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  3. 養育者支援によって子どもの虐待を低減するシステムの構築
写真:黒田 公美

黒田 公美 国立研究開発法人理化学研究所
脳神経科学研究センター
親和性社会行動研究チーム
チームリーダー

子ども虐待防止に重要な
養育者支援システムを考える

子ども虐待防止には、親(養育者)の抱える問題の解決が極めて重要ですが、日本では、養育者の支援が十分とは言えません。困難に直面する養育者に支援を提供するために、日本において何が必要かを探求し提言しました。

概要

子ども虐待防止には、親(養育者)の抱える問題の解決が極めて重要ですが、日本では、養育者支援が十分に行き渡っているとは言えません。その背景には、家族に子育てやケアを大きく依存する日本の社会制度、および子ども虐待の発生メカニズムの科学的根拠に基づく理解不足があります。
本プロジェクトの目的は、困難に直面している養育者にニーズに即した支援を提供するために、何が必要かを明らかにし、提言することです。脳科学・福祉・保健・社会学・法学など幅広い分野の研究者と、子ども虐待問題に関わる専門職や当事者の方々が協働して、調査・研究を行った結果、養育困難の程度に応じ、図に示すような一連の対策が必要と考えられました。

養育者支援推進のための段階別提言

図

研究開発の成果

まず予防的観点から、日本の子育て環境全般の底上げが必要です。保育・教育に関する支援拡充に留まらず、社会全体で子どもと子育ての価値を認め、行政や企業の各種手続きや決定などの際に配慮する「子ども・子育てメインストリーミング」を提言します。
選択的・個別的な養育困難世帯への支援のためには、精神保健など関連福祉分野と児童福祉との連携促進と、支援者自身が安心して働けるための支援者支援の体制も必要です。
地域における継続的支援のためには、NPOなど民間支援者と行政機関の連携が必要ですが、契約業務の煩雑さなどが障壁となっている現状もわかりました。
児童虐待かどうかによらず、子の福祉に具体的に着目した法制度整備の重要性も見出されました。

研究開発のアピールポイント

「養育者支援推進によるマルトリートメント予防」のための
科学的エビデンス構築

養育者の気分の落ち込みが深刻化する兆候を、脳機能画像から発見する方法を見出しました(特許出願中)。脳の活動を「見える化」することで、目に見えない子育てのストレスや心の疲れを本人と周囲が客観的・定量的に分かりやすく把握できるようになれば、子育て困難に至る前に予防的な支援へ繋ぐことが期待できます。支援職の共通理解を促進するためには、統一した「マルトリートメント予防モデル」の構築により、開発成果をモデルの枠組みに位置づけることが不可欠であり、今後は大阪府2中核市を対象とした研修や資材開発によって具体的に実装を目指します。

当事者への直接調査による重度子ども虐待の背景要因探索と
行動神経学に基づく検討

子ども虐待事件で受刑中の男女の養育者25名と一般の養育者に、生育歴、養育当時の生活環境や養育者ストレスを含む詳細なアンケート調査を行いました。そして哺乳動物において養育放棄・子への攻撃が起きやすい3つの要因(1)生育環境、(2)脳機能の問題、(3)養育当時の環境不適の有無を調べました。(1)~(3)のうち2つ以上に該当する養育者は事件群64%、一般群11%であるなど、事件群では養育放棄リスク要因が重複して存在するケースが過半数でした。親の喪失、被虐待などの生育歴上の困難(1)は72%の事件群養育者に見られましたが、(1)単独である率は少なく、生育歴上の困難は養育当時の環境要因やメンタルヘルス問題の発生確率上昇を介し虐待発生に寄与すると示唆されます。

外国にルーツを持つ親子の包摂と早期支援

外国にルーツをもつ子どもたちを育成するための政策は極めて未発達です。日本国籍でない子どもには就学義務がなく、乳幼児期の施設保育の機会も乏しいために日本語能力の発達が遅れ、学習全般や日本社会への適応の妨げとなったり、誤ってメンタルヘルスに問題があると判定されたりする場合があります。また親は環境の違いや長時間就労によるストレスから、十分な子育てができなくなる場合があります。外国にルーツをもつ子どもたちの保育所利用を進めると同時に、就労支援・生活改善による生活基盤づくり、親子に対する日本語教育と親の母語教育の徹底、メンタルヘルス判定における多文化配慮などが必要なことが明らかとなったので、様々な機会に提言を行っています。

成果の活用場面

具体的な成果活用例の一つとして、養育者支援プログラム普及の要件を探索するモニター事業では、29人の養育に関し何らかの困難を自覚する人に、6種の養育者支援プログラムのうち1つを受講していただきました。そしてその前後で聞き取り調査を行い、子どもの問題行動や養育者のストレスなど、親子関係に関する何らかの改善を確認しています。この試験的実装の成果とステークホルダーとの協議により、図に示す「公私連携養育者支援システム」案を提言しました。ねらいは、受益者にとって支援の継続性の確保すること、支援の担い手に行政との契約業務の簡素化と予算執行の柔軟性を高めることです。このモデルを基に新たなRISTEXでの研究開発にて試験的実装を行います。

公私連携家族支援提供システム案

図

成果の担い手・受益者の声

担い手
見えない心の疲れが客観的・定量的に評価されるようになれば、本人との間で共有でき適切な助言や支援につながりやすいです(子育て支援者)
受益者
出所後に養育者支援プログラムに参加したい。子どもに迷惑かけずに、一人で受けられるのも助かります。本だけでもここにいるうちに読みたい。(受刑中の養育者)

目指す社会の姿/今後の課題

子どもは未来の社会を担うかけがえのない存在です。その子どもの育成には、親(養育者)の負担を伴います。親子の心身の不調や環境困難などの事情により、養育者への負担が過大になる時、結果として不適切養育に至ってしまう場合があります。だからこそ、親子をとりまく社会からの支援が必要です。
一人の子どもを育むためには、親だけでなく、幼稚園や学校の先生、産婦人科や小児科の医療スタッフ、さらに地域の施設職員や近所の人々など、様々な分野からの貢献も必要です。
子どもが安心して暮らせるために、子どもの育ちを支えるすべての人も、安心しゆとりを持って暮らせる社会を目指し、今後も研究開発を続けてまいります。

内容に関する問い合わせ先

理化学研究所 脳神経科学研究センター 親和性社会行動研究チーム
[連絡先] parental-support.cbs[at]riken.jp ※[at]は@に置き換えてください。

事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
[連絡先] pp-info[at]jst.go.jp ※[at]は@に置き換えてください。