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「独創的シーズ展開事業 独創モデル化」
平成20年度採択課題 事後評価報告書

平成22年2月
独立行政法人科学技術振興機構

6.評価対象課題の個別評価

浮遊環境を利用した新規の幹細胞培養液の改良

企業名 有限会社スペース・バイオ・ラボラトリーズ
研究者(研究機関名) 弓削 類(広島大学大学院保健学研究科 教授)

1)独創モデル化の概要及び成果

 宇宙実験などから、微小重力環境では幹細胞が未分化のまま増殖することが示唆されている。そこで、「細胞にかかる重力を低下させる」ことに着目し、臨床でも使用される高分子化合物を含む溶液にて培養液比重を調整し、細胞を浮遊状態で培養する方法で新規の幹細胞培養技術を確立することを目指した。併せて、磁性ナノ粒子を使って骨髄細胞から分離した幹細胞を比重調整培養液で培養するシステムを作製した。
 本モデル化では、成人幹細胞に対する培養液比重を決定した。マウス造血幹細胞においては、磁気分離と組み合わせたキット化の初期開発ができた。間葉系幹細胞でも、磁気分離により機能性を保った幹細胞が効率よく増殖できることを示す結果が得られた。万能細胞については、培養液組成の検討が必要と考える。
 本法は、既存の方法より有効で再現性もあるためニーズは高いが、市場参入には、メカニズムに裏打ちされたデータの信頼性を高める必要がある。

2)事後評価

(ア)モデル化目標の達成度
成人幹細胞ではほぼ目標を達成したが、万能細胞ではフィーダー細胞なしで培養出来る条件確立に至らず未達に終わった。

(イ)知的財産権等の発生
万能細胞(ES,iPS細胞)の培養液ができれば、出願が可能となる。

(ウ)企業化開発の可能性
企業化に十分なデータを得るに至っていないが、今後、磁気分離法の安定化、培養液組成の更なる改良による信頼性の向上等の課題が克服出来れば、原理自体はポテンシャルが高いので企業化が期待できる。

(エ)新産業及び新事業創出の期待度
安全で汎用性の高い幹細胞、万能細胞の分離・培養技術の確立は再生医療技術の発展にとってきわめて重要であって、今後本技術が完成された場合の新事業創出への期待度は高いものがある。

3)評価のまとめ

 ヒトの幹細胞への有効性などが示され、技術的には達成度は評価できる。しかし、企業化のためには、技術の信頼性向上や適用細胞種の拡大など、より広範囲な実験データおよび標準培養組織の確立が不可欠である。


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