ブラジルの科学技術情勢

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国情

①概要

 ブラジルの正式名称は、「ブラジル連邦共和国(Federative Republic of Brazil)」である。国土面積約855万平方キロメートルは世界第5位、日本の約22.5倍である。南米大陸最大であり、世界的に見ても米国よりは約110万平方キロメートル小さいが、ロシアを除いたヨーロッパ全土より大きく、インド・パキスタン・バングラデシュの三国を合わせた面積の約2倍に相当する。首都はブラジリアである。人口は約2億40万人(ブラジル地理統計院推定、2014年)で、世界5位であり、南北アメリカ大陸で唯一のポルトガル語圏の国である。

②歴史

 ブラジルの最初の住民は、ベーリング海峡を渡ってアジアからやって来た人々であり、紀元前8000年頃、現在のブラジルの領域に到達したといわれている。16世紀前半の時点で先住民の人口は、沿岸部だけで100万人から200万人と推定されている。

 1492年にコロンブスがアメリカ大陸に到達し、その後1500年にポルトガル人のペードロ・アルヴァレス・カブラルがブラジルを「発見」したことにより、ブラジルはポルトガルの植民地となった。以降、オランダの占領時代を除いて、19世紀前半までポルトガルの統治時代が続いたが、1822年のブラジル独立戦争を経て、ポルトガル王室に連なるブラガンサ家の王太子ペードロが、ブラジル人ブルジョワジー勢力の支持を受けブラジル帝国として独立した。

 1889年、デオドロ・ダ・フォンセッカ元帥のクーデターによってブラジル帝政は崩壊し、共和制に移行した。帝政時代からコーヒー・プランテーションでの労働力確保のため、ヨーロッパよりイタリア人、ポルトガル人、スペイン人、ドイツ人をはじめとする移民を受け入れていたが、共和制移行以降の1908年には、日本人を含めたアジアからの移民も受け入れることとなった。

 1946年に新憲法が制定され、1950年にブラジル史上初の民主的選挙によってジェトゥリオ・ドルネレス・ヴァルガスが大統領に就任した。1956年に就任したジュセリーノ・クビシェッキ大統領は「50年の進歩を5年で」を掲げて開発政策を進め、内陸部のゴイアス州に新首都ブラジリアを建設し、1960年にリオデジャネイロから遷都した。

 1964年に米国の支援するカステロ・ブランコ将軍は、クーデターによって軍事独裁体制を確立すると、親米反共政策と外国資本の導入を柱にした工業化政策を推進し、「ブラジルの奇跡」と呼ばれる高度経済成長を実現させたが、1973年のオイルショック後に経済成長は失速し、所得格差の増大により犯罪発生率が飛躍的に上昇した。また、軍事政権による人権侵害も大きな問題となった。

 1985年に民政移管が実現し、文民政権が復活したが、インフレの拡大によりブラジル経済は悪化した。2003年には、労働者党からルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァが大統領に就任した。90年代からの各種経済政策の成功と、ルーラ大統領による安定政権が行ったインフレの抑制、年金改革による財政支出の削減、財政黒字の増大などの堅実な経済運営により、国の経済は発展基調となった。2000年代には中国、インド、ロシアなどと共にBRICSと並び称されるようになった。2010年の大統領選挙では、ルーラ前大統領と同じ労働党出身のジルマ・ルセフ元官房長官が当選した。ルセフ大統領はブラジル初の女性大統領であり、2014年に再選出されている。

③政治

 大統領を元首とする連邦共和制国家である。大統領および副大統領の任期は4年で、一度のみ再選が認められており、3選は禁止されている。大統領は、国会により弾劾される可能性がある。議会は元老院(上院、定数81名)・代議院(下院、定数513名)の二院制である。現行憲法は、1988年に制定された憲法である。

④外交

 1985年の民政移管後、特に1980年代後半の冷戦終結後は、南米の大国としてアルゼンチンやパラグアイなどの近隣諸国のみならず、アジアやアフリカ、中近東諸国などとも全方面外交を行い、WTOなどを通して積極外交を行う他、ラテンアメリカ諸国をまとめるリーダーを自負している。また、ポルトガル語圏の一員として旧宗主国のポルトガルや、アンゴラ、モザンビーク、東ティモールとも強い絆を保っている。さらに、主権の相互尊重の原則を根拠に、対等な外交施策をとることで知られている。

⑤民族、言語、宗教

 先住民、植民当時のポルトガル系、アフリカからの黒人奴隷の子孫、そしてヨーロッパ、中近東、日本を中心としたアジア諸国からやってきた移民の4つのグループがある。

 公用語はポルトガル語(ブラジル・ポルトガル語)である。語彙の面でアフリカやインディオの影響を受けているため、本国ポルトガルのポルトガル語とは多少異なっているが、日常会話は支障なく行うことができ、日本の方言よりも差は少ない。

