エレファンテック株式会社 受賞者インタビュー

大学発ベンチャー表彰2023 経済産業大臣賞

環境負荷を大幅に削減した金属インクジェット印刷に強み

大学などの研究成果を活用して起業したベンチャーのうち、今後の活躍が期待される優れた大学や企業などを表彰する「大学発ベンチャー表彰2023」の経済産業大臣賞は、東京大学発スタートアップのエレファンテック株式会社(東京都中央区)に決まった。

図 1_P-Flex🄬 標準サンプル

大幅な工程削減と省資源化 独自製法で環境負荷削減・コスト削減

エレファンテックを率いるのは、代表取締役社長の清水信哉氏。清水社長は、東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻修士課程修了後、2012年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、主に国内メーカーのコンサルティングに従事し、2014年1月、エレファンテック (旧 AgIC)を創業し代表取締役社長就任した。 電子機器などの回路形成や配線などを担うプリント基板のうち、曲がるタイプの「フレキシブル基板」の製造で独自技術を持つ。具体的には、粒径(りゅうけい)が小さく均一な金属ナノ粒子の状態によって金属をインク状態にし、インクジェットで基材に印刷した後、無電解銅めっきで金属を成長させて回路を作る。 回路を作る一般的な、エッチング/サブトラクティブ法と呼ばれる製法は、①PI(ポリイミド)基材の上に、②銅箔を形成し、③レジストと呼ばれる耐久性のある物質を塗布し、 ④露光、⑤現像(レジストの除去)、⑥銅箔除去(エッチング)、⑦レジスト除去(エッチング)をする。 一方、エレファンテックの「エレファンテック製法/ピュアアディティブ®法」は、①P I(ポリイミド)基材の上に、②銅ナノインクをインクジェット印刷、③無電解銅めっきで銅を成長させて配線回路を形成することで、4工程を省略した。また既存製法の、⑥現像(レジストの除去)、⑦銅箔除去(エッチング)、⑧レジスト除去(エッチング)では、大量のレジストと銅箔や廃液を廃棄するため環境負荷が大きかったが、エレファンテック製法/ピュアアディティブ®法では、必要な部分にのみ金属を印刷することで大幅な省資源化を実現させた。

図 2_製法の比較

すでに、三井化学株式会社の名古屋工場(名古屋市南区)に独自製法のエレファンテック製法/ピュアアディティブ®法で生産するフレキシブル電子回路基板 P-Flex®(ピーフレックス)の量産工場を整備し、最大で月 5,000 m² を生産できる体制を整備した。 石川県白山市に本社を置くディスプレイ装置メーカーのEIZO(エイゾー)株式会社は、 P-Flex®を採用したことで、「ウルトラ曲面モニター」の湾曲状態に沿った操作スイッチを前 面に配置することが可能となり洗練されたディスプレイ装置のデザインを維持させている。東京都練馬区に本社を置く工業用計測器のメーカーの株式会社フクダは、高精度圧力セン サーモジュールに採用したことで、従来品に比べシステムを構成する領域のフットプリン トを30%以上低減、複数のケーブルも一つの P-Flex®にとめることで、総部品点数を減ら し組み立て作業工数を短縮させた。

写真 1_代表取締役社長の清水信哉氏

桁違いの省資源化に注目が集まる

2023年に入り4月には、エレファンテックの「印刷による低環境負荷の回路基板製造技術の大規模量産技術開発」が、環境省の令和5年度「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択され、令和5年度から令和7年度を対象に最大7億5000万円の補助金が交付される。同事業は、将来的な地球温暖化対策の強化につながるCO2排出削減効果の高い技術の開発や実証を進め、CO2排出量の大幅な削減を実現貢献する技術開発に対し採択するもので、エレファンテックの技術は、金属材料を70%削減し、CO2排出量を75%削減する低環境負荷の回路基板量産体制の構築にさらに弾みをつける。 このほか5月には、約9億円の第三者割当増資を実施し、増資、借入、補助金を含め、累計資金調達額は約90億円となった。 金属インクジェット印刷による新たな電子回路製造方法を確立し、すでに量産体制を実現し多くの企業が採用。また環境負荷の少ない技術は、社会的な問題に対して持続可能な解決策を提供することで、今後のさらなる成長と活躍が期待できそうだ。


2023 年 8 月
企画構成/取材 山口泰博
スタートアップ・技術移転推進部 産学連携プロモーショングループ