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- [領域活動紹介] 環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出/
- 貧しい栄養環境でも逞しく育つ作物を生み出す
(紹介動画)
柳澤 修一(東京大学 生物生産工学研究センター 教授)
イネ、シロイヌナズナ、窒素飢餓、リン飢餓、栄養シグナル伝達、栄養応答ネットワーク、遺伝子発現、転写因子
植物は無機物を植物栄養として吸収し、必要な有機物を合成して成長しています。特に重要な栄養素は窒素栄養(主に硝酸イオン)とリン栄養(リン酸イオン)であり、これらが不足すると多くの自然環境で植物の成長が制限されます。窒素栄養やリン栄養の量と植物成長量・作物生産高の間には高い相関関係が認められ、農業では無機窒素化合物とリン酸塩を主成分とした肥料の使用によって高い作物生産を達成しています。しかし、一方で大量の肥料の使用は高い環境負荷を引き起こすことが問題になっています。本研究では、植物が多様な栄養環境に適応して成長できることと、同じ栄養環境で同じ植物種を栽培しても系統あるいは品種によって成長量が大きく異なることに着目して、植物が多様な栄養環境に頑健に適応して栄養素を確保している仕組みと窒素栄養とリン栄養の獲得向上をもたらす遺伝的要素を明らかにしました。
硝酸イオンは窒素栄養であるだけでなくシグナル伝達物質としても働き、窒素栄養獲得を調節しています。遺伝子の発現調節を行うタンパク質(転写因子)の一種であるNLP転写因子が硝酸イオンに直接結合し、さらにリン酸化されることで活性化型となって外界からの硝酸イオン吸収を担うタンパク質(硝酸輸送体)遺伝子の発現を促進していることを明らかにし、窒素獲得を促進する仕組みを解明しました。また、NIGT1転写抑制因子を同定して、NLPとNIGT1が硝酸輸送体遺伝子の発現のアクセルとブレーキとして働き、窒素栄養環境の変化に合わせて窒素獲得を調整していることを明らかにしました。さらに、リン欠乏時にリン酸輸送体遺伝子の発現を促進する転写因子PHR1がNIGT1遺伝子の発現を促し、一方で、NIGT1がPHR1活性を制御することで栄養応答ネットワークが形成され、多様な窒素・リン栄養環境での窒素とリンの獲得バランスを維持していることも分かりました。そして、窒素栄養やリン栄養の獲得能力の品種間差を利用して赤色光に対する応答性の違いがリン栄養獲得に影響を及ぼすことや葉緑体内のリン脂質代謝関連因子の発現量を高めるとリン欠乏時のイネの成長が改善することを明らかにしました。また、イネの品種間差を利用して、窒素欠乏時の成長調節に重要な転写因子を同定し、ゲノム編集技術を用いてこれらに変異を導入すると低窒素環境での生育が改善することを見出しました。本研究によって、農業による環境負荷を低減しつつ食料を安定に確保する道が示されました。