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資料4

開発課題名「全原子を測定対象とする次世代型NMR装置の開発」

最先端研究基盤領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成26年12月〜平成30年3月

チームリーダー :  山田 和彦【高知大学 総合科学系複合領域科学部門 准教授】
中核機関 :  高知大学
参画機関 :  京都大学、東京大学、理化学研究所、山形大学、早稲田大学
T.開発の概要
 既存の核磁気共鳴(NMR)装置では、四極子相互作用や核−電子スピン相互作用に起因する線幅や感度不足が問題となり、測定可能な核種が限定されている。そこで、本開発では、元素周期律表上の全ての原子を測定対象とする次世代型NMR装置を開発する。磁場掃引型NMR装置に最先端の超高感度化技術であるオプトメカニクスと高温超伝導コイルを組み合わせた新規測定手法を導入し、世界標準の次世代型NMR装置として、我が国発の新しい分析機器のコンセプトを確立する。
U.開発項目
(1)オプトメカニクスを利用したNMR信号の高感度検出技術の確立
 ハイブリッド量子技術の1つである共振器オプトメカニクスの原理を応用し、プロトンのNMR信号を光信号に変換して検出することに初めて成功した。通常の検出法に比べて2.56倍の信号強度向上を実現した。ノイズ温度は2.7 Kと見積もられ、目標を達成した。
(2)HTSコイルを利用したNMR信号の高感度検出技術の確立
 高温超伝導(HTS)コイルの開発でQ値16,125を達成し、固体NMRプローブでの最高値を実現した。従来の室温での銅コイルを用いた場合に比べて、11.3倍の感度向上を達成し、いずれも目標を達成した。
(3)高感度化磁場掃引型NMR測定法の確立
 (1)のオプトメカニクス技術と(2)のHTSコイルを統合した実験を行い、4.2 Kに冷却したHTSコイルにより38倍の感度向上を確認した。オプトメカニクスによる2.56倍を加味すると、従来装置と比べて換算値で90倍の感度向上と見積もられる。また本システムのノイズ温度は6.9 Kであり、いずれも目標を達成した。  磁場掃引型NMRの実材料への応用については、従来の静磁場NMRでは測定がほぼ不可能な核種として79/81Brの観測に成功し、従来のNMR装置では観測することが不可能であった全ての核スピン相互作用の解析を行える可能性を示した。
V.評 価
 本課題は、NMRの新たな可能性を切り拓くことを目的として、オプトメカニクス技術を用いた高感度検出技術、HTSコイルを用いた高感度プローブ、磁場掃引によるNMRシステムの各要素技術を開発し、統合を図るものである。
 要素技術としての開発目標は達成し、独自のアイデアに基づき新しい分析機器のコンセプトを確立できたことは評価できる。一方で、NMRのターゲットとしては、これまで測定ができておらず、かつよりインパクトの高いターゲット元素を測定すべきである。
 今後の機器開発においては、新しい元素測定のニーズを把握したうえで、本技術が活用できる応用に向けた戦略を明確にして進めるべきである。そのためには装置メーカーとの連携も必要であろう。
 本開発は、当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する。 [A]