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平成21年度プログラムオフィサーセミナー開催報告

プログラム 参加者実績

1.開催日

平成21年9月16日

2.場所

東京国際フォーラム ホールB7

3.参加者数

200名

4.POセミナーの経緯と位置づけ

会場の様子
 プログラムオフィサー(PO)セミナーは、我が国にプログラムディレクター・プログラムオフィサー(PD・PO)制度が導入されたのを機に、2004年9月21日に第1回が開催され、今回は9回目となる。最初の4回は、米、英、独、加、豪のPOを招いて各国のPO制度の紹介をして貰うものであった。その後、日本のPOによる、海外の競争的資金配分機関での「PO研修報告」などを経て、日本は我が国に最適なPO制度を構築すべきではないのかとの認識に至り、第6回以降はテーマを定めてディスカッションを行っている。第6回「研究開発評価とPOの役割」、第7回「競争的資金の会計的マネジメントとPOの役割」、第8回「大学と競争的資金配分機関が協力して競争的資金を使い易くする活動の枠組みについて」である。
 今回は「Transformative Research等のハイリスク研究課題に対するファンディングプログラムの設計とマネジメント」をテーマに設定した。現在、公平性・透明性を確保するためにピアレビューにより審査を行うことが世界的に主流となっているが、近年、ピアレビューによる審査では目先の研究成果を出しやすい研究提案が採択され、革新的でイノベーションにつながる画期的な研究が採択されにくい傾向があるとの指摘がされるようになり米国を中心に Transformative Research という概念が提唱されている。本セミナーではNSF、NIHのTransformative Researchの関係者、また、かねてよりハイリスク研究に注力しているDARPAの関係者を招き講演いただく。本セミナーがイノベーション実現の方策を探る一助となることを期待する

5.各講演の概要報告

(1)「開会挨拶」
本庶 佑 総合科学技術会議 有識者議員
 以下は挨拶の概略である。
 基礎研究はしばしば研究者の自由は発想に基づく研究と表現されるが、それだけでは不十分で、自由な発想に基づきながら目標がないと駄目である。その目標とは、これまでの常識を破り、非常に多くの分野に影響を与える共通の概念を形成するパラダイムシフトを起こすような発見を指す。それが基礎研究の大きな使命である。
 ところが、科学者のコミュニティーは、大多数が保守的で、その社会のコンセプトに合う発見には極めてあたたかいが、独創的でチャレンジする発見には極めて冷淡である。基礎研究の評価というのは、その点で極めて難しい。
 今回、Transformative Researchというテーマが取り上げられたということは総合科学技術会議にとっても非常に歓迎することである。私どもは平成19年6月に「競争的資金の拡充と制度改革の推進について」という報告書をとりまとめて、その中でハイリスク研究を推進すべきであるという提言をしている。
 しかし、公平性、透明性というファンディングエージェンシーの使命を保ちながら、いかにしてこのようなハイリスク研究を取り上げ、そしてそこから新しいパラダイムシフトを起こすような研究を育てることができるのか、これは永遠の課題であるかもしれないが、我々はそれに向けて大きな努力をしていくことが重要であると考えている。今日の皆様方の熱心な討論をぜひ実らせて新たなステップが生まれることを期待している。

