本研究領域のご紹介

はじめに

「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」は、JSTが推進する戦略的創造研究推進事業のうち「CREST」で2009年に発足した研究領域です。
戦略的創造研究推進事業は、国の政策目標に向けてトップダウン型に目的基礎研究を推進する事業です。CRESTはそのうち、研究チームを編成して研究課題を実施するプログラムで、研究総括の領域マネージメントの下で各研究チームの研究代表者が研究を実施します。<詳しくはコチラ

副研究総括 依田幹雄 (株)日立製作所サービス&プラットフォームビジネスユニット 技術主管
副研究総括 依田幹雄
(株)日立製作所サービス&プラットフォームビジネスユニット 技術主管
研究総括 大垣眞一郎 公益財団法人 水道技術研究センター 理事長
研究総括 大垣眞一郎
公益財団法人 水道技術研究センター 理事長

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研究領域の概要

本研究領域は、現在抱えている、あるいは気候変動などによって将来さらに深刻化すると予想される国内外の様々な水問題への 適応策となる、物理的・社会的な水利用システムの創出を目指します。革新的な水処理技術や水資源管理システムによって、 水供給、排出、再利用、資源回収における、水の質と量の統合的な最適化を行い、エネルギー、コスト、環境負荷、健康・環境への安全性、 地域社会の状況などの観点からもっとも合理的で持続可能な水資源の利用システムを提起する研究で、かつ、実社会への適用性を十分に配慮した 研究を対象とします。

具体的には、膜、オゾン、セラミックスなどによる高度処理に関する基盤要素技術開発とそれらの利用システム技術、 水質評価手法、成熟度の高い技術と革新的技術との統合化による上水、下水、工業用水、農業用水、工場排水などの造水・処理・循環・資源回収システム、 地下水の利用も含めた水圏の総合的水資源・水環境管理、水質管理システム、また、新しい原理による革新的な浄水・造水・水利用技術の 開発などに関する研究が含まれます。

領域の課題分布図

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領域アドバイザー

研究総括
大垣 眞一郎 公益財団法人 水道技術研究センター 理事長
副研究総括
依田 幹雄 (株)日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 技術主管
領域アドバイザー
浅野 孝 カリフォルニア大学デービス校 土木環境工学科 名誉教授
国包 章一 元・静岡県立大学 環境科学研究所 教授
清水 慧 (株)日水コン 名誉顧問
砂田 憲吾 山梨大学 特命教授
津野 洋 大阪産業大学 人間環境学部 教授
宮 晶子 水ing(株) 技術・開発本部 技術開発統括 執行役員
宮崎 毅 東京大学 名誉教授
渡邉 正孝 中央大学 教授
渡辺 義公 中央大学 研究開発機構 機構教授

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戦略目標

※戦略目標とは国の科学技術政策や社会的・経済的ニーズを踏まえ、 国(文部科学省)が設定する社会的インパクトの大きい目標で、研究成果が将来国民へ還元された時の姿を示すものです。当研究領域はこの戦略目標を達成するためにJSTによって定められました。

  1. 戦略目標名

    気候変動等により深刻化する水問題を緩和し持続可能な水利用を実現する革新的技術の創出

  2. 具体的内容

    気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2007年に発表した第4次評価報告書において、地球温暖化はもはや疑う余地がなく、その原因のほとんどは人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高いとの評価を科学的根拠とともに示した。
    気温の上昇は、水を取り巻く環境に対しても影響を与えている。多くの地域において、1900年から2005年にかけての降水量には長期変化傾向が観測され、降水量がかなり増加した地域や厳しい干ばつに見舞われる地域が拡大している。また、湖沼や河川等では、水温上昇が原因となる水温分布の変化や水質の悪化が生じている。地球温暖化による将来の影響に関する現在の知見としては、干ばつの影響を受ける地域の面積が増加する可能性が高いこと、強い降雨現象の頻度が増す可能性が非常に高く、洪水リスクが増加すること、海面上昇によって沿岸地下水が塩水化すること等、今後全地球的に地域ごとの水資源の存在形態が大きく変わることが予測される。

