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資料4

開発課題名「高感度かつ高精度な転写産物の検出技術の開発」

最先端研究基盤領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成26年12月〜平成30年3月

チームリーダー :  保川 清【京都大学 大学院農学研究科食品生物科学専攻 教授】
サブリーダー :  林 司【株式会社カイノス 開発本部 取締役 開発本部長】
中核機関 :  京都大学
参画機関 :  株式会社カイノス、関西学院大学、大阪府立母子保健総合医療センター
T.開発の概要
 現在のcDNA合成にはレトロウイルス由来の逆転写酵素が用いられているが、鋳型RNAがつくる二次構造および酵素自身の不安定性により、感度と正確性においてDNA合成酵素に及ばない。本課題では、独自開発の「耐熱型逆転写酵素」、「逆転写活性を有する耐熱型DNAポリメラーゼ」、「耐熱性RNA・DNAヘリカーゼ」を用いて、1〜数分子の標的RNAから正確な配列をもつcDNAを確実に合成する技術を開発する。さらに、本技術をマイクロアレイに適用し、転写産物の高感度かつ高精度な検出を実現する。
U.開発項目
(1)3酵素の生産・保存体制の確立
 3種類の酵素について2年間継続生産し、毎回2.0〜5.6 mgの安定的な生産法を確立した。また、これらの酵素の活性測定系を構築し、酵素ユニット測定プロトコルを確立した。
(2)cDNA合成技術の感度評価
 3酵素系逆転写反応の最適条件を探索した結果、バッファー1 μL中の3分子のRNAから、また、臨床検体由来の試料1μL中の30分子のRNAから、cDNAを合成でき、目標を達成した。また、MMVチップを用いた移送式マイクロアレイによる感度評価も行い、0.5 μL中の3分子の標的RNAを検出し、目標を達成した。
(3)cDNA合成技術の正確性評価
 当初、DNAポリメラーゼのエラー率を参考に目標を設定したが、その値はRNAの長さを考慮するとオーバースペックであった。開発途中で次世代シーケンサーを用いたエラー率測定法を確立して正確性を評価した。しかしその結果は、転写酵素の正確性と同等以上という評価にとどまった。
V.評 価
 本課題は、RNAの2次構造の影響を回避するため耐熱性逆転写酵素と耐熱性ヘリカーゼを併用する酵素系を開発し、標的RNA数分子からcDNAを確実に合成する技術を開発するものである。
 独自に開発した3酵素系により、少量の標的RNAよりcDNAを合成する技術開発に成功した。また、耐熱性ヘリカーゼを併用することにより様々な核酸合成技術の感度を向上させることを見いだし、核酸関連技術の向上に寄与できる成果である。
 今後は、ナノポアシーケンサーなどの競合技術の進歩を念頭に置きながら、例えば血清中のRNA検出技術としての活用を考えるなど、本技術を有効に活用できる新たな用途開発も検討することを期待する。
 本開発は、当初の目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する。[A]