目的

目的

21世紀は,「脳の世紀」と言われ,かたや「ヒトと共生するロボットの時代」とも言われ,両者は,ヒトの知能創発過程の理解 と構築とい う関連する課題を持ちつつも,その結びつきは現状では薄い.近年の脳科学,神経科学は,非侵襲の計測装置などの最先端テクノロジーを武器として,これまで 科学の対象で無かった,認知・意識・心などの問題に迫りつつあるが,現状の手段だけでは,認知・発達能力の典型である,身体性に基づくコミュニケーション と言語獲得能力の研究の進展が困難である.脳をトータルなシステムとみなし,その動的な性質に基づいて他の個体を含む外界と相互作用することにより,いか にして脳の機能を実現するかを原理的に明らかにすることが,21世紀の生命科学に課せられた重要な課題である.一方,日本が世界をリードしている人間型ロ ボットであるヒューマノイドは,現在,急速にその技術が発展しているものの,表層的な機能実現に終始しており,身体に基づく知能創発の設計論が確立してい ない.表層的な機能の実現のための工学だけではなく,脳科学,神経科学,認知科学などの分野との連携により,その裏にある深層構造を明らかにし,それらの 設計・製作・作動を通じた統合的な理解と実現である工学と科学の融合が必須である.両分野が有機的に結びつけば,ロボット技術を駆使した検証手段を用いる ことで日本独自の脳科学の進展が望める.また,従来の哲学,心理学,社会学,認知科学,言語学,人類学などでは,計算論的な理解が困難であった「意識」や 「心」の課題にも構成論的に取り組むことが可能である.更に,これらの検証手段に耐えうる人工物を設計することは,現状のロボットセンサーやアクチュエー タなどのマテリアルや従来の人工知能/制御技術に革新を迫る.

本研究では,このような基本思想に立脚し,現状のヒューマノイド研究に欠け ている知能の設計をヒトを含めた動的環境内での相互作用(環 境とロボットやヒトとロボット)の中から導く.すなわち,人間型ロボットであるヒューマノイドの新たな設計・製作・作動と認知科学や脳科学の手法を用いた 構成モデルの検証による科学と技術の融合によって,人間知能の新たな理解と構成を実現する.この新領域を「共創知能」と名づける.「共創知能」の意味は, 科学と技術の共創という考えに加え,システムが身体をもって環境とともに知能を共創するという意味を持ち,4つの側面からアプローチする.人工筋肉による 動的な動きの生成は,身体が環境と共創することであり,「身体的共創知能」と呼ぶ.胎児が身体感覚や運動を創発する過程は,母胎という環境内での共創のモ デル化であり,誕生後,養育者とのさまざまな相互作用から,認知能力を発達させる過程では,養育者という他者が最も重要な環境要因で,その構成論的モデル は,「対人的共創知能」と呼ばれる.さらに,多数のヒトやロボット間におけるコミュニケーションの創発過程では,複数のエージェントという環境がどのよう に作用するかがポイントとなり,「社会的共創知能」がその核となる.これらの過程を,言語や認知能力に関して特異的な様相を示す自閉症やウィリアムズ症候 群との対比により,検証したり,新たな構成モデルの構築を促すのが「共創知能機構」である.グループ内でも融合的研究を促進すると同時に,ヒューマノイド による共創知能システムの実現に向けて,グループ間の密な連携が必須となる戦略を展開する.

Synergistic Intelligence schema

本研究で推進する「共創知能」の考え方により,構成的モデルの重要さが認識され,ミクロスコピックに偏りがちであった従来の脳科学,生理学の研究に,より マクロスコピックな見方が導入され,脳にかかわる様々な分野の発展につながるものと期待される.さらに高度な社会的営みをする人間の理解,子供の心理的発 達や教育に関わる様々な問題の解決にもつながると期待される