筋骨格構造を持つ人間型上肢ロボットの開発

筋骨格構造を持つ人間型上肢ロボットの開発


図1 人間型6自由度上肢ロボット

一連の二足ロボットの開発により,人間型の関節と,複雑な筋肉機構のロボットを設計する技術が獲得されたため,これを利用して人間の認知機能とマニピュレーション機能との関係を探ることを目的として,人間の構造によく似た構造を持つ上肢ヒューマノイドを開発した(図1参照). このヒューマノイドは,肩関節3自由度相当,ひじ関節+手首関節3自由度相当の計6自由度を持ち,手先の位置・姿勢を制御することが可能である.特に,ひじから先の部分では,1-2-3で述べた開放型関節を利用し,橈骨と尺骨からなる人間の前腕の構造を忠実に再現し, 人間のような前腕の回内・回外運動を実現可能にしている.このロボットアームを用いて,弾道学的なオープンループ制御によってすばやく柔らかい動きが実現されることを実験的に示した.

一方で,単純化した上肢ヒューマノイドによって対象を把持し,周期的にこれを振ることによって物体のカテゴリ化をする研究を進めた.このような行動はダイナミックタッチと呼ばれ,乳幼児の発達段階によく観察される.ロボットの場合にも,対象をただ見るのではなく,動的に操作することによって物体の動特性に関する情報を得られることを示した. その成果は[takamuku2008]によって公表されている.

当初,用いられていた単純化された上肢ロボットは,一つの関節のみで構成され,また装備されていたセンサの数も少なかったために,認識能力が低いことが問題であった.] そこで,ダイナミックタッチによる人間と同等あるいはそれ以上の能力を実現をすること目指し,腕部7自由度に加え,空気圧人工筋によって駆動される手部を備えた人間型上肢ロボットを開発した(図2). 腕部を構成する人工筋の一部には,その内部圧力を測定するための圧力センサと,膨張の度合を測定するひずみセンサが取りつけられ,それぞれが筋感覚(自己受容感覚)として,ダイナミックタッチに用いられる. また,腕部先端に取り付けられたハンドは,10関節を持ち,ワイヤを用いた劣駆動機構を利用することによって,対象の形になじみ,適応的に把持することができる.ハンドのそれぞれの指の先端には,接触を測定するためのひずみゲージが取りつけられている.


図2 手部を備えた人間型上肢ロボット

この人間型上肢ロボットを用いて,対象物を振り,内容を識別する実験を行った.水,油,粉(小麦粉),砂,石の6種類を,100g,125g,150g入れた18本のボトルを用意し,これを把持したのち,垂直方向,あるいは水平方向のいずれかに,1Hz,1.25Hzの周期で振り,全てのセンサからの識別できるかを調べた. 結果の一部を(図3)に示す.全てのセンサ信号の主成分解析を行った第一要素と第二要素についてプロットした.対象の重量を識別するには,縦振り1Hzの第一要素,内容物を識別するには横振り1Hzの第二要素に着目するなど,識別する対象によって,振り方や周波数を変えることが有効であることが示された [関本2010]


(a)重量の識別


(b)内容物の識別

図3 ダイナミックタッチによる対象の識別実験結果