 ブラジルは国民の約73%がカトリックの信者で、世界で最も多くのカトリック人口を擁する国である。プロテスタント信者も、1970年代より伝統的なルター派、プレスビテリアン、バプティストなどが増加し、人口の15.4%となっている。非キリスト教の少数宗教としてはアフリカの宗教に由来するアフロ・ブラジル宗教がある。イスラム教はアフリカからの黒人奴隷によってもたらされたが、現在では主にアラブ系の移民によって信仰されており、約55のモスクと宗教センターがあると見積もられている。

⑥初等中等教育と識字率

 初等教育と中等教育からなり、初等教育と前期中等教育を併せた義務教育は8年間、後期中等教育(日本における高校の教育)は3年間となっている。1930年代に国民の2/3が非識字者だったように、かつては初等教育に力は入れてこなかったが、見直しを行い現在に至っている。2004年に推計された15歳以上の人口の識字率は、88.6%(男性:88.4%、女性:88.8%)である。

⑦経済

1)概況

 ブラジルは、長い間インフレなどによる経済の混乱と低迷に苦しんでいたが、90年代からの各種経済政策の成功と、2003年に就任したルーラ大統領による堅実な経済運営により、国の経済は発展基調となった。後任のルセフ大統領は、前政権の考え方を踏襲して経済安定と改革重視の政策を取っており、国際的信用の維持に努めている。

 2014年の世銀の統計によれば、ブラジルのGDPは2兆3,461億米ドルで世界第7位の経済大国であり、南米最大の経済規模を誇っている。また、一人当たりGDP(名目)も11,613米ドルとBRICS諸国では高い方である。

 ブラジルは潤沢な外貨準備高(2015年1月3,722億ドル)を有する対外純債権国となっており、2014年1月のアルゼンチン・ペソ急落の際も、ブラジルにとって貿易面での影響に留まり、金融面で大きな影響はなかった。ただ近年は、2012年の経済成長率は1.0%と低迷し、2013年及び2014年は2.5%と穏やかに回復するも横ばいの傾向にある。

2)貿易

 2014年のブラジル商工開発省のデータによると、主要輸出品目は、一次産品(鉄鉱石、原油、大豆等)が48.7%、工業製品(燃料油、航空機、自動車部品等)が35.6%、半製品(粗糖、木材パルプ、鉄鋼半製品等)が12.9%となっている。一方同じデータで輸入品目を見ると、原材料及び中間材(化学・医薬品、鉱産物、輸送用機器付属品等)が45.0%、資本財(工業用機械、事務・科学用機器等)が20.8%、石油及び燃料が17.3%、消費財(医薬品、食料品、乗用車、家庭用機械器具等)が17.0%となっている。

 これを貿易相手国で見ると、輸出先では中国(18%)、米国(12%)、アルゼンチン(6%)と続いており、日本(3%)は第5位である。一方、輸入先では中国(16%)、米国(15%)、アルゼンチン(6%)、ドイツ(6%)の順で、日本(3%)は第9位である。

3)主要企業

 ブラジルの主要企業を見ると、Fortune Global 500(2015年)の中に7社がランクインしている。ブラジルのトップ企業は、28位にランクインしたペトロブラス(Petrobras)で、石油・ガスの国策企業である。それに続くのは銀行、鉱業などの企業となっている。

強化されつつある科学技術

 ブラジルの科学技術は、世界トップレベルの国々とは依然として差があるが、経済発展に伴い研究開発投資が増加するなど、着実に科学技術が強化されつつある。

①科学技術関連行政組織

 大統領が議長を務める科学技術国家評議会(CCT)が、ブラジル政府における科学技術・学術振興に係る最高政策決定機関である。その方針の下で、農林畜産省(MAPA)、商工開発省(MDIC)、保健省(MS)、鉱山エネルギー省(MNE)といった各省庁において科学技術・学術関係政策が推進されるが、特に重要な省として科学技術省(MCT)と教育省(MEC)が挙げられる。

 科学技術省(MCT:Ministério da Ciência e Tecnologia)は、1985 年にネヴェス大統領(当時)によって設立された比較的新しい省であり、この省の下に、学術研究のファンディング機関である「科学技術開発国家審議会(CNPq)」、主に企業を対象としたファンディング機関である「企画研究融資機関(FINEP)」、「科学技術・イノベーション戦略的研究管理センター(CGEE)」、「宇宙局(AEB)」、「核エネルギー国家委員会(CNEN)」などがある。

 一方、大学を中心とした高等教育は、教育省(MEC)が総括している。教育省は、後述する「最高学府学生向上調整機構(CAPES)」を所管している。

図表1: ブラジルの科学技術行政機構

図表1: ブラジルの科学技術行政機構

出典: 「科学技術・イノベーション政策動向~ブラジル~」(2010年版)

②科学技術・学術関連機関

1)科学技術開発国家審議会(CNPq)

 1951 年に設立された国家レベルのファンディング機関で、研究者への奨学金の支給、研究グループや研究機関への補助金の配分を主に担当している。また、学部学生に対しての奨学金プログラムや、研究者の表彰事業等も実施している。特に科学技術の国家的な政策について、実施、進捗管理、評価、普及を担当する。

