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第9回世界科学フォーラム宣言「科学、倫理、そして責任」

(2019年11月23日、ブタペストで採択)

序文

 世界科学フォーラム(WSF)のパートナー機関である、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)、国際学術会議(ISC)、ハンガリー科学アカデミー、米科学振興協会(AAAS)、世界科学アカデミー(TWAS)、アカデミー間研究パートナーシップ(IAP)、および欧州アカデミー科学諮問委員会(EASAC)の奨励と支援を得て、2019年11月20日から23日まで、ブダペストにおいて開催された第9回世界科学フォーラムの参加者である私たちは、ここに本宣言を採択する。

 1999年に開催された世界科学会議(世界科学会議 1999, WSC)から発展した世界科学フォーラムは、2003年から隔年で開催され、科学者、政策立案者、産業界のリーダー、市民代表、メディアが一同に会し、世界規模の課題における科学の役割に関する意見交換を行う有益な場である。

 科学および科学的知識の利用に関する世界科学会議 1999の提言に従い、2011年の「世界の科学の新時代」に関するブダペスト宣言、2013年の「世界の持続可能な開発のための科学」に関するリオデジャネイロ宣言、2015年の「物事を可能にする科学の力」に関するブダペスト宣言、および2017年の「平和のための科学」に関するヨルダン宣言を考慮し、私たちは科学研究を厳格かつ倫理的に行い、責任を持って、科学的知識を利用することを再確認する。

科学、倫理、そして責任 - 世界科学会議 1999から20年

 ブダペストで開催された1999年ユネスコ世界科学会議で、155カ国の政府代表者によって承認された科学と科学的知識の利用に関する宣言は、21世紀の科学と社会の明確なビジョンを示す先駆的な文書であった。科学技術を原動力として社会変革が進んできた人類の新しい時代において、拡大する科学の役割と責任を定義した。

 実際、この20年の間に、社会の重大かつ継続的な変化と結びつき、科学研究のさまざまな分野で革新的変化が起こっている。情報通信技術、合成生物学やゲノム編集、人工知能(AI)、ビッグデータ、機械学習などの分野における新たな科学的発見は、科学技術が私たちの環境や社会に影響を及ぼす速度を一層上げ、その結果、格差を減らすというよりは格差を定着させる可能性もある。

 人口動態、気候変動、公害、水の安全保障を含む環境と社会の課題は、科学に対する新たな期待を高めている。

 世界的に研究開発への投資が大幅に増え、新たな国家や国家以外の主体は既存の世界秩序を作り直し、科学的知識の生産や科学への投資や資金提供の配分に影響を及ぼした。

 新しい通信手段やソーシャルメディアの台頭により変容する私たちの社会において、不信感、不十分な関わり、貧弱な科学リテラシー、一般市民や政策立案者に対する科学コミュニケーションの不足に基づく意見や信念が広がることによって、科学的知識は公の場において異議を唱えられることが増えている。このように世界的な変化が加速している現在、あらゆる社会の若者が科学教育を受けることが特に重要となっている。

 私たちは、1999年の科学と科学的知識の利用に関する世界宣言を想起し、その提言に謳われたメッセージ「21世紀の科学:新たなコミットメント」の重要性を認識する。

 科学研究の目的を定義し、資金を配分し、研究の実施・普及・応用を行うためには、倫理面の考慮に対する責任を共有することが必須であることをしっかりと確認しなければならない。これは特に、新進気鋭の若い科学者やイノベーターへの教育や参画を促す際に適用されるべきである。

 私たちは、科学者による積極的な自制の文化を強化する。

 ISC加盟機関によって採択された「科学における自由と責任の原則」 、ユネスコによって採択された「科学と科学研究者に関する提言」、そしてAAASによる「科学の自由と責任に関する声明」をさらなる検討に向けた参考文書として活用する。

 私たちは、世界科学会議 1999の国際的な科学の対話から20周年を迎え、また地球規模での科学的協力を促進する世界初の民間非営利組織である国際研究会議(IRC)の設立から100周年を迎えたことを祝福する。

 私たちは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を通じて、世界の公共財に科学が責任を有することを確認する。

1. 世界の幸福に貢献する科学(Science for global well-being)

 科学の価値は、経済的繁栄への貢献だけで測れるものではない。科学は、持続可能な開発と世界の幸福に貢献することができる世界の公共財である。

 私たちは、科学者には人類の利益と幸福を追求し、人権を尊重するために、高潔さをもって科学研究を実行し、応用する責任があると認識する。

 私たちは、人間の知識の新たな地平を開き、普遍的な幸福(well-being)を増進し、環境、社会、経済的な課題の監視、分析、対応を行うとともに、科学において立ち遅れている国々に必要な能力に対処する手段として科学の価値を認識するように、科学と資金配分の方針を再評価することを求める。

