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「独創的シーズ展開事業 独創モデル化」
追跡評価報告書

平成20年9月
独立行政法人科学技術振興機構

I 追跡評価の概要

1.追跡評価の目的

 本報告書は、独立行政法人科学技術振興機構が実施する独創的シーズ展開事業(独創モデル化)の追跡評価結果を報告するものである。
 追跡評価は、研究開発終了後一定期間が経過した後の研究成果の発展・活用状況及び科学技術的、社会的、経済的波及効果を明らかにすることで事業及び事業運営等に資することを目的とする。

2.対象課題

 追跡評価の対象課題は、平成9年度〜15年度における実施課題768課題とした(対象課題(概要)については事業ホームページの実施課題・成果概要一覧(URL:http://www.jst.go.jp/tt/dokusou/index.html)を参照)。

3.評価者

 評価者は、「独創的シーズ展開事業及び革新技術開発研究事業追跡評価委員会」の評価委員4名。
委員長 鳥井 弘之(前 東京工業大学 原子炉工学研究所 教授)
委員 奥和田 久美
(文部科学省 科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター センター長)
委員 木村 良晴(京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 教授)
委員 浜中 順一(株式会社IHI 顧問)

4.評価方法

4.1 追跡調査
 本事業は、大学等公的研究機関で得られた基礎的研究成果を技術移転するために、当該基礎的研究成果の企業化を望む中堅・中小企業に対して企業化の第一歩としての試作について、資金を1年間のみ投入しその後の企業化開発にはずみをつけるという事業である。
 従って、研究開発段階としては比較的アーリーフェーズの1年間を対象としてきたため、試作(モデル化)終了後、その後の企業化開発の進捗状況や、モデル化経験がその後どのように波及したかの現状を把握し、以て公的資金が有効に使われたかどうかを判断する必要がある。このような主旨に沿って追跡調査を平成11年度よりスタートした。なお、追跡調査する時期として明確な指針はなかったが、資金余力のあまりない中小企業の研究開発であるため、モデル化終了後の年月が経ち過ぎた時点で追跡調査を行った場合、研究開発を中止しているケースが多いことが想定された事、モデル化期間内で得られた研究設備等の物品を、モデル化終了後の企業化開発で使用するという目的で企業へ貸し出しを行っていたが、当該物品の減価償却期間が4年であり、その後企業側に対して物品買取り等の意思確認調査を行わなければならなかった事などの事情を考慮して、追跡調査の時期としてモデル化終了後3〜4年目を目安として行った。
 なお、本年度(H20年度)追跡評価を受けるにあたって、上記モデル化終了後3〜4年目の追跡調査の他に、事業がスタートした平成9年度からの全課題の現状をアンケート調査や訪問調査により改めて調査した。

4.2 追跡評価
 上記の追跡調査結果をもとに、各評価委員が以下の視点で評価シートを記入した。第2回追跡評価委員会(平成20年9月1日)において意見交換を行った後、評価結果を取りまとめ、追跡評価報告書とした。
・研究成果の発展状況や活用状況に関する評価
・研究成果から生み出された科学技術的、社会的及び経済的波及効果
・本事業に対する総合評価

II.評価結果

 追跡評価委員会による評価結果は以下の通り。

5.研究成果の発展状況や活用状況

 第一に本事業が大学等公的研究機関における研究成果の技術移転に重点が置かれていたのか、中小企業支援に重点が置かれていたのか、政策目的が当初の段階では曖昧であったと思われるが、研究機関との連携や技術蓄積、人材育成などに大きな効果があり、また、それ以外にも非常に多様な効果があったという点は重視すべきで、中小企業の技術力を活性化することに役立ったと言えよう。本制度は大学等公的研究機関の研究成果を中小企業に技術移転するための試作を行い、その後の企業化開発を促進することが目的であるため、試作の成否をもって本制度の成否を判断しがちになるが、試作を通じて大学等との連携を図ることができ、大学等との連携を通じて中小企業の技術開発を活性化できたことは、当初の想定とは別の大きな本事業のアウトカム(効果・効用)として評価すべきところであり、この視点は重要である。さらに外部の金融機関や同業者などからの評価が上がったとする企業が比較的多く、その点は当機構のような公的セクターが中小企業の技術開発活動を評価し支援するメリットの一つであろう。
 モデル化終了後の実用化に向けた取組については、7年後の時点で取組を継続している企業が40%以上あるということは極めて高い比率と考えることができ、通常、企業内で行なわれる研究開発の進行状況に比しても遜色なく、投資効率として必ずしも悪くないと言えるだろう。外部の協力研究先の存在やグラントが入ったことにより「なんとかモノにしたい」という力が加わった結果であろうと思われる。また、モデル化終了後も技術改善に努力しているところが多く、申請段階、採択時に開発ターゲットと企業化のプログラムの良し悪しについて、ある程度の判断ができており、事業の効果もかなり高いレベルにあると考えられる。
 事業の改善状況については、新規性などを追求した当初の方針を変更したことは妥当であり、改善されたと判断できる。今後の事業では、技術の筋の良し悪しだけでなく、そのグラントの必要度及び政策目的との合致度、といった観点からの採択が行なわれるようになることを望みたい。
 さらに、大学等公的研究機関の研究成果を中小企業に技術移転する際の重点ポイントなどを把握するために統計解析的(多変量解析)手法の導入し定量的な分析を行うなど、700課題を超える多彩な実例情報を有効に活用する手段を検討し、本事業のみならず研究開発制度の設計に役立てられるように情報を分析・整理することを推奨する。

