平成21年度研究代表者

岡部 聡 水循環の基盤となる革新的水処理システムの創出
恩田 裕一 荒廃人工林の管理による流量増加と河川環境の改善を図る革新的な技術の開発
鼎 信次郎 世界の持続可能な水利用の長期ビジョン作成
田中 宏明 21世紀型都市水循環系の構築のための水再生技術の開発と評価
中尾 真一 地域水資源利用システムを構築するためのIntegrated Intelligent Satellite System(IISS)の適用
藤原 拓 気候変動を考慮した農業地域の面的水管理・カスケード型資源循環システムの構築
古米 弘明 気候変動に適応した調和型都市圏水利用システムの開発

水循環の基盤となる革新的水処理システムの創出

岡部 聡

研究代表者

岡部 聡
(北海道大学 大学院工学研究院 環境創生工学部門 教授)

共同研究者

山崎 弘太郎
(大阪市水道局 浄水統括担当部 部長)
小林 健一
(阪神水道企業団 技術部 部長)
大和 信大
(メタウォーター株式会社 R&Dセンター 環境システム開発部 水処理プロセス開発グループ 研究開発員)

地球温暖化など気候変動による海面上昇や局地的な洪水の発生、加えて産業発展、都市化、人口増加などにより、世界的な水不足や水質・水源汚染が進行しています。このような状況下においても、安全・安心な水の安定的供給が強く求められています。安全・安心な水を安定的に供給するためには、従来のような一過型の水利用から脱却し、多様な水資源を有効活用することを可能にする自律・分散型の水循環システムを構築することが重要となります。この新たな水循環システム構築の鍵は、水の量的管理から質的管理へ転換することです。例えば、水需要の大部分を占める非飲用系の用水(工場用水、修景用水、親水用水など)には、高度に処理した下・廃水(再利用水)を用いることより対応します。

このような背景のもと、本プロジェクトは、「膜分離技術」と「バイオテクノロジー」を積極的に活用・融合し,革新的水処理技術の創出及び処理水(再生水)の迅速かつ正確な安全性評価を可能とする新規技術の開発・整備を行うことを目指します。具体的には、水循環システム構築に必須である自律・分散型の先端的水処理技術の開発、および水の安全性評価・管理手法の開発を行います。先端的水処理技術の開発に関しては、原水水質や目的に応じて、膜分離技術と既存の各種水処理プロセスを組合せ、処理全体の省エネルギー化、および高効率化を達成します。また、水の安全性評価・管理手法の開発に関しては、微量汚染化学物質リスクと病原微生物(ウイルス、細菌)リスクを対象とし、トキシコゲノミクスを用いた新規多指標型毒性評価法の開発や腸管系ウイルスの感染性評価法の確立を目指します。加えて、実証プラントを運転し、新規水循環システムとしての妥当性を総合的に検討し社会への適用を目指します。
本プロジェクトで提案する先端的下水処理システムの処理水は,既存の活性汚泥法と比較すると水質面で飛躍的に向上したものとなります。また、省エネルギー化,低コスト化,高効率化,及びコンパクト化が達成されれば,下・廃水処理システムの自律・分散型配置が可能となり,公共用水域の水質改善に大きく寄与するとともに,様々な用途での水の再利用が可能となります。また、水の安全性評価に関しては、毒性が未知の化学物質を含め多種多様の微量汚染化学物質について、個別の健康リスク評価を行うことには限界があります。本プロジェクトにより多くの化学物質の安全性評価を一括して行うことができる新規多指標型バイオアッセイが開発できれば、総合指標による水の安全性評価・管理手法の導入が可能となります。
本プロジェクトの成果の社会的波及効果として、従来の下水道などの大きなインフラ建設を不要とするため,我が国よりも水資源問題がより深刻な諸外国(特に新興国や発展途上国)にも適用できます。また、我が国の分離膜技術を用いた水処理技術は世界のトップレベルにあり、日本企業が分離膜の世界市場の約7割を占めています。提案する新規水循環システムや水の安全性評価技術が次世代において世界で広く取り入れられれば、2025年には100兆円にも達するとも言われる水ビジネスの巨大市場において、日本の国際競争を飛躍的に高めることができると期待されます。
(研究期間は平成21年10月~平成25年3月)

水循環の基盤となる革新的水処理システムの創出

ページの上へ

荒廃人工林の管理による流量増加と河川環境の改善を図る革新的な技術の開発

恩田 裕一

研究代表者

恩田 裕一
(筑波大学 アイソトープ環境動態研究センター 教授)

