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平成18年6月22日

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様々な形状のビームを自在に出射出来る半導体レーザを開発

 京都大学(総長:尾池和夫)とJST(理事長:沖村憲樹)は、ローム株式会社(社長:佐藤研一郎)と共同で、様々な形状のビームを自在に発することが可能なコンパクトな半導体レーザの開発に世界で初めて成功しました。本研究では、光の波長程度の周期的な屈折率分布をもつフォトニック結晶注1レーザ共振器注2として用いるとともに、その結晶構造を様々に変化させることにより、ドーナッツ形状から真円形状に至る各種の有用な形状をもつビームを発生させることに成功しました。この成果は、オンデマンドなビーム形状、すなわち、望んだビーム形状を自在に発生することの出来る全く新たなレーザ光源の実現を意味するものであり、半導体レーザの新たな方向を示す極めて重要な成果です。 本成果は、波長の数分の1以下まで集光可能な超波長分解能レーザ注3、透明物質のみならず不透明物質をも操作可能な光ピンセット光源注4、ビーム整形不要なコンパクト光源などの新たなレーザを提供可能とするもので、超高密度メモリー、マイクロフルィディクス注5、ナノバイオ等の様々な新規分野への応用、さらには既存の様々な光システムへの応用が考えられます。
 本成果は戦略的創造研究推進事業 CRESTタイプ(チーム型研究)「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」研究領域(研究総括:伊澤達夫 NTTエレクトロニクス株式会社取締役相談役)における研究テーマ「フォトニック結晶を用いた究極的な光の発生技術の開発」および文部科学省プログラムのもとに、野田進(京都大学大学院工学研究科教授)、宮井英次(同研究員)、および大西大(ローム株式会社研究員)等によって得られたもので、英国科学雑誌「Nature (ネイチャー)」に2006年6月22日(英国時間)に掲載されます。

<研究の背景>

 様々なビーム形状をもつコンパクトな半導体レーザ光源を開発することは、マイクロフルィディクス、ナノバイオ、超高密度光メモリーなどの様々な新規分野の進展、さらには、既存の各種光システムへの応用にとって極めて重要です。例えば、ドーナッツ形状のビームを発するレーザは、透明な物質のみならず不透明物質までも操作可能な光ピンセット光源として期待され、マイクロフルィディクスやナノバイオ等の分野に大きく寄与出来るものと期待されます。また、偏光状態を半径方向に揃えたドーナッツビームを発するレーザは、波長の数分の1以下まで集光可能な超波長分解能レーザとして期待され、光メモリーの飛躍的な高密度化のために極めて重要と考えられます。さらに、真円ビームを発するレーザは、各種の光システムへの応用にとって不可欠なものと言えます。しかしながら、従来の半導体レーザでは、原理的に、ビーム形状を制御することは極めて困難でした。 本研究では、2次元的な周期的屈折率分布をもつフォトニック結晶に着目し、これを半導体レーザの光共振器として用い、結晶構造を様々に変化させることにより、ドーナッツ形状から真円形状に至る各種の重要なビーム形状を発生させることを試みました。

<成果の具体的な説明>

 半導体レーザから出射されるビーム形状は、ビームが出る面(出射面)における電磁界(光)分布によって決定されます。従って、各種の形状を得るためには、ビーム出射面における電磁界分布を様々に制御することが重要です。しかしながら、従来の半導体レーザでは、屈折率差を用いて出射面に光を閉じ込める方式をとっているため、電磁界分布を自在に制御することは、極めて困難です。例えば、CDやDVDプレーヤーに用いられる一般的な半導体レーザでは、出射されるビーム形状は、縦長の楕円ビームに限られています。

 ビーム形状の制御のためには、ビーム出射面における電磁界分布を、従来とは全く異なる方法により制御する必要があります。本研究では、この課題に対処するため、2次元的な周期的屈折率分布をもつフォトニック結晶においては、光の群速度注6がある条件で零となりうるという性質に着目しました。2次元フォトニック結晶において、光の群速度が零になるということは、ある特定方向に伝搬する光が、フォトニック結晶により、面内の別の方向に回折され、その回折された光もまた伝搬中に別の方向に回折され、結果として、様々な方向に伝播・回折される光が互いに結合しあい、2次元面内に定在波状態(合成波の節や腹が進行せず、同じ位置で振幅しているように観察される状態)を形成することを意味します。 具体的には、図1(a)に示された正方格子状のフォトニック結晶(xおよびy方向における隣り合う格子点の間隔が、結晶中を伝搬する光の波長に一致するように設計されている)では、+x方向に伝搬する光は、フォトニック結晶による回折効果(言い換えれば、各格子点での微小反射の干渉)により、−x方向に回折されるとともに、+yおよび−y方向の方向にも回折されます。これら回折を受けた光は、また、同様の回折を受けるため、結局,+x, −x, +y, −yの4つの方向に伝搬する光が互いに結合しあい、2次元面内において定在波状態が形成されることになります。これはまさしく2次元大面積での光共振器の形成が可能であることを意味します。さらに、2次元フォトニック結晶は、面垂直方向への光の出射(面発光)を可能とする回折格子として作用しますので、フォトニック結晶面が出射面となります。