 予算総額は、約19 億レアル(2014 会計年度ベース)であり、1レアル=31円で換算すると、約590億円となる。このうちの9 割が研究開発投資に支出されている。

 研究開発プロジェクトについて、専門家による審査・選考を経て、資金的な援助をすることが主な業務である。選定にあたっては、300 名を超える研究者等が審査を行う。これまで以下のような大規模プロジェクトへの支援が行われている。

  • ・持続可能開発地域の指定(アマゾン地域の2 万6 千ヘクタール指定)
  • ・熱帯森林・異常環境の人への影響研究プログラム(SHIFT)
  • ・熱帯気候プログラム(PTU)
  • ・ブラジル南極プログラム(PROANTAR)
  • ・生物技術・ブラジル農業国際競争力支援プログラム(BIOEX)
2)企画研究融資機関(FINEP)

 1967 年に創設されたファンディング機関であり、重点分野への研究開発投資を担当している。技術革新によりブラジル経済社会を成長させることをミッションとして基金を創設しており、国内の研究開発及び技術革新プロジェクトに対して融資等の資金援助を行っている。確認できる最新の予算額は、2007 会計年度ベースで約2億8千万レアル、約87億円である。基金の維持は、主に国の天然資源の収益への課税によって措置されている。

 FINEP のプログラムには大きく分けて、企業の技術革新支援、企業や大学等の研究所の支援であり、さらにそれぞれに返還義務のある融資と、返還義務のない融資がある。

3)最高学府学生向上調整機関(CAPES)

 1951 年に創設された教育省所管の機関である。その使命は、ブラジルの大学院修士課程及び博士課程の発展であり、大学院での研究に対する資金提供とその評価を行うとともに、研究成果の普及、国際的な研究協力を推進している。予算規模は、約53 億レアル(2013 会計年度)、約1,650億円である。

 主たる事業は、次の5つである。

  • ・大学院プログラムの認証評価
  • ・科学研究へのアクセスとその普及
  • ・研究人材を育成するための国内・海外への金銭的支援
  • ・国際的な科学分野での協力の推進
  • ・初等中等教育の教員の質の向上

③科学技術計画の作成

 ブラジルの科学技術・研究開発は、主に産業が発展しているサンパウロ州やリオデジャネイロ州にある多くの州立や国立の大学、公的研究機関等が中心となって進められてきた。その結果、一部の大学や研究機関の特定分野の研究レベルは高いものの、その他の研究機関はあまり業績を上げられない状態が続いてきた。また、基礎的な研究開発が最終的な製品に結び付かず、イノベーションを起こすことが出来ない状態も問題になっていた。そこでブラジル政府は2007年に科学技術・イノベーションに関する総合計画「国家発展のための科学技術・イノベーション計画2007-2010」(PACTI 2007-2010:Plano de Ciência, Tecnologia e Inovação para o Desenvolvimento Nacional)を発表し、科学技術・イノベーションの推進と支援を明確に打ち出している。

④大学

 全2,416 大学のうち、2,112 大学(87%)が私立であり、残りが公立となっている。2010 年の高等教育進学率は17%である。

 研究の中心となっているのは公立大学で、特にサンパウロ州立の大学(サンパウロ大学、カンピーナス大学など)や連邦大学(リオデジャネイロ連邦大等)が優れている。ブラジルでは年間11,000 人の博士号取得者を輩出しており、これはラテンアメリカ地域全体の半分以上を占める。また、農学及び生命科学分野では米国の博士号取得者の数を上回る。

1)サンパウロ大学(USP:Universidade de Sao Paulo)

 1827 年に創設された、ブラジルで最も歴史あるサンパウロ州立の大学であり、研究に関しても名実ともにブラジルのパイオニアである。卒業生には歴代大統領を含め、ブラジル各分野のリーダーも多く存在する。

 ブラジルで最も大きな大学であり、約88,000 人の学生と約21,000 人以上のスタッフを有する。11 のキャンパスがあり、5つの附属病院と24 の博物館、劇場、映画館、さらにはテレビ局も保持している。約6,000 人の教員が研究活動に従事しており、このうち85%以上は常勤職であり、約2,100 の研究グループが存在している。

 工学、応用科学、都市工学(都市建築)、医学、薬学、教育、人文科学、法学などの学部と、海洋学研究所、理学研究所、生命科学研究所、数理・コンピュータサイエンス研究所、物理学研究所、地球科学研究所、化学研究所などの研究所を有している。

 大学の調べでは、学術論文数は年間27,292 本であり、この数はブラジル国内の約23%を占める(2012 年)。

 QS大学ランキングでは132位(2015年)、Timesのランキングでは251-300位(2015-2016年)と、南米では屈指の大学となっている。

2)カンピーナス州立大学(Universidade Estadual de Campinas)

 サンパウロ市から約100km離れているカンピーナス市に1966年に設立された、大学院教育に重点を置いたサンパウロ州立の大学である。2012年現在で、学部学生が18,026人、大学院学生22,824人となっている。