(2)「セミナー開催趣旨説明と講演者紹介」
高橋 宏 科学技術振興機構 総務部 プログラム主監
 以下は講演の概略である。なお、POセミナー開催趣旨は、前項の「4.POセミナーの経緯と位置づけ」に記述した。
 Transformative Researchという言葉は、米国の国家科学審議会(National Science Board) が2005年12月28日に発表した「NSB 2020 Vision for the NSF」において記述され、2007年5月7日の国家科学審議会報告書(NSB-07-32)において、「重要な科学的あるいは工学概念に関する我々の理解を根本的に変え、新たなパラダイム、あるいは科学や工学の新分野の創出を先導するようなアイデアに基づく研究であって、新たなフロンティアを目指す現在の理解や筋道に挑戦することを特徴とする」と定義されている。そしてTransformative Researchの研究には過激なアプローチや解釈が必要で、このような研究が時として、科学を劇的に前進させ、新たなパラダイムや学術分野を形成することがあるが、この種の研究はピアレビューでは評価されず、採択されない傾向があると記述されている。さらに、別の報告では、1970年代から画期的な研究が生み出されなくなったのはピアレビューが原因との指摘もなされている。
 こうした議論は、イノベーションを起こす可能性のあるTransformative Research研究の審査には新たな手法が必要であり、また、どのようにマネジメントすれば良いのか、という問題提起につながるが、これこそがPOの役割であると言えるのはないか。
 そこで、「公平性、透明性を確保しつつ、Transformative Researchのような挑戦的、革新的研究提案を採択するためにはどのようにファンディングプログラムを設計し、審査方法を設計すればよいのか、そして、どのようにマネジメントすれば良いのか」、について、NSF、NIH、 DARPA、及びJSTのPOにそれぞれの取り組みの状況をご紹介頂き、かつ、今回は、世界17カ国のファンディングエージェンシーから43名のPOも参加しており、その方々も含めて、幅広いディスカッションをする機会を設定させて頂いた。