 このように、フォトニック結晶により、2次元大面積に渡って安定なレーザ発振のための光共振器が得られると、次のステップは、各種の形状のビームを発生させるために電磁界分布を様々に変化させることです。電磁界分布を変化させる方法としては、2次元面内の様々な方向に伝播する光の結合状態を変化させれば良く、例えば、フォトニック結晶の格子点の形状や結晶格子の間隔を変えることが、その有効な方法と考えられます。図1(b), (c)には、それぞれ、格子点形状が、真円および3角形の場合の結晶一周期(単位格子)における電磁界分布が示されています。同図より、格子点を真円から三角形に変化することにより、完全な回転対称性をもつ電磁界分布から、回転対称性が崩れx方向に非対称性をもつ電磁界分布に変化することが分かります。一方、図1(d)-(h)には、格子点形状を真円に保ったまま、フォトニック結晶に格子間隔のシフトを導入した場合の結晶全体の電磁界分布を示しています。 図1(d)は、シフトなしの場合で、同図(e)-(h)は、シフトを1つずつ増やして行った場合の電磁界分布を示します。これらより、格子間隔のシフトを行うと、シフト位置において、電磁界分布が反転することが分かります。シフトの本数を増やすにつれ、電磁界の反転が繰り返されることが分かります。以上を組み合わせることで、面内の電磁界分布を様々に制御出来るものと予測されます。

 以上をもとに、実際に、図1に示すようなデバイスを作製しました。同デバイスに導入するフォトニック結晶構造としては、上述の議論をもとに、図2(a)-(f)の左パネルの電子顕微鏡写真に示すような6種類の結晶を作製しました。(a)は、格子点形状が真円で格子間隔のシフトなし、(b)は真円格子点で、格子間隔のシフトを1本導入したもの、(c)は、真円格子点形状で、格子間隔のシフトを2本平行に導入したもの、(d)は、真円格子点形状で格子間隔のシフトを十字状に導入したもの、(e)は、真円格子点で、2本の平行格子シフトを直交させて導入したもの、さらに、(f)は、格子点形状を三角形としたもので、格子間隔のシフトなしです。なお、図1に示すデバイスの構成材料は、InGaAs/GaAs半導体で、発振波長は、980nm近傍になるように設定されています。作製したデバイスは全て室温で、連続発振し、安定な単一モードで動作しました。また最大出力は、室温連続条件で、45mWが得られました。 得られたビーム形状を図2(a)-(f)の右パネルに示します。単一ドーナッツから2連、4連ドーナッツ、さらには真円形状等の非常に興味深いビーム形状が得られました。ビーム拡がり角は、大面積コヒーレント発振を反映して2°以下と極めて狭いことが判明しました。

 上記のようなビーム形状が得られる理由は以下のように説明出来ます。まず、図2(a)の場合は、格子点形状が真円であり、その電磁界分布は、図1(b)に示されるように回転対称性の良い電磁界分布となります。この電磁界分布をもつレーザ光が、出射面から外の自由空間に出射されると、ビームの中央部において電磁界の打ち消し合いが起こり、ドーナッツ形状のビームとなります。(詳細は省略しますが、このドーナッツビームの偏光状態は、半径方向あるいは接線方向に揃えることが出来ることも本研究により判明しました。)次に、図2(b)のように、格子点間隔のシフトを導入すると、図1(e)に示すように、シフト位置の左右において、電磁界分布の+、−の反転が起こるために、自由空間へ出射された後の干渉条件が変化し、ドーナッツビームが2つ現れるようになります。シフトを増やしていくと、さらに干渉条件の変化が繰り返され、図2(b)-(e)に示すような、様々なドーナッツビームが現れていくことになります。 さらに、格子点形状を図2(f)のように、3角形にすると、今度は、電磁界分布が、図1(c)に示すように、回転対称性が崩れるため、ビーム中央部でのキャンセルがなくなり、円形ビーム形状へと変化していくことになります。

<まとめと今後の展開>

 以上のように、フォトニック結晶をレーザ共振器として用い、その構造を様々に制御することにより、様々な興味深いビーム形状が得られることが示されました。今後、フォトニック結晶構造をさらに制御することにより、全く新しいビーム形状が得られるものと期待されます。これは、まさしくオンデマンド、すなわち、望んだビームを自在に提供する新しい半導体レーザの登場を意味するもので、最初にも述べたように、各種の新規分野、たとえば、マイクロフルィディクス、ナノバイオ、さらには超高密度光メモリー等の進展に大きく寄与していくものと期待されます。また、本レーザは、基板面に垂直方向に光が取り出される、いわゆる、面発光レーザとして動作しますが、室温連続状態で、図2(f)に示すような真円形状のビームをもち、かつ45mWという従来にない光出力が得られたことは、世界最高性能の面発光レーザが実現されたことを意味し、現存の各種の光システムにも大きなインパクト与える成果と言えます。

【語句説明】
図1.本研究で開発したフォトニック結晶レーザ
図2.フォトニック結晶の格子点形状の制御や格子間隔のシフトの導入により生成された様々な形状のビーム

【掲載論文名】

“Photonics: Lasers producing tailored beams”
様々な形状のビームを自在に出射出来るレーザ
(オンデマンドなビームを発するレーザ)
doi :10.1038/441946a

【研究領域等】

戦略的創造研究推進事業 CRESTタイプ(チーム型研究)
「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」研究領域
(研究総括:伊澤達夫 NTTエレクトロニクス株式会社 取締役相談役)
研 究 者:野田 進(京都大学大学院工学研究科 教授)
研究実施場所:京都大学 工学部
研究実施期間:平成17年10月〜平成23年3月

【お問い合せ先】

野田 進(ノダ ススム)
京都大学 大学院工学研究科 電子工学専攻
〒615-8510 京都市西京区京都大学桂
TEL:075-383-2315, (or 7030)
FAX:075-383-2317

金子 博之(かねこ ひろゆき)
独立行政法人科学技術振興機構 研究領域総合運営室
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