共同研究者

大槻 恭一
(九州大学 農学研究院 教授)
竹中 千里
(名古屋大学 大学院生命農学研究科 教授)
蔵治 光一郎
(東京大学 大学院農学生命科学研究科附属演習林 准教授)
五味 高志
(東京農工大学 大学院農学研究院 准教授)
小杉 賢一朗
(京都大学 大学院農学研究科 准教授)
芳賀 弘和
(鳥取大学 農学部 准教授)
野々田 稔郎
(三重県林業研究所 森林環境研究課 主幹研究員)

森林が国土の65%以上を占める我が国では,その4割以上はスギ・ヒノキ人工林からなる。人工林の多くが貯水池や人口密集地の周辺に存在していることから,日本の水資源は人工林からの水供給に依拠している部分が多いが,近年林業労働力の不足や木材価格の低迷により,適切な管理が行き届かずに荒廃化してしまう人工林が増大している。荒廃人工林では,林内が暗く下層植生が消失し,表土流亡や表面流発生が起きるため,健全な水源涵養機能が発揮されない現状がある。これに加え,近年では気候変動に伴い,渇水と短期降雨量の増大が観測されており,山地流域からの安全かつ安定した水供給が脅かされつつある。
最近の研究成果により,荒廃ヒノキ人工林に本数間伐率50-60%の強度間伐を行うと,林床が下層植生で被覆され浸透能力が上昇し,表面流発生・濁水発生の危険性を減少させることが明らかになった。この一方,間伐は樹冠降雨遮断による蒸発を減少させるため,強度間伐は地表面到達降雨ならびに地下水涵養量を増大させる可能性が大きい。しかしながら,現在の日本における強度間伐は30%程度のものが多く,50%以上の強度間伐が実際の水・土砂流出に与える影響は不明であった。本プロジェクトでは,強度間伐による荒廃人工林の管理が,渇水流量や河川の濁質成分に与える効果を実証的に解明する。そして,荒廃人工林の管理によって水供給量の平準化・河川水質の改善をもたらすという,革新的な水資源管理技術を開発することを目指す。
観測は,間伐前の流量データが蓄積されている3流域(愛知・三重・高知)と,詳細観測を展開する2流域(栃木・福岡)で行う。全流域で本数間伐率50%以上の強度間伐を実施し,間伐前後の水・土砂流出を観測する。降雨流出素過程(降水・蒸発散・土壌水分・地下水・表面流・流出)を観測し,各要素の水質・水の安定同位体比から,水流出機構の変化をトレースする。土砂流出は,表面流出土砂・渓流水の浮遊砂を定量観測し,降下放射性同位体から河川流入土砂の起源を明らかにする。これに加え,新規流域では,入れ子状に配置した流域の比較からスケール効果を把握し,更に点状・列状の異なる間伐方法の比較や,スギ・ヒノキの異なる樹種の比較を行う。以上の現地データに基づき,強度間伐が水・土砂流出に与える影響を実証し,蒸発散・土壌水分・水流出・水質について森林状態に応じた降雨応答モデルを作成する。
一方で,管理によって変化する森林状態を把握できるようにするため,全流域で航空機レーザー測量を行い,間伐前後の林内相対照度の分布の差異を用いて,リモートセンシング手法から樹冠および下層植生の空間分布を推定するモデルを構築する。このモデルを先述の各モデルと共に分布型水・土砂流出モデルに組み込み,ある森林状態における流域からの水・土砂流出をシミュレートできるようにする。そして,管理方法の違いを考慮に入れた森林管理成長シナリオに基づいて統合化する。これにより間伐量および間伐後の時間経過に対応するシミュレーションを行えるようになり,森林状態の変化の影響を含む水・土砂流出モデルがアウトプットされる。この統合モデルは,航空機レーザー測量による森林状態の現状把握により,濁質を減少させ渇水流量を最大化させるための,具体的な森林管理手法シナリオを提示することを目指す。

荒廃人口林の管理による流量増加と河川環境の改善を図る革新的な技術の開発

ページの上へ

世界の持続可能な水利用の長期ビジョン作成

鼎 信次郎

研究代表者

鼎 信次郎
(東京工業大学 大学院理工学研究科 教授)