(3) 「JST-ERATOにおける研究開発マネジメント:Transformative Researchの促進に向けて」
古川 雅士 科学技術振興機構 イノベーション推進本部
研究プロジェクト推進部 JSTプログラムオフィサー
 以下は講演の概略である。
 我が国の競争的資金で最も予算の大きいのは科学研究費補助金で年間約2000億円の予算を使って、研究者の自由な発想に基づく基礎研究(curiosity drivenな基礎研究)を行っている。その中から、戦略的に重点化して育てていくのがJSTの戦略的創造研究推進事業(mission drivenな基礎研究)であり、年間500億円の予算を使っている。役割としては、将来の社会に役立つシーズを生み出すということ、curiosity drivenな基礎研究と応用研究のギャップを埋めることにある。
 戦略的創造研究推進事業では国から将来の社会、経済ニーズに基づく4〜5の戦略目標がJSTに降りてくる。これに資する研究開発を行うのが戦略的創造研究推進事業の役目である。戦略的創造研究推進事業の中には大きく3つの事業があり、個人をメインとしたPRESTO、オールジャパンを1つのバーチャルラボと見立てて研究チームが参加するCREST、プロジェクト型研究のERATOである。ERATOはその中で最も歴史が古い事業である。
 ERATOの研究期間は約5年、これまでリニューアルは基本的にない。研究費は年間約3億円、5年の研究期間なのでトータルで15億円が与えられる。ERATOは1つの研究構想を実現するために新しいスペースが与えられ、十数人程度のポスドクを雇用する。
 ERATOのコンセプトは、10年や15年といった中長期的なビジョンを持ったとき、最初の一歩となるような大きなブレークスルーをこの5年間の研究機会を通して見つけることである。あるひとつの学問領域の考えを根本的に変えたり、新しい科学技術の流れを生み出すということが基本コンセプトにある。
 アイデア重視ということはもちろんだが、それを動かすのは最終的には人であるので、我々は人中心のプログラムと言っている。という意味で過去の名声や実績にとらわれずに、非常に有能な能力を持ち、かつ、今後に大きなインパクトを与えるアイデアを持っている、また、それを実行するポテンシャルがある人を発掘するということがこのプログラムで求められている。
 また、5年間の時限つきのプログラムでは、新しいそして特別な研究機会がリーダーや研究員に与えられているので、積極的に異分野を取り入れる、新しい価値を取り入れる、そこから新しい価値を生み出すことをプログラムの概念としている。
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(4)「NSFにおけるTransformativeな可能性のある研究に対するファンディング」
Dr. Clifford J. Gabriel, Acting Executive Officer, National Science Foundation (NSF)
 以下は講演の概略である。
 NSFのミッションは、その科学的価値が十分に評価された競争力のある研究提案への補助金や研究協力を通じて現時点における最先端の知識を越えるような科学的な発見や革新、教育を前進させること、また将来の世代、科学、工学に力を与えることにある。2008年のNSFの予算は60億ドルであった。44,000件の研究提案に対応し、248,000件の審査を行い、45,000人がその審査にあたった。そのうち11,000件に対して研究助成が行われた。
 トランスフォーマティブ研究をサポートするNSFの取り組みには3つの柱がある。@潜在的なトランスフォーマティブ研究を促進するための方法を学習すること、A潜在的なトランスフォーマティブ研究の提案を提出できる機会へとコミュニティをリードすること、B潜在的なトランスフォーマティブ研究へのサポートを充実させることである。
 @について米国科学審議会(NSB)の2007年の報告書で「NSFはトランスフォーマティブ研究をサポートしていない」という認識が外部にかなり多いということを指摘された。この報告書を受けたNSFは独自に調査を行った結果、NSFにはコアプログラムや特別な募集活動を通じて潜在的にトランスフォーマティブ研究をサポートしてきた長い歴史がある。しかし、科学/工学コミュニティとの間の対話に関しては、NSFのプログラムオフィサー(PO)に対する指導に改善の余地があることも分かった。
 AについてNSFの長官はNSFがサポートするすべての機関に対し、より多くの潜在的にトランスフォーマティブな研究を支援したいという旨の通知をしている。特に潜在的なトランスフォーマティブ研究に関連したPOへの教育も既に確立している。さらに、我々の側から積極的に働きかける活動も行っている。我々は「NSFデー」という活動を行っているが、ここではNSFの研究担当上級職員がコミュニティや大学を訪問し、潜在的なトランスフォーマティブ研究をサポートする様々なプログラムやあらゆる種類の問題について説明を行っている。
 Bについては潜在的なトランスフォーマティブ研究や学際的な研究をサポートする担当部署の中に新しい部門が設立されている。今後の助成の充実ということに関しては、NSFでは2010年にそのような研究をサポートするための助成金を9,200万ドル追加することを計画している。
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(5)「NIHでのTransformative Researchファンディングのプログラム設計とマネジメント」
Dr. Richard S. Fisher, Associate Director for Science Policy and Legislation, Director, Office of Program Planning and Analysis, NIH Roadmap Nanomedicine Initiative, National Eye Institute, National Institute of Health (NIH)
 以下は講演の概略である。