 分子生物学、実験医学、神経科学、歯学、遺伝学、物理学、化学、数学、歴史、食料科学、電子工学、機械工学、化学工学などの分野で高いレベルを誇っており、大学側の発表によれば、2011 年現在で、ブラジル国内の研究論文のうち8%が同大学の教員によるものである。

 QS大学ランキングでは206位(2015年)、Timesのランキングでは351-400位(2015-2016年)となっている。

3)リオデジャネイロ連邦大学(Universidade Federal do Rio de Janeiro)

 1920年に、当時ブラジルの首都であったリオデジャネイロに、いくつかの教育機関を統合して設置された国家戦略的な大学である。健康科学、社会科学、理学、数学、人文科学、芸術などが充実しており、学内予算約35億レアル、教職員約4,100人、学部学生約4万人、大学院生約1万人の総合大学である。

 QS大学ランキングでは、271位(2015年)となっている。

4)パウリスタ大学(UNESP:Universidade Estadual Paulista)

 1976 年に、サンパウロ州内の高等教育機関を集約して設立された州立大学である。サンパウロ州内に34のキャンパスを持つマルチキャンパスシステムを採用している。学生数は約37,000人、教員数は約3,300人である。

 強い分野として、バイオエネルギー、再生・代替エネルギー、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、材料科学、農学、食料、気候変動、海洋科学などが挙げられる。

⑤研究開発のインプット

 UNESCOの統計によれば、ブラジルの研究開発費は2010年で437億レアル(当時の日本円換算で2.18兆円)である。同じ2010年の円換算での研究開発費を見ると、米国約36兆円、日本約17兆円、中国約9兆円、ドイツ約8兆円などに比較して小さいが、インド約1兆円(2007年)、ロシア約1.5兆円、南アフリカ約0.25兆円などと比較するとかなりの額となっている。一方、研究開発費の対GDP比は1.16%(2010年)で、日本の3.57%(2010年)、米国の2.74%(2010年)などと比べて低く、ロシアの1.13%(2010年)と同程度、インドの0.76%(2007年)、南アフリカ0.76%(2010年)より高い。

 またブラジルの科学技術の一つの特徴として、産業からの研究開発資金が少ないと指摘されており、総研究開発費のうち政府支出の研究開発費が約53%、民間が47%となっている(どちらも2010年)。一方、日本では政府支出が19.1%、民間が80.9%(2012年)であり、産業からの研究開発資金が少ないことがブラジルの研究開発が最終的な製品へと結びつかない一因ともされている。

 研究者数は13.9万人 (2010年)で、日本84万人、米国120万人(いずれも2010年)などと比べると、かなり低い数字である。これを他のBRICS諸国と比較すると、中国121万人、ロシア44.2万人(いずれも2010年)には及ばないものの、インド15.4万人(2005年)とほぼ同等、南アフリカ1.9万人(2010年)より遥かに多い。

⑥科学論文など

 近年、ブラジルの国際的な科学論文における存在感が急激に上昇している。図表2は、米国の調査会社トムソン・ロイター社のデータに基づき文部科学省科学技術・学術政策研究所が分析した資料で作成したものである。

図表2: 論文発表数の国別ランキング

図表2: 論文発表数の国別ランキング

出典: 科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーク2015」

 これで見ると、ブラジルは、徐々に順位を上げてきているのが分かる。ブラジルよりもより急激に上昇している中国にはかなわないが、ロシアの凋落振りとは対照的である。

 なお、この科学技術・学術政策研究所のデータで見ると、ブラジルは、基礎生命科学(世界9位)、臨床医学(世界13位)に強みを有している。

科学技術のトピックス

 ブラジルの科学技術は、全般的に世界トップレベルの国々から格差があるが、一部の技術分野や企業で世界と競争できる力を発揮しており、それがブラジルの科学技術の特色となっている。ここではブラジルの科学技術の強みであるバイオマス、航空機製造、石油掘削について詳述する。

①サトウキビによるバイオマス

 ブラジルでは現在自国の石油消費量の相当量を国内生産で賄えているが、1960年代から70年代には多くを輸入に頼っていた。こうした状況の中、ブラジルでは石油の代わりとなる燃料の研究が進められ、ブラジルに豊富に存在する生物資源であるサトウキビ由来の燃料であるエタノール(バイオエタノール)が、石油代替燃料として適していることが分かった。

 その後1975年にブラジルは国家アルコールプログラム(Pro-Alcool)を実施し、石油代替燃料としての利用促進と生産性向上に取り組んだ。その後、石油が自国でかなりの部分を供給できることなどによる価格の下落などもあり、エタノール生産量は一貫して増加したわけではないが、近年の原油価格の高騰などに後押しされ生産量が増加している。2014年現在、世界最大のバイオエタノール生産国は米国で、世界のバイオエタノール生産量の50%を占め、次いでブラジルが26%と、米国とブラジルの2国で世界全体のバイオエタノール生産量の75%を占めている。

