資料4

開発課題名「細胞内温度計測用プローブの開発」

最先端研究基盤領域(旧一般領域) 要素技術タイプ

開発実施期間 平成22年10月〜平成26年3月

チームリーダー :  内山 聖一【東京大学 大学院薬学系研究科 助教】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  奈良先端科学技術大学院大学
T.開発の概要
 細胞内で起こるさまざまな生命現象を温度の視点から詳細に解明するため、高い温度分解能と空間分解能を備えた細胞内温度計測用蛍光プローブを開発する。また、簡便で誰にでも使用可能な細胞内温度計測技術の確立を目指し、これらの分解能を備え、さらに培地から細胞質への移行能、各細胞内小器官への移行能を付加したプローブを開発する。
U.開発項目
(1)細胞内温度計測用プローブの分解能
 本課題で開発し、市販化される(予定を含む)細胞内温度計測用プローブは、最高で0.1℃を超える温度分解能を備えている。なお、性能の評価値として、これ以上の温度分解能を達成するためには、精密な温度調整を可能にする温度コントロール装置や小数点以下2桁まで計測可能な温度計が必要であり、開発した温度計測用プローブ自体の真の温度分解能は、0.1℃より大幅に優っていると考えている。また、空間分解能に関しても、細胞個体の平均温度を計測するプローブを除いた残りの3種類については、プローブ自体の性能ではなく、蛍光顕微鏡の回折限界によって200 nmと評価されており、プローブ自身が持つ性能としては、高解像度の顕微鏡を用いることでさらなる分解能の向上が見込まれている。
(2)細胞内温度計測用プローブの細胞小器官移行能
 本開発課題の開始当初は、細胞小器官ごとの温度計測が重要であるとの判断から本達成目標を設定した。しかし、本課題で開発した細胞内温度計測用プローブを用いて細胞内の温度分布計測を行ったところ、細胞内では核、ミトコンドリア、中心体においてのみ発熱が確認された。また、開発したプローブの空間分解能は顕微鏡の回折限界レベルまで達しており、細胞小器官にプローブを局在させなくても、細胞小器官の温度変化を計測できることから、現時点では本項目を達成する理由がなくなった。なお、開発したプローブのうち細胞内移行能を備えたものについては、培地から細胞内への10分以内の移行能を示しており、本目標項目の達成時と同等以上の細胞内温度計測が可能になっている。
(3)細胞内温度計測用プローブの備蓄
 本課題で開発した細胞内温度計測用プローブのうち、特に利用価値が高いと考えられる4種類に関しては、株式会社フナコシより市販化が検討され、初期に開発された2種類は既に販売されており、残りの2種類についても販売の準備が進められている。本開発課題の開始時には、開発した温度計測用プローブの頒布を目的として、本達成目標を設定したが、既に国内外の研究者、研究機関は、株式会社フナコシを通じて、本課題により開発した温度計測用プローブの入手が可能となっている。
V.評 価
 本課題は細胞内で起こるさまざまな生命現象を温度の視点から詳細に解明するため、高い温度分解能と空間分解能を備えた細胞内温度計測用蛍光プローブを開発することを目的としている。感熱性高分子と蛍光性分子を組み合わせるという手法により、温度分解能0.1℃の検出感度をもった蛍光プローブを開発した。当初予定していた開発項目を終了させ、充分に目的を達成したと判断される。2種類は市販化、残り2種類も市販化内定の模様であり、実証・実用化に匹敵する成果と判断する。「温度」の観点から生命現象が理解され、新たな病気の診断法や治療法の確立につながることを期待する。本課題は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。