<補足説明>

*1 フォトニック結晶
 フォトニック結晶とは、一般に光の波長と同程度の周期的な屈折率分布をもつ新しい光ナノ構造を意味しており、周期に対応する波長の光が結晶の内部に存在できずに,一切排除されることを特長とする。この特長を生かすことで,極微小域で光の伝播や発生を自在に制御できることから,光ナノ材料として近年大きな注目を集めている。
 野田教授等は、これまでにも、独自のナノ加工技術を用いて完全結晶の開発(2000年7月、米科学誌サイエンスに発表)を始め、点欠陥における光の捕獲現象の初めての実証(2000年10月英科学誌ネイチャーに発表)、大面積単一・縦横モード発振可能な新型半導体レーザの開発(2001年8月米科学誌サイエンスに発表)、さらには、面内ヘテロ構造という新しい概念をもつ超小型光機能デバイスの実現(2003年6月米科学誌サイエンスに発表)にも成功しており、様々な光制御の可能性を実証していた。

*2 極微小共振器端部の空気穴を外側へシフトすることで、緩やかな光閉じ込めが得られる理由
 フォトニック結晶を構成する空気穴は,それぞれが光を反射する微小ミラーとして作用する。特に、点欠陥共振器近傍の空気穴列は、点欠陥中へ光を閉じ込めるための重要な反射鏡として働く。通常は、空気穴列は、等間隔で並んでいるため、それぞれの空気穴により部分反射される光の波が強め合うように干渉し、ほぼ100%の反射が得られる。共振器端部の空気穴を外側にシフトさせると,シフトした空気穴からの反射光波の位相は、他の空気穴列から反射される光波の位相とずれることになり、反射強度が弱まる。その結果、その反射の低下を補うように,光はより、外側の空気穴にまでしみ出し,完全に反射されるようになる。このように,共振器端部の空気穴をシフトさせ、位相をずらすことで、より内部まで光がしみ込んで反射されることになり、緩衝材のような働きが得られるようになる。結果として、結晶の上下への光の散乱が減少し、共振器内部への強い光閉じ込めが可能となる。

*3 光閉じ込め機構の詳細な説明
 より、専門的に原理を説明すると,以下のようになる。
 図4(a)に示した単純化した共振器モデルを考える。同図は厚さT,長さLの誘電体からなる共振器であり,両端に位置する完全反射ミラーにより,x方向には完全に光が閉じ込められている。z方向は空気で挟まれており,屈折率差による反射により光が閉じ込められている。なお,y方向は単純にするため均一としている。図4(b)は,共振器長L=2.5λ(λ:共振器中での共振波長)の場合の電界分布の一例を示している。上下方向,すなわちz方向の光閉じ込めの強さは,フーリエ変換により,電界分布を様々な波数kをもつ平面波に分解することで調べることが出来る。ここで,波数kx成分が0から2π/λ0(λ0:空気中での光の波長)の範囲にあるときには,共振器内から周りの空気中に光が漏れる。これは,誘電体と空気の界面での波数保存則(広い意味でのスネルの法則)が満足するためであり,この波数成分の光が存在すると,z方向の光閉じ込めの強さは弱くなる。逆に,波数kx成分が2π/λ0より大きい光は,波数保存則が成立しないので,共振器内から空気中には漏れない。図4(c)は,図4(b)のフーリエ変換を表しており,上述の漏れ領域(波数kx成分が0から2π/λ0)も示している。同図から,この場合には漏れる成分が多いことが分かるが,これがQ値を下げている原因である。
 一方,緩やかに閉じ込めた場合の電界分布の一例を図4(d)に,そのフーリエ変換を図4(e)に示す。同図から,緩やかに閉じ込めた場合には漏れ領域の成分が劇的に減ることが分かる。
 この差は,共振器内の電界分布を,三角関数と包絡線関数の積として近似することで理解できる。この積のフーリエ変換は,包絡線関数のフーリエ変換を±2π/λだけ波数方向に平行移動したものに相当する。この包絡線関数のフーリエ像の中心波数±2π/λは漏れ領域外にあるため,包絡線関数のフーリエ像が十分狭ければ,漏れ領域の成分は存在しないことになる。しかし,図4(b)の電界分布の包絡線関数は矩形関数であるため,そのフーリエ像は2π/Lの幅をもつsinc関数になり,その結果,漏れ領域に多くの成分が生じる。別の言い方をすれば,共振器端での包絡線関数の急激な変化が,漏れる領域に多くの成分を生じることになる。共振器長が小さくなればなるほど,この共振器端での影響は深刻になり,Q値が劇的に低下する。一方,図4(d)の電界分布の包絡線関数はガウス関数であり,そのフーリエ変換もガウス関数に相当するため,漏れ領域の成分は劇的に少なくなる。
 以上から,「極微小共振器に光を強く閉じ込めるためには、逆に緩やかな光閉じ込めが必要である」ことが分かる。

*4 テトラポット
 海岸線上に大量に敷設されている星型の消波ブロックを指す。

*5 Q値
 Quality FactorのQをとって,Q値と呼ばれる。これは,共振器の良さとも呼ばれ,どのぐらい強く光を共振器中に閉じ込めることが出来るのかの目安になる。Q値が大きいほど,より強く光を閉じ込めることが出来るようになる。

*6 SOIウエハ
 Silicon on Insulatorの略。シリコン(Si)薄膜が,酸化シリコン(SiO2)を介して,シリコン基板の上に,形成されたものである。もともと電子デバイス用に開発されたウエハであるが,近年,光デバイスにも用いられつつある。

*7 線欠陥導波路
 フォトニック結晶の周期性をわざと乱すと,その部分(すなわち欠陥)にのみ光が存在できるようになる。この欠陥の導入の仕方を様々に工夫することにより,様々な光の制御が可能となり,超小型の光デバイスが実現できるものと期待される。例えば,点状に設けた欠陥(点欠陥)は光の共振器となり,線状に設けた欠陥(線欠陥)は光の導波路となる。

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