 私たちは、緊急性の高い社会経済や環境への期待に具体的に応えるものではないかもしれない研究についても、それを計画し、実施する科学者の自由を尊重する。好奇心が原動力となれば、優れた科学は自由に羽ばたくに違いない。

2. 研究の高潔さにおける世界標準の強化(Strengthen global standards in research integrity)

 グローバル化が進む科学の世界では、共通の行動規範とその実施を含む、研究の高潔さの基準を国際的に調和させ、推進する必要性が高まっている。これは特に、急速に発展している国を越えた主体による科学および研究の分野に適用される必要がある。

 私たちは、国境および公的研究や民間研究などの垣根を越えて、科学研究の行動規範を調和させ、実施することを求める。

 私たちは、価値ある研究とは、知的な価値とその波及効果だけではなく、倫理的かつ包摂的で、社会的責任を備えたものでなければならないことを認識する。

 私たちは、科学者が報復を恐れることなく不正行為や無責任な研究行為を報告することができる自己規律的な手順の確立、およびこうした申し立てに対応するための手続きの確立を求める。

 私たちは、研究の高潔さの世界標準を促進するための地域や国家による取り組みを支持する。特に、世界科学フォーラム 2017で提唱された、アラブ地域における科学技術倫理憲章を高く評価する。

3. 学問の自由と科学に対する人権の確立(Fulfilment of academic freedom and the human right to science)

 学問の自由の原則は世界の科学組織によって支持され、推進されているものの、それを実現する条件に関する一致した見解はほぼ存在しない。科学の研究基盤、研究資金、トップダウン型の政策アジェンダへの依存度が高まっている時代であるからこそ、学問の自由という概念に立ち戻る必要がある。

 学問の自由は、研究プロセスのあらゆる段階で守られなければならない。学問の自由には、研究者と研究機関の自律性、査読を受けた科学的知識やデータにシステム上の障壁なくアクセスできる体制、研究基盤と資金が利用可能であること、社会科学を含む科学のすべての分野においてボトムアップ方式の研究課題を設定できる自由、研究結果を公表する自由が含まれる。

 私たちは、厳格な倫理原則に基づいたものでなければ、科学の自由が社会から尊重されないことを認識する。

 私たちは、国際的な科学コミュニティに対し、学問の自由を実現するための新たな基準を策定し、必須条件を文書化し、監視し、評価を行うための方法を作り出すことを求める。

 私たちは、好奇心を原動力とする基礎科学の本質的な重要さを認識する。

 私たちは、ユネスコが2022年を開発のための基礎科学の国際年に指定したことを歓迎する。私たちは、難民や社会的に疎外された科学者の権利を支持することを再確認する。

 私たちは、持続可能かつ繁栄する社会と永続的な平和に不可欠な要素として、女性や少数派など、科学において過小評価され、十分な配慮がされていない人々を含めたすべての人の科学に対する権利を促進するための取り組みを強化する。

4. 科学コミュニケーションの責任と倫理(The responsibility and ethics of communicating science)

 科学的発見の速度は向上したが、科学に関する情報や研究のメリットを伝える際の障壁は残っている。科学情報の複雑化と量の増加により、データ検証と研究普及の新しい方法が求められている。人工知能の応用が科学研究やデータの管理において新たな道を開いているが、他方で個人データのプライバシー管理と利用に関する懸念も高まっている。こうした展開は、知識へのアクセスに関する状況を大きく変え、新たな論文公表モデルや新たなコミュニーション戦略の採用への移行における課題を浮き彫りにしている。

 私たちは、世界の公共財としての科学への取り組みを強化し、科学出版物へのアクセスを可能とするオープンサイエンスや新たな論文公表モデルを支援する。

 私たちは、科学者が、一般市民と科学に関して対話することの重要性を認識する。そしてこの対話では、研究の実施や応用に伴うリスクや研究に関する異なる解釈を許容すること等も含まれる。

 私たちは、シチズンサイエンスを育て、活用可能な知識を共に創り出すよう、科学者に働きかける。

 私たちは、証拠を考慮した意思決定を行い、科学・政策・実践の連携を強化する必要性を認識する。従って、科学者が自らの研究について、意思決定者や一般市民と対話するための訓練を受ける必要性があることを認識する。

 私たちは、科学コミュニケーションにおけるメディアの強力な役割を認め、報道において厳格な事実確認と分析を求める。特に、相互に矛盾する、あるいは誤解を招くニュースや情報、および誤った衡平性といったものが見受けられることに鑑みて、科学とメディアの関係性を再評価することを求める。私たちは、科学者が科学の研究を行い、応用し、対話するとともに、便益と倫理的配慮の両方についての意識を高めるよう奨励する。

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