    水は、農業・食糧、生態系・生物多様性、資源・エネルギー、保健衛生とも密接に関連していることから、地球温暖化に伴う水循環の変化は、直接的にも間接的にも地球規模の全人類的な問題の原因となる。人口の増減や都市への人口集中、ライフスタイルの変化等に起因する世界的な水問題の激化を地球温暖化がさらに加速させ、先進国・途上国を問わず経済成長の鈍化、食糧危機、水を巡る紛争等人類の安全保障とも直結する問題を引き起こす可能性にも繋がる。

    地球温暖化の原因物質とされる温室効果ガス排出に対して最も厳しい緩和努力を行っても、今後数十年間は気候変動のさらなる影響を回避することは難しく、IPCC第4次評価報告書でも警告されているように、短期的な影響に対して何らかの適応策を講じることが特に必要不可欠である。例えば、我が国においても気候変動によって極端な少雨や多雨の現象等が多発し、洪水・渇水リスクの増大が見込まれたり、河川・湖沼の水質悪化が危惧されるなど、水の量・質の両面にわたって将来の国民生活の安全・安心を脅かす問題が生じることが予測されている。このような気候変動に伴う水環境の変化により生じる水問題に対しては、精度の高い水循環予測に基づく中長期の水の需給バランスを考慮した利用・管理計画を地域レベルで立てることが重要であるとともに、水問題の緩和や適応に資する技術の開発とそれら技術の社会への効果的な適応が必要である。

    本戦略目標は、気候変動などによって激化する水問題事例を具体的に設定し、実社会への適用性を十分に考慮した上で、水に関わる新たな技術の開発や成熟度の高い複数の技術を統合化する技術の開発等を行うものである。なお、本戦略目標では、我が国における個別の地域問題の解決を目指す取組も対象となるが、その様な研究であっても、得られるであろう普遍的な知見によって、広く世界の水問題解決に展開が期待できる取組を重視する。

  3. 政策上の位置付け

    平成20年7月のG8北海道洞爺湖サミット首脳文書においては、水に関する知見と技術について、開発途上国との共有や気候変動への適応等の必要な行動等によって統合水資源管理及び「水の良いガバナンス」を推進することとされており、平成20年6月沖縄で開催されたG8科学技術大臣会合の議長サマリーにおいては、「今後重点的に科学技術協力を進めていく研究分野として、開発途上国にとって特に重要な水等の持続的供給の発展がある」と指摘されている。

    また、「科学技術外交の強化に向けて」(平成20年5月総合科学技術会議)においては、科学技術外交を推進するために取り組むべき課題として、我が国の優れた科学技術を活用したアフリカ等の開発途上国における水に対する取組の実施が挙げられている。

    これらに向けた取組は、第3期科学技術基本計画の個別政策目標「③-11健全な水循環と持続可能な水利用を実現する」に対応し、分野別推進戦略における環境分野の「水・物質循環と流域圏研究領域」及び社会基盤分野の重要な研究開発課題「水循環・物質循環の総合的なマネジメント」に位置づけられるものである。

    「地球環境科学技術に関する研究開発の推進方策について」(平成20年8月 科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会)において、地球規模水循環変動により水資源供給に過不足が生じて人間社会が被る悪影響を回避、あるいは最小化する等のための基礎的・基盤的研究開発として、流域規模から地球規模の水循環変動の先進的な観測技術の開発や水資源管理に係わる研究開発等の推進が必要であるとされている。

  4. 本研究事業の位置付け、他の関連施策との切り分け、政策効果の違い

    環境科学技術は、単に真理の探究や高度な技術開発のみにとどまるものではなく、実際に環境問題の解決に繋がる、社会環境を変えるようなものでなければならない。そのためには、基礎・基盤的研究であっても環境改善に導くものを含んでいなければならず、問題の解明や解決に資する科学的知見の集積、要素技術の開発、技術の社会への適用方策、社会システム設計等の様々な分野を考慮し、総合的な視点で戦略的に取り組む必要がある。

    環境分野に関連した戦略的創造研究推進事業としては、平成7年度開始の「環境低負荷型の社会システム」、平成9年度開始の「地球変動のメカニズム」、平成10年度開始の「資源循環・エネルギーミニマム型社会システム技術」、平成13年度開始の「水の循環系モデリングと利用システム」がある。それらの中で水分野に関連した「水の循環系モデリングと利用システム」では、気候変動・水循環等のメカニズム解明のための研究や、社会における持続可能で効率的な水利用システムのための技術開発等が行われてきた。

