独立行政法人科学技術振興機構
6.評価対象課題の個別評価
8致死性不整脈の発生予測モデルの開発
企業名 | : | 株式会社イナリサーチ |
研究者(研究機関名) | : | 杉山 篤(山梨大学大学院・医学工学総合研究部・薬理学 准教授) |
1)独創モデル化の概要及び成果
慢性完全房室ブロックサルモデルの完成条件を検討するため10例のカニクイザルで心臓の房室結節の電気的焼灼手術を行い、術後1年まで経時的に心エコー検査及び神経体液性因子測定を行った。
その結果、ソタロールで多形性心室頻拍が安定誘発されるようになった動物において共通所見はみられなかったことから、心エコー及び神経体液性因子は当モデルの完成条件の指標にはならないと考えられた。
一方、手術後は、全例に徐脈並びにその代償性の心拍出量増加及び心拡大の進行がみられ、本モデルの心臓の形態は薬物誘発性致死性不整脈を生じやすい患者の病的心臓に類似することが明らかとなった。
更には、心筋サンプルのイオンチャネルmRNA発現量の測定ではカリウムイオンチャネル数の減少が示唆され、致死性不整脈がカリウムイオンチャネルの予備力減少に基づくという理論に合致したほか、薬物血中濃度測定により心臓の薬物感受性の亢進が明らかとなり、本モデルの妥当性の高さが裏付けられた。
2)事後評価
(ア)モデル化目標の達成度
動物モデル作製の安定性およびモデルの完成条件の特定に課題を残すが、当初の目標は概ね達成されている。
(イ)知的財産権等の発生
実施期間中における特許出願はされていない。今後も期待できない。
(ウ)企業化開発の可能性
個体差によりモデル動物作製の安定性に課題が残るが、今後のデータの蓄積によって、企業化の見通しもたてられる。
(エ)新産業及び新事業創出の期待度
慢性サル完全房室ブロックサルモデルによる心循環系の新たな安全性薬理試験法が新規事業として創薬業界に受け入れられる可能性もある。
3)評価のまとめ
動物モデル作製の安定性、歩留まり、完成条件の特定等、今後検討すべき課題が多く残されているが、データの蓄積を進めていけば企業化も期待できる。