共同研究者

長野 宇規
(神戸大学 大学院農学研究科食料共生システム学専攻 准教授)
遠藤 崇浩
(大阪府立大学 現代システム科学域 准教授)
吉村 千洋
(東京工業大学 大学院理工学研究科 准教授)
花崎 直太
(独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター 主任研究員)
山田 朋人
(北海道大学 大学院工学研究院 准教授)
平林 由希子
(東京大学 大学院工学研究科付属総合研究機構 准教授)

世界は水危機であると喧伝されているが、国連のミレニアム開発目標に謳われているような食料増産を実現し、低炭素社会に伴うバイオ燃料増産を実現したならば、世界の水危機状態は一層、深刻化すると危惧される。途上国の人口増加、穀物から肉類への食生活の変化も水危機に拍車をかける。ここで、水危機の対象は河川水などの所謂Blue Waterだけにとどまらない。天水農業地帯や自然生態系における土壌水分(所謂Green Water)も、今や水危機の重要な対象であることを忘れてはならない。
たとえば地球温暖化問題の場合には、将来の気候変化の長期見通しに基づいて2度の気温上昇とそれに対応するガス排出量がCritical Levelとして提案され、さらにCritical Levelを回避するための道筋(Pathway)も提示された。それによって、いまや社会全体が動きつつある。同様に、世界の水危機を回避し持続可能な水利用を目指すためには、節水技術や浄化技術などはもちろん重要ではあるが、効果的な水処理技術の投入のためにも、地球温暖化問題と同様の情報創出プロセスが不可欠であろう。つまり、マクロな水需給の長期見通しを作成すると共にCritical Levelを決定すべきである。さらに、長期見通しとCritical Levelに基づいた、危機回避のための将来の道筋(Pathway)の提示が必要であろう。
そこで本研究は、地球温暖化問題に対して行なわれたのと同様のこれらの情報創出プロセスを、世界の水資源逼迫問題に対しても行うことを目標とする。すなわち、長期見通しの作成、Critical Levelの決定、持続可能な水利用の実現への道筋の提示、である。
具体的な研究の手順は以下の通りを予定している。

  • 気候変化や人口の増減、土地利用や社会の変化などに関して様々な将来シナリオを設定し、それぞれのシナリオ下での水需給の長期見通しを数値シミュレーションによって作成する。
  • また、農業など水資源に依存した生産活動の低下の防止、地下水の枯渇の防止、生態系の保全などの様々な要素を考慮した上で、世界全体および幾つかの対象地域における水資源利用の持続可能性を評価する。本領域の目標である「持続可能な水利用の実現」のためには、どこで持続可能でない水利用が行なわれているのか、それがどのように深刻化しそうか、などを知る必要があるが、これまでの長期見通しで使われてきた水ストレス指標などの従来の指標(例えばOki and Kanae, 2006)では、水資源の持続可能性を把握することは不可能であった。新しい指標、あるいは指標に代わるもの、が必要である。
  • これらに基づいてCritical Levelを決定すると共に、Critical Levelを回避し持続可能な水利用を可能とする将来の道筋を時系列で示す。必要な技術・政策にも言及したい。
  • 最後に、そのような未来社会の中で日本がどう生き抜くべきか、考えたい。

参考文献:Oki, T. and S. Kanae, 2006. Global hydrological cycles and world water resources, Science, 313, 1068-1072.

世界の持続可能な水利用の長期ビジョン作成

ページの上へ

21世紀型都市水循環系の構築のための水再生技術の開発と評価

田中 宏明

研究代表者

田中 宏明
(京都大学 大学院工学研究科附属流域圏総合環境質研究センター 教授)

共同研究者

清水 芳久
(京都大学 大学院工学研究科附属流域圏総合環境質研究センター 教授)
田中 祐之
(東レ株式会社 地球環境研究所 主任研究員)
加藤 康弘
(メタウォーター株式会社 事業戦略本部R&Dセンター新事業開発部 マネージャー)
小越 眞佐司
(国土交通省国土技術政策総合研究所 研究官)
鈴木 穣
(独立行政法人土木研究所 材料資源研究グループ 研究グループ長)
水野 忠雄
(京都大学 大学院工学研究科附属グローバル・リーダーシップ大学院工学教育推進センター(国際化教育担当) 講師)
田中 周平
(京都大学 大学院地球環境学堂 准教授)

