独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)戦略的創造研究推進事業および文部科学省プロジェクトで進めている研究において、京都大学工学研究科 野田進教授および住友電気工業株式会社 赤羽良啓研究員等は、新しい光ナノ構造として注目される「フォトニック結晶」を用いて世界最大(従来の10~100倍)の光閉じ込め効果をもつ極微小光共振器(図1)の実現に成功した。この成果は、極小電流で動作可能なナノレーザ、光を一個一個放出可能な次世代量子通信用の新光源、光をそのままの状態で記憶可能な光メモリー、超小型かつ高分解能のフィルターを始めとする様々な応用へとつながるもので、平成15年10月30日付の英国科学雑誌「Nature」で発表される。 |
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<研究概要> |
光の波長程度の極めて小さな器(光ナノ共振器)に、非常に強く(あるいは、長く)光を閉じ込めることが出来れば、様々な魅力的かつ新しい応用の道が開ける。例えば、極微小電流で動作可能なナノサイズのレーザ、光を一個一個放出可能な次世代量子通信用光源、光をそのままの状態で記憶することの出来る光メモリー、超小型かつ高分解能のフィルター、分子数個をも検知できるような超高感度センサーや新しいバイオ応用、光を様々に制御可能な光チップ、等々。これらは、極微小域に光を強く閉じ込めることにより光と物質との相互作用が極限的に強くなること、強い光閉じ込め効果により光の滞在時間が十分に長くなること、極微小共振器ゆえ大規模集積が可能となること等の効果に基づくものである。
これまで、極微小領域に光を閉じ込めようとして、共振器の大きさを小さくしていくと、その大きさに逆比例して、光の漏れが大きくなり、強い光閉じ込めを達成することは、困難であると考えられてきた。今回の研究成果のポイントは、「極微小共振器に光を強く閉じ込めるためには、逆に緩やかな光閉じ込めが必要である」という重要かつ逆説的な概念を見出したことにある。さらに実際にフォトニック結晶[*1]に本概念を適用し、世界最大(従来の10~100倍)の光閉じ込め効果をもつ光ナノ共振器の実現に初めて成功したことにある。
具体的には、まず、厚さ250nmのSiの薄板に、420nm間隔で三角格子状に規則正しく空気穴を設けた2次元フォトニック結晶の一部に、直線上に3つ空気穴を埋めた極微小点欠陥(ここに光が閉じ込められる)を設けて(図2(a))、その端部に位置する空気穴をほんのわずかに、通常位置よりも外側へシフトさせると(図2(b))、端部での急峻な光の反射・散乱が押さえられ、緩やかに反射されるようになることが判明した[*2]。その結果、共振器端部での上下方向への光の散乱による漏れが大幅に抑えられ、共振器内部への光の閉じ込めが極めて強くなることが分かった[*3]。ちょうど、これは、海岸の波打ち際で、切り立った岸壁がある場合、岸壁へ向かった波は激しく上部へ打ち上げられるのに対し、波打ち際に緩衝材(テトラポット[*4])を配置すると、波は緩やかに受け止められ、上部への打ち上げが大幅に抑えられる現象とよく似たものとも言える。こうした原理に基づき、実際に、体積Vが 7.0x10-14cm3(目安として400nm立方)と極めて小さくかつ、Q値(共振器の良さ)[*5]が、45,000と極めて高い光閉じ込め効果をもつ光ナノ共振器(図1)を実現することに成功した。得られた単位体積あたりのQ値は、世界最大の値である。今後、さらに上記の概念に基づき、端部の設計をより工夫することで、より強い光閉じ込め効果をもつ光ナノ共振器の実現も可能である。以上の成果は、上述の様々な魅力的な応用への道につながるもので、光科学分野における重要なブレークスルーがなされたものと位置づけることが出来る。 |
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<実験の詳細> |
本概念に基づく光ナノ共振器の強い光閉じ込め効果を実証するため,図2(b)に示すように、点欠陥共振器の端部の空気穴の位置のシフト量を少しずつ変えた試料を作製した。その作製には,電子ビーム露光およびドライエッチング技術を用いた。まず、レジストをSOIウエハ[*6]上に塗布し、電子ビーム露光によりデバイス全体のパターンを形成する。その後、電子ビームレジストをマスクとして、SOIウエハの最上層のシリコン層にパターンを転写し、レジストを除去する。最後に、シリコン層の下部に存在するSiO2層を化学エッチングにより除去し、2次元フォトニック結晶薄板構造を形成した。作製した(種々のシフト量をもつ)点欠陥共振器の拡大電子顕微鏡写真、および結晶全体を斜め方向から電子顕微鏡により観察した結果を、図3(b)に示す。同図に示すように、極微小光共振器に光を導入するため,線欠陥導波路[*7]が点欠陥近傍に設けられている。
上記各種の試料に,光導波路の端部から光を入射し、点欠陥共振器の共振特性を調べた。そのスペクトル(光強度と波長の関係)を図3(a)に示す。同図から,共振器端部の空気穴のシフトとともにスペクトルの半値幅が狭くなり、シフト量が0.15 a= 0.15 x 420nm = 60nm のときに、0.045nmと一桁以上も狭くなることが見て取れる。Q値(共振器の良さ)は,この半値幅に反比例し、半値幅が狭いほど、強く光が閉じ込められていることを意味する。得られた最大のQは、導波路との光結合を考慮すると、45,000と極めて大きくなることが分かる。図3(c)には、単位体積あたりのQ、すなわちQ/Vを示すが、わずかな空気穴のシフトで、Q/Vが一桁以上大きくなることが分かる。得られたQ/Vの値は、これまで世界的に報告されている値に比べて、一桁以上高く、世界最大の光閉じ込め効果が得られたと言える。 |
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本件問い合わせ先: |
野田 進(のだ すすむ)
京都大学 工学研究科 電子工学専攻
〒615-8510 京都市西京区京都大学桂
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森本 茂雄(もりもと しげお)
独立行政法人 科学技術振興機構 研究推進部 研究第一課
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