 ブラジルにとって幸運だったのは、一つには地球温暖化問題の観点から二酸化炭素の排出を減らす代替燃料としてバイオエタノールが注目されるようになったことであり、もう一つは原料のサトウキビが米国などで主に原料として使用されるとうもろこしなどと比べてエネルギー効率が非常に良いという点である。ある原料からエネルギーを取り出すのにどれだけ燃料の投入が必要か、というEPR(Energy Profit Ratio:エネルギー利得率)という考え方を用いた方法で計算すると、とうもろこしの場合はEPRが1.3から1.8なのに対してサトウキビの場合は8.3(ブラジルでバイオエタノールに変換された場合の数値)と、圧倒的にエネルギー効率が上である。また他の研究では、1ヘクタール当たりの耕地から採れる量で、とうもろこしは64ギガジュール、サトウキビは141ギガジュールのエネルギーが得られるとされており、この点からも優位である。更にサトウキビの場合は、絞りかすとして「バガス」と呼ばれる残滓ができるが、このバガスも燃料としてそのまま使える他、バイオエタノールの原料として用いることが研究されており、サトウキビは非常に無駄の少ない原料である。

 バイオマス燃料に関しては、常に「食糧としての植物をエネルギーとして使う」ことによる影響を考える必要があり、例えば米国では、とうもろこしをバイオマス燃料として使用した結果、食糧価格が高騰するという現象が発生した。しかしブラジルの場合、サトウキビは国土全体の0.4%程度の耕地面積を占めるだけで、またその耕地も肥沃なアマゾン地帯では無く、北東部、南部などの元々利用の少なかった耕地としての質が劣る地帯が中心となっており、既存の農業や熱帯雨林に与える影響は少ない。

 バイオマス燃料は、原料別に第1世代から第3世代に分類され、第1世代がサトウキビやとうもろこし、第2世代が主に食用でない植物(木材、稲、草など)を利用したセルロース、第3世代が藻を用いてバイオディーゼル燃料やバイオエタノールを生産するものである。このうちブラジルでのバイオ燃料の研究は、第1世代が中心であるのに対して、日本、米国、欧州などでは第2、第3世代が中心となっている。トムソン・ロイター社のWeb of Scienceで「Sugarcane(サトウキビ)」をキーワードとする論文数は、2000年~2010年の期間でブラジルが149本、29%を占め1位であり、2位は米国、3位はインドとなっている。ブラジルでの研究は、豊富に存在するサトウキビ資源をより効率的に生かすためのものが多く、より少ない面積でサトウキビを生産し、できるだけ糖度の高い(エネルギー効率の良い)サトウキビに品種改良し、またエタノールへの転換時にもより多くのエネルギーを取り出せるようにするための研究である。ブラジル国内に設置されているバイオ燃料の研究に取り組む研究機関では、民間企業の連携を促進することを目的として、以下のような5つのプログラムを実施している。

  • ・サトウキビに関する、生産工程の改善と栽培を含むバイオマス技術の研究
  • ・バイオエタノール精製技術とアルコール化学
  • ・エタノールの車両燃料としての応用
  • ・工業用エタノール技術
  • ・経済、環境への影響、土地利用、知的財産権に関する研究

 こうした研究の成果として、サトウキビの単位面積当たりのバイオエタノール採取量が、ブラジルでは毎年約4%程度向上しつつあり、栽培地域を拡大することを防ぐことが可能になっている。

 バイオマス燃料の消費面についても、ブラジルは特徴的な技術を持っている。ブラジルにはフレックス燃料カーと呼ばれる車両があり、ガソリンとエタノールの両方を燃料として使用できる。このフレックス燃料カーは2003年から発売され、2009年には254万台が販売され、新車の84.0%を占めた。この成功の背景には、既述した国家アルコールプログラムにより、国内の多くのガソリンスタンドにエタノール供給用の設備が備えられていたことがある。またブラジルでは、エタノールをある程度(25%など)混合した燃料を使用することが法的に義務付けられたことも、フレックス燃料カーの普及を促進した。フレックス燃料カーのエンジンを開発したのはボッシュなどの海外メーカーで、また自動車に組み込み最初に発売したのもフォルクスワーゲンなどの海外メーカーのブラジル支社であるが、フレックス燃料カーが実際に実用に耐え、普及できることを示したことはブラジルの大きな功績である。しかし現在のところ、バイオエタノール普及のためのインフラが整備されていない海外ではフレックス燃料カーが普及しておらず、直ちにブラジルの自動車産業の国際競争力につながってはいない。

②世界第4位の航空機メーカー、エンブラエル

 ブラジルの航空機メーカーであるエンブラエル(EMBRAER:Empresa Brasileira de Aeronáutica)社は、現在売上高において、欧州のエアバス、米国のボーイング、カナダのボンバルディアに次いで世界第4位の航空機メーカーである。同社は2015年9月現在で、従業員約19,000名の大企業で、航空機出荷数は2014年で215機となっている。

 航空機は言うまでもなく先進技術の塊であり、その生産には高い技術が必要となる。元々ブラジルは、ライト兄弟が米国で飛行に成功する4年前の1899年に、ブラジル人のアルベルト・サントス・デュモンが飛行船でパリを飛行するなど、航空機に対する長い伝統があった。ブラジル政府は、広大な国土と貧弱な地上移動の交通手段を克服する航空機産業発展のために、様々な努力を行ってきた。具体的には、1946年にSao Jose dos Campos市に空軍技術センター(Centro Tecnico de Aeronautica : CTA)を設立するとともに、ドイツから技術者を招聘して航空機研究を行った。この成果として初期に設計・開発されたのが、12人乗りのEMB110 Bandeiranteである。