20世紀、都市は身近な水資源の量的限界から、次第に量的条件や質的条件の満たされる遠隔地から水を導水し、給水してきた。我が国の大都市への水供給の多くは、表流水を多量に取水するため、長距離輸送されるとともに、飲料水質基準を満たすよう高度浄水され、莫大なエネルギーをかけて都市に給水されている。一方、我が国の都市で使われた水は、今やほとんどが下水道に取り込まれている。これまで下水道では、十分な希釈容量をもつ水域の環境基準を満足するよう下水処理レベルが設定され、下水処理水のほとんどは水環境に「捨て」られてきた。一方、下水には、従来の生物処理では取りきれない微量化学物質や病原微生物などが含まれ、十分除去できないまま環境に流出していることも明らかになり始めている。
20世紀に発達したこのような「一過型」の水利用システムは、大量取水による河川水量の減少、都市排水の集中、水供給や下水処理における莫大なエネルギー使用、水道水源や水環境での微量化学物質や病原微生物汚染によるヒトの健康や水生生物に対する影響の懸念等、様々な問題を抱えている。「20世紀型」の都市水利用システムの問題を解決し、かつ世界的に21世紀に予想される水資源の量的不足と質的悪化に対応するために、都市水循環利用システムの構築を目指した「新たな水処理システム」の開発を行う必要がある。
目指すべき「21世紀型都市水循環利用システム」の最大の特徴は、循環型水利用にある。都市の排水は、安定した水源であり、需要と供給が近く、循環利用の推進により、水環境からの取水量と水環境への排水量の削減が図ることができるため、水資源の確保、水環境への負荷とエネルギー利用の削減が図られる可能性がある。しかし、同時に水の循環利用には、再生水のもつ危険性や利用の限界性を考慮する必要がある。
本研究では、急速に水利用への適用が高まっている膜技術やオゾン等の酸化処理技術を組み合わせ、水循環利用のための「新たな水処理システム」を開発する。「新たな水処理システム」は、原水の違い(環境水、下水、下水処理水)による運転性能、様々な微量化学物質や病原性微生物などの処理機能、生み出される再生水のヒトを含めた生物への毒性・リスク、使用されるエネルギーについて評価を行う。これらの評価に基づいて、新たに生み出される再生水の利用用途を明らかにする。
開発される「新たな水処理システム」は、利用が期待される沖縄や中国南部都市等で現地実験を行い、その効果を実証するとともに、「21世紀型都市水循環利用システム」として導入された場合のエネルギー使用、水環境の改善の視点からも水循環システムを評価する。また、水処理の機能に影響を与える天然有機物(NOM)などを類型化し、現地の状況に応じたカスタムメイドの処理システムの提案を目指す。
本研究の推進により、都市の水循環系が「一過型」から「カスケード型」水利用へと変換され、都市の取排水量を減らし、水環境をより安全で豊かにし、環境負荷も軽減できる都市水循環システムの構築に貢献できると期待される。

21世紀型都市水循環系の構築のための水再生技術の開発と評価

ページの上へ

地域水資源利用システムを構築するためのIntegrated Intelligent Satellite System(IISS)の適用

中尾 真一

研究代表者

中尾 真一
(工学院大学 工学部環境エネルギー化学科 教授)

共同研究者

中村 裕紀
(株式会社日立製作所 松戸開発センター 水環境システム部 主管技師)
船津 公人
(東京大学  大学院工学研究科化学システム工学専攻 教授)
高羽 洋充
(工学院大学 工学部環境エネルギー化学科 准教授)
陳 文清
(四川大学 川大-日立環境応用技術研究センター 教授)
  1. 研究の概要
    本グループは、世界中で顕在化する水問題を解決するために、地域規模で生活排水を適切に処理し、かつ処理水を有効活用(①水不足対策のために生活用水として活用 ②地球温暖化対策のために河川流量維持水や親水利用として活用)することが、大きな効力を発揮すると考えた。そこで、新規開発する低ファウリング膜を組み込み複数の膜技術を統合した革新的な水処理システム(膜分離活性汚泥法+逆浸透膜法)を開発して地域内に分散配置し、使用用途に応じ適切な水質の処理水を提供できる環境を作ることを目指している。さらに、この水処理技術に、成熟度の高い自然エネルギー活用技術や、個々の施設を有機的につなぐ情報管理技術を融合し、全く新しい独創的な地域水資源利用システム「Integrated Intelligent Satellite System(IISS)=水・エネルギー・情報を融合したサテライトシステム」を構築する。
  2. 革新的な技術開発
    (1)膜のファウリング抑制
    本研究では、従来とは全く異なる水の分子レベルの構造に着目した新規低ファウリング膜の開発や、不安定電源として敬遠されがちな自然エネルギーを有効に利用できる電場を利用した新規ファウリング制御技術を開発する。
    (2)自立運転支援システムの確立
    近年急速に発展してきているケモインフォマティックス技術を用い、膜のファウリング予測技術及びそれに基づく運転支援システムを構築する。
    (3)処理水の安全性評価
    処理水の有効利用(飲用を含む)を促進するために、培養細胞を用いた新たな処理水安全性評価技術を検討する。
  3. 将来展望
    本システムは、実社会への適用性を強く意識し「迅速性」「安心安全」を十分考慮しているだけでなく、日本や世界が抱える様々な水問題に対応可能になるように「柔軟性」を兼ね備えており、日本の戦略的創造研究推進事業の成果として、新規水ビジネス開拓の礎を築き、本事業より生まれた「IISS」を広く世界に浸透させる。
地域水資源利用システムを構築する為のIISSの適用

