 教授
廣瀬 雅彦
日東電工株式会社 メンブレン事業部 開発技術部 部長
堤 行彦
福山市立大学 都市経営学部 教授

 膜分離法は、健全で持続可能な水再生・再利用のために必要不可欠な技術となっています。日本は世界トップの膜製造技術とシェアを誇りますが、現状では膜汚染や膜洗浄の困難さなど多くの課題があります。本研究では、塩素存在下で、広範囲のpHおよび熱水などの過酷な条件でも使用可能なロバスト性を有する逆浸透/ナノろ過(RO/NF)膜を開発するとともに、多様な水源への対応可能性を明らかにし、その実用化のための実証試験を行います。この技術開発によって日本の膜技術と膜処理システムが世界を引き続きリードすることが期待できます。

多様な水源に対応できるロバストRO/NF膜の開発

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