 EMB110は、1969年にブラジル政府が新たに設立したエンブラエル社で販売することとなり、政府は同社支援のため、有利な税制、優先的な政府調達への採用など各種の政策を導入した。1970年代は、米国で航空輸送の自由化が始まり、それを受けてコミューターエアライン(小型飛行機で近距離の二地点を中心に運航する航空会社)が急成長した時期であるが、EMB110は、それらの航空会社に多く採用され、大きな成功を収めた。

 その後、米国Piper社と小型飛行機に関するライセンス契約を結び、またイタリアAermacchi社と共同で事業を展開し、それぞれのもつ技術を吸収し、ビジネスと技術の両面で大きく飛躍した。エンブラエル社の航空機は民間機・軍用機ともに世界で広く採用されるようになり、受注・生産台数も大きく跳ね上がった。

 このように順調に発展してきたエンブラエル社であるが、90年代に様々な要因により一時経営に行き詰ってしまう。冷戦終結による軍事用航空機需要の低下、世界的な不況と湾岸戦争による民間機の需要低下、また国営企業であったことから社員の意欲低下による会社の体質悪化などがその要因である。更に、当時最新の技術を取り入れてアルゼンチンと共同で開発を行った民間機CBA123は、巨額の資金を投じたものの商業的に回収できる見通しが全く立たず、結果として2億8000万ドルの累積赤字を残してしまった。

 ブラジル政府は、1994年にエンブラエル社の経営危機を乗り切るため、同社を民営化するという決定を行った。この民営化は、ブラジルの投資グループであるボザノ・シモンセン(Companhia Bozano Simonsen, CBS)が中心となり進められ、CBSからマウリシオ・ボテーリョ(Mauricio Botelho)氏が社長として就任し、エンブラエル社の国営企業体質を徹底的に改め、顧客を第一とする企業に変換した。また、多すぎる従業員を解雇し、コストを大幅に削減した。一方、短・中距離用の50人乗り中型ジェット機ERJ-145については、開発の継続のために巨額の資金が必要であったが、それにも関わらず開発の継続推進を決断した。

 こうした改革と、当時エンブラエルが売り出したERJ-145とその小型版ERJ-135が小型のジェット旅客機に対する航空会社からの高い需要にピッタリと合致した。エンブラエルの業績は急速に回復し、民営化から4年後には黒字経営を達成し、現在の隆盛につながった。日本でも日本航空が、エンブラエル社製の機体10機を導入している。

 こうしたエンブラエル社の成功は、元々空軍の研究所から出発しており技術レベルが高かったこと、民営化後の経営が民間の発想を取り入れて非常にうまくいったこと、またエンブラエルの開発した短・中距離路線用の中・小型ジェット機が需要にうまく合致したことなどが要因として挙げられる。

③高度な掘削技術で海底油田開発を進めるペトロブラス

 ブラジルでは、リオデジャネイロやサンパウロ沿岸に多くの油田を発見し掘削を行うことで、2006年には原油を自給するに至った。海底油田の開発は多くの先端技術を要する分野であるが、ブラジルはこの分野で世界に誇る技術を持っている。ただし、その後経済成長が進んだため、ブラジルでは自国での原油供給を上回る需要が発生しており、2014年現在輸入国の立場である。

 1953年にブラジル政府は、ペトロブラス(Petrobras: ブラジル石油公社)の設立を認可し、ペトロブラスはブラジル国内における石油・天然ガス資源の探査、採掘、石油製品の製造などを独占的に行う企業となった。2014年1月時点のブラジルの石油確認埋蔵量は132億バレルで、世界で第15位、南米ではベネズエラに次いで第2位である。その94%超は沖合にあり、確認埋蔵量合計の80%がリオデジャネイロ州の沖合で発見されている。これらの油田の発見・開発には、ペトロブラスが大きな役割を果たしている。

 2007年11月にペトロブラスは、サントス油田で推定50~80億バレルの原油・天然ガス資源の存在を確認し、開発を開始した。この海底資源の深度は7,000メートルと、世界でも最高度の深度である。世界には、約12,000メートル(40,000フィート)を超える掘削を可能とする海洋掘削リグ(装置)が、すでに数十基(全体の数%)存在するものの、この約12,000メートルという掘削深度は理論的な数値であり、こうした装置を実際に使用して7,000メートルを超える海底油田開発を行っている例は、ほとんどない。ペトロブラス社の技術的優位は、協力会社が有する個々の技術や部品ではなく、それらを使いこなし開発を進める総合力にある。世界的には、2005年に米国のシェブロン社が、メキシコ湾で10,420 メートル(34,189 フィート)のあまり大規模でない海底掘削を行い、また2010年にサハリンではエクソンモービル社が、陸上で11,282メートル(37,016フィート)という掘削を行っているが、これらと比較しても、ペトロブラスの海洋油田掘削技術は、世界的レベルと考えても問題ない。