ページの上へ

気候変動を考慮した農業地域の面的水管理・カスケード型資源循環システムの構築

藤原 拓

研究代表者

藤原 拓
(高知大学 教育研究部自然科学系農学部門 教授)

共同研究者

船水 尚行
(北海道大学 大学院工学研究院 教授)
山田 正人
(独立行政法人国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 室長)
前田 守弘
(岡山大学 大学院環境学研究科 准教授)
永禮 英明
(岡山大学 大学院環境学研究科 准教授)
高岡 昌輝
(京都大学 大学院地球環境学堂 教授)
赤尾 聡史
(鳥取大学 大学院工学研究科 助教)
長谷 隆仁
(埼玉県環境科学国際センター 廃棄物管理担当 専門研究員)
深堀 秀史
(愛媛大学 大学院農学研究科 助教)

本研究では「気候変動を考慮した農業地域の面的水管理・カスケード型資源循環システムの構築」を目的として,1)資源創出とN2O排出抑制を同時に実現する面的植物浄化・水再生システムの構築,2)農業地域に適した分散型水・資源再生システムの開発,3)農業地域における水・バイオマス資源のカスケード型循環利用システムの構築,4)面的水管理・カスケード型資源循環システムの統合評価,の4サブテーマからなる一連の研究を行う。
サブテーマ1(G1)では,硝酸性窒素による地下水汚染と温室効果ガスであるN2Oの排出を同時に抑制する技術として,植物を活用した面的浄化システムの開発を行う。さらに,浄化植物のバイオマスを原料として非滅菌でL-乳酸を生産する技術,ならびにリンを回収する技術から構成される一連のシステムを構築する。
サブテーマ2(G2)では,農業地域に適した「水を使わない」分散型水・資源再生システムを開発する。人,家畜の糞便からコンポストを生成するコンポスト型トイレを開発するとともに,人,家畜の尿から栄養塩類,再利用可能な水を回収する装置を開発する。
サブテーマ3(G3)では,農林水産業からの廃水・廃棄バイオマスをカスケードに循環利用することによって,水質汚濁負荷削減と高付加価値製品の創出を同時に実現するシステムを開発する。
サブテーマ4(G4)では,本研究で提案する新規の「面的水管理・カスケード型資源循環システム」をモデル解析により評価し,気候変動(温室効果ガス排出量)と地域環境汚染(水質汚濁等)を同時に最小化するための地域システムのあり方を示す。
食料生産の場である農業地域の持続可能な水管理システムを構築することは,水および食料の安全・安心を確保する上で極めて重要である。汚濁物質の排出源が集中しており,集約的な廃水処理が可能な都市域とは異なり,農業地域では排出源が面的に分散していることから,「面的」な水再生技術や水管理システムの構築が求められている。
また,農業地域には資源にも水質汚濁物質にもなりうるバイオマスが広く薄く分布している。バイオマスを水質汚染源にすることなく適正に循環利用し,その際に水系に排出される負荷が最小となるような技術・システムを構築する必要がある。農業地域における適切な水・資源循環システムを考える上では,従来のように廃水やバイオマスを一括してコンポストやメタンに循環利用するのではなく,バイオマス資源の質と分布状況に応じた「カスケード型循環利用システム」の構築が重要と考える。さらには,最適な水管理・資源循環システムを検討する上で,水質汚濁の抑制,気候変動への適応とその緩和,資源循環の統合評価が重要であり,それによるシステムの最適設計が求められる。本研究では,上記の4サブテーマからなる研究を遂行することにより,食料生産の場である農業地域の持続可能な水利用を実現する革新的なシステムを構築し,わが国および世界における水と食料の安全保障に寄与したいと考えている。