 NIHにはそれぞれ個別のミッションを持つ27の研究所やセンターがあり、これら各研究所は研究活動への資金提供についてそれぞれ独自のアプローチを持っている。各研究所は大きく分けて所内活動部門と所外活動部門の2つの部門を持っている。所外活動部門は外国や国内の大学からの補助金申請に対して資金提供を行う。所内活動部門は、ワシントン郊外のベセスダにあるNIHの構内において実験室での研究や臨床研究を行う科学者のグループである。ここで、NIHの資金の85%が所外活動部門の研資金提供に使用され、所内活動部門の研究には10%が使われている。
 NIHの各研究所は、以下に示す3つの判断基準に基づいて資金提供を行っている。@科学的価値が卓越したものか、A各研究所のミッションに合っているか、Bその年の予算内で資金を提供できるか、という3点である。さらに、各研究所は多くのプログラムオフィサー(PO)をかかえていて、POが審査委員会の点数は低いがトランスファーマティブな研究提案と認められる補助金申請に出会った場合、そのPOはプログラム上の妥当性を指摘した上で、その申請に対し補助金提供を行うことも可能である。また、各研究所に共通する潜在的にトランスフォーマティブな研究の補助金申請に対して資金提供を行う権限が長官事務局に与えられている。
 科学コミュニティからの要請で開始したナノ医療の特別プログラムは、審査もプロセスも異なっており我々は特別な審査委員会を設け、これにはNIHのPOも含めた。このプログラムでは予備実験データは必須ではなく、その代わり研究者の熱意が不可欠である。この採点は通常のNIH方式とは異なり、申請案件の選定には審査委員会とPOが全面的に責任を持つことになる。また、その申請が助成金を受けた後も、モデルシステムや研究の方向を変更することのできる自由度がより広く認められている。その他にもトランスフォーマティブな研究を促進するためのプログラムを立ち上げている。
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(6) 「DARPAにおけるTransformative Researchファンディングのプログラム設計とマネジメント」
Mr. Richard McCormick, Special Assistant to the DARPA Director, Defense Advanced Research Project Agency (DARPA)
 以下は講演の概略である。
 DARPAのミッションは、国家安全保障のための抜本的な革新であり、防衛能力および国防政策に大変革をもたらす可能性のあるプロジェクトへの資金提供を行っている。
 DARPAの事業戦略について、連邦政府の資金による研究活動、構成員は産業界や大学、開発センター、国立研究所から集められており、彼らは科学技術上の目的に沿った情熱的なアイデアを持つ人材としてプロジェクトマネージャーに採用される。DARPAのビジネスモデルは、それまでに本格的な仕事を持ったことのない人々を採用することを基本としており、DARPAがそのアイデアを気に入り、有用性を認め、プロジェクトマネージャーとする。DARPAはリスクの高い技術上のアイデアを追求することを奨励している。DARPAは非常にフラットな組織であり、高い能力を持つ技術担当者による正当な審査を経て、DARPA長官による意志決定が極めて迅速に行われる。DARPAでは、科学コミュニティで行われているようなピアレビューは行わない。我々の組織体制は時と共に変化する。我々は施設や研究室、装置等は持たず、人材のみを有しており、革新的な研究開発に重点をおいている。
 プロジェクトマネージャーには、職場の上長やその他によるOJTメンターが付けられる。これにより、プロジェクトマネージャーは軌道を逸れず順調に業務を進めることができる。さらに、プロジェクトマネージャーには法務面での支援も行われる。DARPAの経理責任者はプロジェクトマネージャーにお金を正しく管理する方法を指導し、予算管理者は資金の管理方法を教え、契約オフィスは政府との契約に関して指導する。即ち、プロジェクトマネージャーにはすべての管理業務サポートと、必要とするITサポートが提供される。
 プロジェクトマネージャーの任期は4〜6年間で、終身的な職位ではない。組織が正しく機能し、その成果が拡大するよう、素晴らしいアイデアと強い動機を持つプログラムマネージャーが参加する仕組みを常に維持している。
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(7)「閉会挨拶」
宮田 清藏 新エネルギー・産業技術総合研究開発機構
シニアプログラムマネージャー
 以下は挨拶の概略である。
 活発な討議をいただきありがとうございました。また、本日、ご講演いただきました方々ありがとうございました。大変、有意義な時間が過ごせました。
 現在、エネルギー問題、地球温暖化問題、医療問題等、グローバルに様々な問題がたくさんある。その解決にはイノベーションが必ず必要になるが、ファンディングエージェンシーはややもするとTransformative ResearchよりもPromise Of Researchにファンディングしがちである。リスキーな研究を正しく評価してファンディングできるかは永遠の問題だと思っている。
 私は提案者の現地に赴き、面接して決定するのが良いのではないかと思っている。白金代替材料のプログラムを立ち上げた際、その中の提案にこれまでの理論から考えられないのでピアレビューから排除されたものがあった。私は実際に先生と会い、コンタミネーション等ではないと確信を得てファンディングを行った。現状、性能も白金触媒に迫っており、自動車排ガス触媒においてはコストがこれまでの数十分の1になるのではないかと自動車メーカーがエキサイティングしている。これは、提案が論理的に駄目だと言われたものを拾って、新しいことに繋がった例である。まだ、いろんな種が隠れている可能性があり、Transformative Researchは重要である。
 日米、その他海外のファンディングエージェンシーと協力して、いい研究を見つけ、開発し、困難な地球環境問題その他の問題を解決できるようにがんばりたい。
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