課題

 ブラジルが科学技術をより発展させ、トップグループの国に追いつき、他のBRICS諸国との競争に負けないためどうしたらよいかについて、課題を取りまとめた。

①資源大国の強みを生かした国の発展と産業の多様化

 ブラジルは国土面積、人口において間違いなく大国である。またその広大な国土が抱える石油、天然ガス、各種鉱物資源、農作物、熱帯雨林、水資源などの豊富な天然資源も非常に魅力的である。米国のような超大国ではないが、南アメリカにおいては地域大国でもある。

 しかし既述の通り、科学技術の分野においてブラジルは、いくつかの技術では世界レベルにあるものもあり、また、近年強化されつつあるが、科学技術全般としては欧米や日本などのトップ集団から大きく遅れていると考えられる。一方急激な経済成長により一時期大きくもてはやされたBRICS諸国も、中国の景気後退や天然資源価格の低迷などにより、また、BRICS以上に低価格の人件費を武器に猛追する他の発展途上諸国にその地位を脅かされている。

 こうした状況の中、ブラジルが今後も発展を続けていくためにはサトウキビという資源を生かして発展したバイオエタノール技術など、資源に付加価値をつけた産業を育成することが重要である。こうした産業の一つとして、アマゾン川流域に広がる熱帯雨林に生息する様々な生物のもつ多様な遺伝子資源を利用したバイオテクノロジー、製薬などが考えられ、例えば、アマゾンに生息するヤドクガエルの持つ毒から鎮痛薬を開発する研究がなされている。また、すでに超大国、先進国が支配している分野ではなく、エンブラエル社の中・短距離用ジェット機や、バイオエタノールとガソリン・ディーゼルの燃料の両方を使えるフレックス燃料カーなど、ある程度ニッチな市場に向けた産業を育成することも重要である。

②国内市場の育成

 ブラジルは、非常に国内格差の大きな国であり、一部の富裕層が国の富の大部分を握り、その他の貧困層は徐々に中間層に育ちつつあるものの、購買力は依然低い。

 国外、特に先進国の市場で受け入れられる製品を自力で生産できるだけの産業を育成することは、国の発展にとって非常に重要であるが、それだけの産業を育成するには長い時間がかかり、また費用も莫大なものとなる。ブラジルは人口も多く、今後も増加する傾向にあるため、むしろ国民の購買力を高めて国内市場を育成し、ブラジルで生産された高付加価値製品を国内で消費できるような仕組み作りを行っていくことが重要である。国内市場を育てていくことで、熾烈な競争に曝されることになる国際市場参入の前に、ブラジルの産業はある程度の製品消費を見込むことが出来るようになり、それがブラジルの産業力、科学技術力の向上にもつながると考えられる。

日本との協力

 日本とブラジルは、戦前は日本からの農業移民、戦後は工業(工場進出)の分野で長年にわたり協力関係を築いてきており、科学技術分野においてもパートナーシップが結ばれている。

①科学技術協力協定

 両国政府間には、1985年に発効した科学技術協力協定があり、これに基づき、2010年12月には、第3回目となる日本ブラジル科学技術合同委員会がブラジリアで開催されている。

②国境なき科学(Ciencia sem Fronteiras)とJASSOの協力

 ブラジルにおいては、海外の研究プロジェクトへの参加や外国人研究者招聘のための資金提供を行うことにより、国際的な頭脳循環を推進する取組として、2011年に「国境なき科学(Ciencia sem Fronteiras)」がルセフ大統領によって開始された。支援の対象分野は理工学が中心で、各国企業でのインターンシップを重視し、ブラジルの産業育成につなげる点が特徴である。

 国境なき科学により、2015年までに101,000人分の奨学金の支給を予定している。国境なき科学のホームページによれば、送り出した学生の平均年齢は26.7歳、TOEFL平均スコア98.1、男性61.4%であり、学問分野は工学等が23.3%、情報科学技術が17.3%、医学が13.5%などとなっている。国境なき科学の当初の目的である、PhD取得者を増やすこと、国際共同研究を増やすこと、特許件数を増やすこと、学術界と経済界の相互作用を活性化することは、順調に達成されてきている。次なる課題として、国内の研究開発の国際化を図ること、高い競争力と起業家精神を持った学生を育成すること、国際的な若手研究者をブラジルに引き寄せることを掲げている。

 日本学生支援機構(JASSO)は、ブラジルから日本への学生の受入れを促進するため、ブラジル政府の科学技術開発国家審議会(CNPq)及び最高学府学生向上調整機構(CAPES)との間で、2012年7月に覚書に署名した。具体的には以下の業務で協力している。

  • ・奨学生を受入可能である日本の大学及び研究機関の調査
  • ・奨学金志願者への情報提供
  • ・奨学金志願者の応募書類の取りまとめと日本の大学への選考依頼(学部生)