6.研究成果から生み出された科学技術的、社会的、経済的波及効果


 これまでの研究開発資金投資額に対して経済的波及効果が認められ、その効果については本事業の規模に見合ったものであると判断される。一方で、科学技術的波及効果や社会的波及効果については二次的なものであり、中小企業対象の本制度においては、評価項目として必須なものではないと考える。日本経済の競争力向上のためには、中小企業の技術力向上・競争力向上が必須であり、本事業の貢献は大であったといえる。
 社会的波及効果については、中小企業の事業は規模が小さいものが多いところから、結果として典型的な社会的波及効果はみられなかった。しかしながら、社会的波及効果の判断は通常時間がかかるものであり、もう少し時間をかけて見極める必要がある。なお、本事業は、技術育成だけでなく技術者の育成、さらには真の産学連携の促進に多大な貢献をしており、これを科学技術的効果と考えるか、社会的効果と考えるかについては両論あったが、このような効果が得られたことを強調しておきたい。
 研究開発のリニアモデル(シーズからニーズへの一方向の進展)はすでに過去のものであり、シーズ提供者(大学等)へのフィードバックは、今後の科学技術の発展上大きな意味をもち、科学技術的効果と見なすことが可能である。追跡調査からa)研究開発の結果新たな技術的課題が浮上(発生)し、新たな研究テーマとしてシーズ提供者にフィードバックがかかったケースやb)研究開発の成果の応用を検討する過程で新たな研究テーマが触発されるという形で具体的な実例が見られたことから、今後は、このようなケースが両方ともに増加していくようなスタイルが望ましい。

7.総合評価

7.1 総論
 本事業が技術開発のプログラムなのか技術開発を終了してからの試作の為のプログラムなのか政策目的が当初の段階で十分に検討されたと思いがたく、課題選定、中間評価の視点、目標の設定などが政策目的と合致していなかったのではないかと考えられる。例えばライフサイエンス系の課題も本事業においては「試作」という一語で取り込んでおり、ライフサイエンス系については「試作」とはどのような意味を持つのか、どのような研究段階であるかなどが不明確である。売上げベースでみた場合の事業成果は認められ、事業の制度的枠組みとしては結果として概ね適切であったといえるが、本事業の成果のあり方を当初からより多く議論すべき余地はあったと思われる。なおこれらのことを踏まえ、十分な基礎的研究成果が得られてからの課題を本事業において採択する方向に課題審査方針が途中で見直されたのは妥当である。
 資金規模としては概ね妥当であったと判断できるが、モデル化実施の期間については、被支援者より「短すぎる」「適当であった」という2つの意見があった。技術開発であれば短すぎることになるし、単なる試作であれば適当となると考えられるので、一概には言えないところがある。しかしながら本事業のそもそもの基本趣旨が「試作を行うこと」にあったことを考えると、この点が応募者に周知徹底されていたかどうかには疑問が残るところである。
 公的機関が関与する必要性については、中小企業の競争基盤を底上げする意味では国の関与(投資)は必要であるが、一方で機構の年度予算運用における制約や事務処理ルールなどについては、企業の負担にならないよう可能な範囲で柔軟な運用が望まれる。
 総合的な結論としては、中小企業を主対象とする本事業のようなグラントは、国の事業としては、大企業対象よりも本来的に価値が高いものであろう。技術分野の融合・複合化の促進、産学連携の推進、大学のシーズ技術を実用化させる原動力としてこの事業は大きな成果をあげていると考える。加えて中小企業からの本事業に対する評価も大きく、採択審査のノウハウも確立しつつある中、プログラムの目的、事業のあり方、課題審査の方法、課題実施企業とのコミュニケーションなどについて再度見直した上で、継続性のある事業として本事業をより良く充実させていく必要があると考える。

7.2 事業改善に向けた提案
 事業の運営面では、まず採択対象企業との対話が十分であったかどうか。1年間の事業期間終了後の資金獲得方策などについて、他省庁や自治体の支援策やベンチャーキャピタルとの連携を図ればより政策目的を的確に実現できたと考えられる。実際に事業開始時点で実現する目標が明確であった課題は効果的に成果を上げていると思われ、対象企業の目標設定に対してアドバイスを行うなど、より充実したサービスを行う仕組みがあれば効果的であったと思われる。また、中間的な事業判断として、事業のインキュベーションという観点からの改善が行なわれてもよかったかもしれない。例えば、毎年度の新規採択のみでなく、継続や追加投資などを設けるような工夫、あるいは次のステージのグラントへの斡旋などのシステムが設けられていれば、事業化の達成度向上が望めた可能性もある。さらに、本事業では企業が以前から関係のある大学等のシーズでモデル化を実施する場合が多いと思われる。企業がより広い学のシーズにアプローチでき、選択できれば一層効果がイノベイティブになる可能性があるのでこの面の改善を期待したい。


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