気候変動を考慮した農業地域の面的水管理・カスケード型資源循環システムの構築

ページの上へ

気候変動に適応した調和型都市圏水利用システムの開発

古米 弘明

研究代表者

古米 弘明
(東京大学 大学院工学系研究科附属水環境制御研究センター 教授)

共同研究者

石平 博
(山梨大学 大学院附属国際流域環境研究センター 准教授)
谷口 健司
(金沢大学 理工研究域環境デザイン学系 准教授)
矢島 啓
(鳥取大学 大学院工学研究科 准教授)
小川 文章
(国土交通省国土技術政策総合研究所 下水道研究部下水道研究室 室長)
屋井 裕幸
(雨水貯留浸透技術協会 技術第二部 部長)
滝沢 智
(東京大学 大学院工学研究科 教授)
林 武司
(秋田大学 教育文化学部 准教授)
荒巻 俊也
(東洋大学 国際地域学部国際地域学科 教授)
大瀧 雅寛
(お茶の水女子大学 大学院人間文化創成科学研究科 准教授)

人口が集中するアジア大都市圏では、安全な都市用水を安定的に供給することが求められています。しかし、現在依存している水資源は脆弱であり、気候変動の影響を受けてさらに水資源の局在化が進行すると、水資源の安定的確保がますます困難になることが懸念されます。水資源の局在化に対応し、安全で安定な都市用水を確保するためには、河川水やダム水などの「表流水」に加えて、都市に存在する貴重な水資源である「雨水」、「地下水」、下水処理水を高度処理した「再生水」の利用可能性を議論することが必要です。しかし、都市の自己水源とも言えるこれらの“ユビキタス型水資源“については、水量・水質の情報が不足しています。また、気候変動によって流域の水資源がどのような影響を受けるのか、そして、その水資源と都市の自己水源とをどのように調和して活用すべきなどが課題となってきます。
そこで本研究では、従来の都市水利用システムを見直し、気候変動に適応可能な新たな都市圏水利用システムを提示することを目的とします。この都市圏水利用システムでは、多様な水資源の量・質と都市内における利用用途とのベストマッチを図ることにより、需要と供給の調和がとれた水資源の適正配置が達成されます。対象フィールドとしては、日本の荒川流域とベトナムのホン川流域という、モンスーンアジア圏にあって経済や人口の成長段階が異なる二つの都市圏流域を選定し、それぞれに適した水利用戦略を検討する予定です。
本研究の最大の特色は、多角的な観点から都市水利用システムを評価する総合的なアプローチにあります。研究ユニットは、①流域水資源グループ、②都市雨水管理・利用グループ、③都市地下水管理・利用グループ、④水質評価グループ、⑤都市水利用デザイングループ、の5つから構成されます。まず、①流域水資源グループでは、気候変動によって流域圏の気象が将来どのような影響を受け、表流水や湖沼水の水量・水質がどのように変動するのかを高度に予測し、これらの水資源の利用可能性を評価します。都市におけるユビキタス型水資源としては、次の2グループにより特に雨水と地下水に特化した研究を展開します。②都市雨水管理・利用グループでは、圧倒的に不足している雨水の水質情報を収集すると共に、雨水貯留や地下水涵養などのあり方を議論します。③都市地下水管理・利用グループでは、地下水水質の現状や涵養プロセスを明らかにすると共に、ヒ素などの汚染物質に対する革新的処理技術を開発します。④水質評価グループでは、①~③のグループが扱う表流水、雨水、地下水に加えて再生水も対象として、水の安全性に関わる「病原微生物の総合リスク」および、水利用上の水質安定性の指標となる「水質変容ポテンシャル」の開発を行い、水利用に有用な新しい水質情報の提示を目指します。⑤都市水利用デザイングループでは、①~④のグループが整理した都市水資源の水量・水質に関するデータを社会に還元することを意識し、環境コスト評価や利用者選好を考慮しながら水利用デザインのあり方を探ります。これらの5つのグループの成果を結合させることで、「気候変動に適応した調和型都市圏水利用システム」を開発し、社会に発信することを目指します。

気候変動に適応した調和型都市圏水利用システムの開発

ページの上へ