 JASSOのホームページによれば、2014年9月現在、ブラジル全体で70,188人の学生および研究者に奨学金が支給されており、そのうち304名のブラジル人研究者及び学生が日本で受け入れられている。内訳は、学部学生154人、博士課程(短期)22人、博士課程(学位プログラム)4人、ポスドク14人である。この数字は、万人規模で受入れを行っている米国をはじめとした各国と比較して小さいものであり、日本での受入れのポテンシャルはまだ十分にあると思われる。

③JSPSによる協力

1)若手研究者ワークショップ

 日本学術振興会(JSPS)とサンパウロ州研究財団(FAPESP)は2013 年に協定を締結し、若手研究者の育成や学術研究の振興を目的として若手研究者のワークショップを開催することとしている。2015 年に第1回のワークショップがサンパウロにて実施されることとなっている。

2)科学技術研究員派遣事業

 2008 年より文部科学省及び外務省は、地球規模の課題について研究員の派遣を通じて大学等の共同研究を推進する枠組みとして、本事業を実施している。具体的には、JSPSが派遣候補者を選定し、国際協力機構(JICA)が開発途上国への受入れ確認等を経てJICA専門家として派遣する。これまでに気候変動の将来シナリオの予測(国立宇宙研究所)や、二酸化炭素回収・貯蓄(リオグランデ・ド・スル ポンチフィカルカトリック大学)などに専門家を派遣している。

3)研究拠点形成事業(Core-to-Core Program)

 先端的かつ国際的に重要な研究課題について、我が国と各国の研究教育拠点との協力関係を確立することにより、世界的研究交流拠点を構築することを目指した事業である。2012 年~2017 年には、京都大学野生動物研究センターと国立アマゾン研究所(ブラジル)等が連携して、大型動物研究を軸とする熱帯生物多様性保全研究を実施している。

④JSTによる協力

1)戦略的国際科学技術協力推進事業(SICP)

 政府間合意に基づき、戦略的に重要なものとして設定した地域及び研究分野において、科学技術振興機構(JST)が支援して研究者交流や共同研究を推進する事業である。2009 年にCNPq とJST の間でバイオマス・バイオテクノロジー分野での協力に関する覚書を締結した。バイオエネルギー生産に向けた海洋微生物ファクトリーの創生などに関し、研究交流やワークショップなどを実施している。

2)地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

 2008 年度からJSTとJICAが連携して、地球規模課題の解決に向けて、開発途上国等との国際共同研究を推進する事業を実施している。これまでにアマゾンの森林における炭素動態の広域評価やAIDS 患者の新規診断法等に関して、リオデジャネイロ連邦大学や国立アマゾン研究所、カンピーナス大学等と我が国の教育研究機関で共同研究を実施している。

⑤その他

 個別の大学レベルでの交流も活発で、岐阜大学、岐阜薬科大学、熊本大学、東京農工大学などが、カンピーナス大学と学術交流を行っている。特に岐阜大学とカンピーナス大学は、環境・エネルギーの分野で1984年に学術交流協定を結んで長期間の交流を行っている。

あとがき

 本稿は、私が所属する国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センターが2011年に出版した、「躍進する新興国の科学技術~次のサイエンス大国はどこか~」(ディスカバー・トゥエンティワン)の第3章「ブラジル」の部分を原稿とし、加筆修正を行って作成した。

 上記書籍のブラジルの章は、当時研究開発戦略センターのフェローであった高野良太朗氏が原案を作成し、編集を行った私が一部修正の上、確定したものである。

 そこで今回HPに掲載するに当たっては、著者名を林と高野の連名とすることにした。

 なお、今回の加筆修正に当たっては、2010年12月に当センター名で作成した「科学技術・イノベーション政策動向~ブラジル~」と、2015年5月に日本学術振興会サンフランシスコ研究連絡センターが作成した「新興国ブラジルの学術研究動向」から、事実関係を中心に多くの内容を引用していることを、ここで申し添えたい。

2015年11月

国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター

 上席フェロー(海外動向ユニット担当)

林    幸 秀

(著者紹介)

高野 良太朗(たかの りょうたろう)

 独立行政法人科学技術振興機構(当時)研究開発戦略センター元フェロー。1999年国際基督教大学教養学部自然科学科卒、民間会社等を経て2006年英国サセックス大学科学技術政策研究所修士課程修了、同年科学技術振興機構に勤務。2009年に研究開発戦略センター勤務、海外動向ユニットで主に欧州、ブラジルを担当。2013年より独立行政法人国際協力機構(JICA)に転じ、現在JICA沖縄国際センターに勤務。

林 幸秀(はやし ゆきひで)

 国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー(海外ユニット担当)。1973年東京大学大学院工学系研究科修士課程原子力工学専攻卒。同年科学技術庁(現文部科学省)入庁。文部科学省科学技術・学術政策局長、内閣府政策統括官(科学技術政策担当)、文部科学審議官などを経て、2008年独立行政法人宇宙航空研究開発機構副理事長、2010年より現職。著書に「科学技術大国中国~有人宇宙飛行から、原子力、iPS細胞まで」など。