事業成果

大容量データの高速通信に向けて

高速データ通信技術の開発環境「DPDK-dock」をオープンソースとして公開2026年度更新

写真:丸山 充
丸山 充(神奈川工科大学 研究推進機構 特命教授)
情報通信科学・イノベーション基盤創出(CRONOS)
「広帯域インラインコンピューティングの実現」研究開発代表者(2024-2029)

汎用パソコンで実現する高速データ通信基盤を構築

丸山充神奈川工科大学研究推進機構特命教授らの研究グループは、一般的なパソコン上で高速なデータ通信を可能とする基盤技術として、「DPDK-dock開発環境」を新たに構築し、誰でも利用できるオープンソースソフトウェアとして公開した。

本開発環境で用いられているDPDK(Data Plane Development Kit)とは、パソコンの計算装置や通信装置をOS※1を介さずに直接制御し、通信データの受信や送信といった処理を高速に実行するためのソフトウェア開発環境であるが、高い通信性能を実現できる一方で、設定や利用にはOSの内部構造や動作メカニズムに関する高度な専門知識が必要であった。

新たに開発されたDPDK-dock開発環境は、このDPDKの利用を容易にすることを目的としている。これによって、高速データ通信に関するソフトウェアの開発や動作検証を、一般的なアプリケーション開発と同様に、パソコン上で効率的に行えるようになった。さらに、このDPDK-dock開発環境を活用して、IPv6※2と呼ばれる通信規格を用いたSRv6ソフトウェアルータ※3を開発し、公開した。

※1 OS
オペレーティングシステムの略。コンピュータのハードウェアを制御し、ソフトウェア上でそれらを利用できるように仲介する。

※2 IPv6
インターネット通信における機器の識別方式。従来方式よりも多くの機器を接続できるように設計された通信規格。

※3 SRv6ソフトウェアルータ
SRv6ソフトウェアルータとは、通信経路を柔軟に制御するルータの機能を専用の通信機器ではなくソフトウェアとして実現する革新技術である。

データ量増加がもたらす通信技術の課題

動画配信やクラウドサービスの普及に伴い、ネットワーク上を流れるデータ量は年々増加している。これに対応するためには、大容量のデータを低遅延かつ柔軟に処理できる通信技術が不可欠となっている。

こうした背景のもと、IPv6を基盤とするSRv6が注目されている。SRv6は、通信データそのものに使用する通信経路の情報を持たせるため、通信装置ごとに複雑な設定を行わなくても柔軟な通信制御を行える。

しかし、その一方で、SRv6をソフトウェアルータとして実装した場合、多量の通信データを高速に処理する必要があり、従来の方式では通信処理が追いつかなかった。DPDKは、パソコンの演算装置や通信装置を直接制御することで高速なデータ通信を可能にする技術であり、この課題を解決するための重要な基盤技術である。

DPDK-dock開発環境の設計と機能

DPDK-dock開発環境の構築

本研究では、DPDKを用いた高速データ通信の利点を維持しつつ、開発効率を大幅に向上させるための開発環境として「DPDK-dock」を構築した。

DPDK-dockでは、通信データの処理を行うアプリケーション中で、並行して動作する実行単位であるスレッド1つ1つを独立した処理として管理し、動作中の状態を確認しながら、割り当ての変更や起動、停止をアプリケーション外部から自在に制御できるようにしている。これにより、性能評価や動作検証を効率的に行うことが可能となった(図1)。

図1 DPDK-dock開発環境

図1 DPDK-dock開発環境

データ処理の状態を可視化

従来のDPDK環境では、通信データが受信されてから送信されるまでに、どの処理がどの順序で実行されているかというプログラム内部の動きを把握することは困難であった。しかし、DPDK-dockではデータ処理の状態を可視化する機能も実装された。その結果、データ処理のボトルネックや不具合の原因を迅速に特定でき、開発や保守に要する時間を短縮できるようになった。

また、本開発環境は、通信データの転送や経路制御を行うルータ機能だけでなく、通信の遮断や制御を行うファイアウォールなどのセキュリティ機能や、映像データを高速に処理する用途にも応用できる汎用的な基盤として設計されている。そのため、通信や情報処理に関わる多様な分野において、システム開発や技術検証に利用されると期待される。

SRv6ソフトウェアルータ公開と映像処理技術への展開

研究グループは、本開発環境を基盤として自由にカスタマイズ可能なSRv6ソフトウェアルータ(図2)を2025年度末に公開した。さらに、これまでグループが研究を進めてきた8K非圧縮映像処理技術をDPDK-dockに対応させ、高速通信と高負荷計算を同時に行えるようにする SRv6 End.AN※4プラットフォームを開発する。

本成果は、大容量のデータを滞りなく短時間でやり取りできる社会の実現に貢献することが期待される。

図2 SRv6ソフトウェアルータ

図2 SRv6ソフトウェアルータ

※4 SRv6 End.AN
SRv6のパケットフォワーディング機能とアプリケーション処理(ネットワークファンクション)が統合されたモデルで、低遅延インラインサービスチェイニングを実現する。現在、インターネット標準化団体IETF SPRING-WGにおいて、標準化提案中。

キーワード
DPDK、高速データ通信基盤、SRv6ソフトウェアルータ
参考URL

神奈川工科大学プレスリリース
(大学プレスセンターより:2025年9月8日)
神奈川工科大学がSRv6ソフトウェアルータ公開に先駆け、先進的な開発環境をオープンソースとして公開-汎用PCで高速パケット処理を実現
https://www.u-presscenter.jp/article/6502

(同:2026年3月24日)
汎用PCで動作する高速SRv6ソフトウェアルータをオープンソースとして公開
https://www.u-presscenter.jp/article/123079