    水問題に対処する新たな社会を実現するための基礎を築くためには、関係省庁・研究機関が取り組む対策技術開発や個別分野で行われている影響評価研究等の枠を超えて、自然科学や技術開発の分野から人文・社会科学の分野まで、分野横断的で総合的な視野に立った研究・技術開発を推進することが求められる。このためこれまでの戦略的創造研究推進事業において取り組んできた水循環の諸過程の解明に向けた取組と効率的な水利用システムに関する研究・技術の開発をさらに発展させるとともに、IPCC第4次評価報告書等で指摘された地球温暖化に関する科学的知見や社会情勢を踏まえ、予測される深刻な水問題を克服できる社会を実現するための研究・技術開発を推進する。

  5. 将来実現しうる成果等のイメージ

    社会が抱える水問題の解決には、その問題の多様な背景を的確に把握した上で問題解決に資することが期待できる革新的な技術や既存の複数の技術の最適な組み合せ、さらにそれら技術を社会の中に効果的に適用させることが求められる。

    本戦略目標では、

    • 利用に適さない水や排水を安全・安心な水として利用するため、膜や生物処理による造水・水浄化技術、サニテーション技術等の水の質の問題を解決する技術、
    • 気候変動に伴う水循環の変化によって生じる水の偏在によって引き起こされる諸問題を緩和するため、これまでにない水貯留技術、水再循環利用技術、緑化等による保水能力強化、節水型農業・栽培技術等の水の量の問題を解決する技術など、

    水の質や量に係わる問題の解決に資する革新的技術の開発を進める。また、社会への効果的な適用を念頭に置いた要素技術の統合化のための研究・技術開発を進めることによって、気候変動などで今後より激化する水問題を克服できる社会を実現するためのイノベーションを創出することを成果として想定する。これにより、我が国において世界に先駆ける革新的な水資源管理を実現するとともに、日本の高度な科学技術を活用して深刻な水問題に直面する開発途上国を初めとする世界へ貢献することによる国際的なリーダーシップの発揮、日本発の水ビジネスの国内外への展開を支援することも可能となる。

  6. 科学的裏付け

    かつて我が国は深刻な水質汚染の問題に直面し、汚染問題の解決を図るため様々な水質の改善や処理に係わる技術の開発を行ってきた。これら水質改善・処理技術に関する我が国の現状と国際比較については、「科学技術・研究開発の国際比較 2008年版 (環境技術分野)」(平成20年2月 科学技術振興機構研究開発戦略センター)に詳しくまとめられている。その報告によれば、我が国では、産業排水に対して条例や地域協定等でより厳しい放流水質を求められるケースが多いことから、水処理企業での技術開発水準や産業技術力は高い。大学や国立研究機関における研究では、生物学的排水処理における微生物叢解析等の特定分野の研究は活発であり、下水や生活排水の処理を対象とした研究が多い。特に、水処理に関連した膜ろ過材料分野においては、ナノテクノロジー技術による逆浸透膜の製造シェアは日本が先導している。

    また、我が国は降水や水賦存量等水循環に関する観測・予測や生活に利用する水の検査等については高い技術を持つが、それら技術をより高精度化し標準化することによって、気候変動に伴う水問題の克服に活用することが可能である。一方、水循環において重要な役割を果たすとともに、貴重な水資源として活用されている地下水に関しては、その実態の把握は不十分であり今後のさらなる研究が必要とされている。

    我が国には水問題の解決に資する技術については優れたものが多い。それら技術をさらに高めるとともに、水問題の解決に取り組む様々な科学技術、人文・社会科学等の分野横断的連携を促進して、対象とする水問題に適合した技術体系やシステムを構築し普及するための研究・技術開発を展開することによって、気候変動や社会活動形態の変化に伴いさらに激化する水問題の克服が可能となる。

  7. 留意点

    本戦略目標では、様々な水問題のうち、社会的重要性・緊急性が高く、かつ問題解決のために革新的な技術開発が要求される水問題に焦点を絞って実施する。また、水問題を克服できる社会を実現するためのイノベーションの創出のためには革新的技術の開発が不可欠であるが、単なる技術開発に留まることなく、それぞれの技術をどのような形で社会へ実装させていくのか、その形を見極めつつ進めることが必要である。したがって、本戦略目標に基づく研究事業においては、個別課題の技術的深化のみに留まらない運営に十分留意するものとする。

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