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  3. 高齢者の安全で自律的な経済活動を見守る社会的ネットワークの構築
写真:小賀野 晶一

小賀野 晶一中央大学
法学部 教授

高齢者の自律的な経済活動と
保護の両立へ

高齢者が意思決定能力の低下を理由に一律に取引を制限される、または詐欺の被害にあうなどの問題が深刻さを増しています。判断力が低下したときに保護を受けながらも本人の意思が尊重される仕組みを提案しました。

概要

高齢化社会の進展とともに、高齢者の経済活動についての問題が生じています。例えば、意思決定能力の低下を理由に一律に取引を制限されたり判断力の低下につけこまれて詐欺の被害にあうなどの問題が深刻さを増しています。これらについて、新たな仕組みを構築して解決する必要が求められています。
本プロジェクトでは、高齢者が地域で行う経済活動という「私」空間の情報の実態を明らかにし、その上で行政や医療福祉といった「公」空間の情報のあるべき関係を明らかにしました。自律的な経済活動を保障し、判断力が低下したときには保護を受けながらも本人の意思が尊重される仕組みを提案しました。

提案する社会の仕組み

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研究開発の成果

健常から認知症までに至る経済活動の実態について明らかにしました。金融リテラシーの高さが経済的な備えを通じて老後の不安を軽減すること、認知機能低下に伴い家計の支出が減少すること、認知症であっても財産を保護する制度である成年後見制度についての知識や利用率は極めて低いことを示しました。
これらの実態を踏まえ、判断能力が低下した高齢者の貯蓄取り崩しと過少消費の二つの経済活動リスクを検知するシステムを開発しました。また、判断能力の低下前から事後の意思決定を支える柔軟な制度の仕組み作りが必要であること、リスクの高い高齢者の情報を公的機関と共有するにあたり個人情報保護法制の課題とその解決策を提案しました。

研究開発のアピールポイント

健常から認知症に至る高齢者の経済活動の実態を明確化

健常から認知症までの高齢者の経済活動の実態を明らかにしました。認知症と診断されるほどの日常生活の支障はない高齢者であっても、認知機能の低下により安全な取引が難しくなっている可能性があることがわかりました。また、認知症高齢者の財産は多くの場合、介護者によって管理されていることを示しました。これらの成果により、経済活動の変化から判断能力の低下が疑われる高齢者を早期に発見するための手法を開発することが可能であると考えられます。

保護と自律のバランスの取れた高齢者の経済活動を支える法的課題を整理

地域において意思決定支援システムを構築するための法的課題を検討しました。近代民法の規律はものごとを合理的に考え、合理的に行動することができるという、「合理人・合理的行動を標準とする規範」ですが、超高齢社会の今日には適合しないことを指摘しました。超高齢社会における法的課題の解決策として地域生活の安心・安全を確保するために「事前から事後までの一貫した支援」が必要であり、新しい能力論の開発や能力判定法の簡易化など、利用しやすい柔軟なシステムを作ること、そのためには地域における創意・工夫が期待されることを指摘しました。また、同意能力が十分でない高齢者の個人情報の保護を行うと同時に適切な情報共有を行うための法制度上の課題を明らかにしました。

高齢者の経済活動のリスクを早期に発見し警告を出すシステムを開発

高齢者の経済活動のリスクを、判断能力の低下などから引き起こされる「貯蓄取り崩しリスク」と、意欲低下などから引き起こされる「過少消費リスク」に大別し、それらを早期に発見し警告を出すシステムを開発しました。総務省の全国消費実態調査の匿名データに基づいた性能評価の結果、いずれの手法も高いリスク判定正答率を示しました。本システムについては特許の出願を行っています。

成果の活用場面

経済産業省が行っている認知症官民連携プラットフォームプロジェクト「認知症の人にやさしい」新製品・サービスを生み出す実証フィールドに向けた有識者会議や金融庁が開催した高齢化社会における金融サービスを考えるシンポジウムに登壇し、認知症による経済活動の影響について意見を述べました。また、リスク検知システムについては、経済産業省のプロジェクトに情報登録を行いました。同システムは、経済活動能力に応じた精緻なファイナンシャルプランの作成、経済活動の見守り、生活の破綻予防などに活用できます。

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成果の担い手・受益者の声

担い手
高齢化とキャッシュレス化をうまく交ぜていくことがとても重要であり、預金口座の動きの中から、ある程度MCI(軽度認知障害)などを予知できないかと考えています。今年度中くらいにサービス化できないかという思いで開発中です。(情報・通信系企業)
受益者
医療で培った能力評価や意思決定支援の手法が、民間事業者との契約にも参考になると感じています。また、実際にプライバシーを守りながら精度を高めるための悩みも含めて共有いただけるとありがたいです(経済産業省ヘルスケア産業課)

目指す社会の姿/今後の課題

判断能力が低下しても高齢者が安全で安心な経済活動を自分の意思で行うことができる社会の実現のために、民間企業が購買情報を基に高齢者の判断能力の変化を早期に検知し、その情報が行政や医療・福祉など地域包括ケアにおいて主となる役割を果たす公的機関と共有される必要があります。そのことにより、ハイリスク高齢者の早期発見・治療につながると同時に、より長く自律した経済活動が可能となる社会を目指しています。その実現のためには、特に成年後見制度や個人情報保護法制2000個問題など、民法や情報に関する新たな制度設計を行っていくことが求められます。

内容に関する問い合わせ先

京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学
[連絡先] 075-251-5612

事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
[連絡先] pp-info[at]jst.go.jp ※[at]は@に置き換えてください。