チームリーダー : |
大野 雅史【東京大学 大学院工学系研究科 特任助教】 |
中核機関 : |
東京大学 |
- T.開発の概要
- 高エネルギーX線領域での高エネルギー分解能エネルギー分散型分光技術は重元素の分析に有効な可能性を秘めた技術である。本開発では、核物質計量管理、保障措置への応用を念頭に置き、従来のGe半導体検出器に比べ20倍以上優れたエネルギー分解能と高速性を有するフォノン計測を検出原理とする超伝導転移端マイクロカロリメータアレイ検出器を用いた超高分解能エネルギー分散型X線計測技術を開発し、革新的重元素微量元素分析を実現することを目標とする。
- U.開発項目
- (1)超伝導転移端マイクロカロリメータを用いた硬X線検出素子の開発
- スズ放射線吸収体を用いた超伝導転移端センサ(TES : Transition Edge Sensor)で131 eV@59.5 keV, 140 eV@123.1 keVのエネルギー分解能を達成した。これはゲルマニウム半導体検出器の理論分解能の3〜4倍に相当する優れた値である。当初計画した30 eV@100 keVは相当程度高い目標値であるが、これをポンプで3He4He冷媒を循環させて永続的に冷やせる寒剤フリー希釈冷凍機を実用化することで達成することを目指したが、わずかに目標達成には至らなかった。
- (2)実超伝導転移端マイクロカロリメータアレイ素子信号読出しシステムの開発
- 0.5 mm×0.5 mmのピクセル4個から成るアレイをパラレルに4個のSQUIDを用いて同時に読み出し、有感領域1 mm角は達成できた。しかし16個のピクセル読出しには今一歩及ばない。開発期間においては、検出素子と回路を寒剤フリー希釈冷凍機のコールドステージ上で低いノイズ環境で動作させる必要があるが、冷凍機の機械振動ノイズ低減に労力を費やする結果となった。
- V.評 価
- TESによる硬X線スペクトロメトリーは、開発目標をクリアしているとは言えない。しかし、超伝導検出器の安定性、操作寿命は未だ熟練度を要し汎用レベルに達しているとは言えないが、大型研究施設に於けるオンリーワン計測技術として世界的なレベルを越えた性能を得たと評価はできる。
これまでの技術改良に向けた努力は十分に認められるものの、多くの課題が残っており、実用化の道筋が明確になったとは言い難い。開発目標の一部が未達成であり、本事業の趣旨に相応しい成果は得られなかったと考える。[B]。
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