事業成果

内視鏡医の診断を支援、早期発見に寄与

大腸がんをAIで即時検知2019年度更新

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浜本 隆二(国立がん研究センター がん分子修飾制御学分野 分野長)
CREST
イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化「人工知能を用いた統合的ながん医療システムの開発」研究代表者(2016-2018)

ポリープの見逃しを改善、認識率98%

CRESTの研究代表者である浜本隆二分野長は2017年、国立がん研究センター中央病院内視鏡科の山田真善医員及び日本電気株式会社(NEC)と共同で、大腸がんとがんの前段階の病変である大腸潰瘍性ポリープを、人工知能(AI)を用いて内視鏡検査時に即時に発見するシステム(図1)の開発に成功した。大腸の内視鏡検査時に撮影される画像や動画から大腸がんとポリープを自動検知し、内視鏡医による病変の発見を助けるシステムだ。検査時に問題となっていたポリープの見逃しを改善し、発見率を向上させることで大腸がんの予防、早期発見に大きく寄与するという。

開発した診断支援システムのプロトタイプは、臨床現場で医師に素早くフィードバックするため、画像解析に適した深層学習を活用したAI技術をベースに、独自の高速処理アルゴリズム*1と画像処理に適した高度な画像処理装置(GPU:Graphics Processing Unit)を用いて1台のPCでも動作する。国立がん研究センター中央病院の内視鏡科による所見がつけられた約5000例の大腸がんと病変の内視鏡画像を学習データとして、NECの最先端AI技術に学習させた。AIの学習後に新たな内視鏡画像を解析したところ、がん認識率は98%という結果を得ることができた(図2)。さらに検知と結果の表示にかかる時間も約33ミリ秒*2(30フレーム/秒)以内と非常に短く、リアルタイム化に成功している。

図1

図1 リアルタイム内視鏡診断サポートシステム

図2

図2 ポリープ検出の例

*1コンピュータで計算を行う時の計算方法で、問題を解くための手順を定式化した形で表現したもの。算法ともいう。
*2 1000分の1秒。

病変摘除で罹患率も死亡率も抑制

大腸の場合、がんは前段階の病変であるポリープから発生することが明らかにされている。人間ドックや大腸がん検診でポリープが見つかった場合は、積極的に内視鏡的に摘除する。実際に米国で1993年に報告された全米ポリープ研究(National Polyp Study; NPS)と2012年に報告されたNPSの長期成績データから、治療が必要な病変(大腸腺腫性ポリープ)を内視鏡的に摘除すると、大腸がんの罹患率を76~90%抑制し、死亡率を53%抑制したことがわかっている。

ポリープは内視鏡医が肉眼で見つけるが、サイズが小さい、形状が認識しにくいなどの場合は、見逃されることもある。実際に、肉眼での認識が困難な病変や発生部位、医師の技術格差により24%が見逃されているという報告もある(図3)。また別の報告では、大腸内視鏡検査を受けていたにもかかわらず、後に大腸がんに至るケースが約6%ある。その原因としては内視鏡検査時の見逃し(58%)、来院しない(20%)、新規発生(13%)、不十分な内視鏡治療による遺残(9%)が挙げられている。

図3

図3 大腸内視鏡検査における見逃し率

視野の限界を補い、広い画像空間も瞬時に解析

今回新たに開発したリアルタイム内視鏡診断サポートシステムを大腸内視鏡検査に活用することにより、従来は認識することが困難であった病変を発見しやすくなることが期待される。特に平坦な病変を発見するのが困難な、口側の大腸において効果が見込まれる。ポリープの発見率は大腸内視鏡検査の質を示すパラメーターの一つとして知られており、内視鏡医の検査の質を向上させることも期待できる。

また、リアルタイム内視鏡診断サポートシステムでは内視鏡から映し出される画像の全体を解析可能なので、従来よりも広い画像空間を瞬時に解析することができる。その結果として、人間の視野の限界を補い、ポリープの見逃し率をさらに減らすことができると期待されている。

大腸内視鏡検査の経験が浅い医師なども、肉眼で発見したポリープ以外に、リアルタイム内視鏡診断サポートシステムが指し示す部位があれば、その部位をよく観察し、がんおよび病変の見落としを防ぐことができる

研修医でも発見できるッポリープ(第二世代エンジン)
熟練しなければ認識が困難な病変(第二世代エンジン)

病院と研究所が連携し、世界で実用化を目指す

今後は国立がん研究センターに蓄積されている、1600例以上の肉眼では認識が困難な平坦・陥凹性病変をAIに学習させ、プロトタイプの精度を上げていく予定であり、現在並行してPMDAへの相談及び臨床試験の準備を進めている。また、画像強調内視鏡に代表される新しい内視鏡を利用することにより、大腸ポリープの表面の微細構造や模様を学習し、大腸ポリープの質的診断や大腸がんのリンパ節転移の予測への対応も可能にしていきたい。さらに、CT画像や分子生物学的情報などの情報とリンクさせ、より利用価値の高いマルチモダリティなリアルタイム内視鏡画像診断補助システムを目指す。

社会実装に向けた取り組みとしては、早期の臨床応用を目指し、国立がん研究センター中央病院と研究所が一体化して研究を進めていく(図4)。具体的には、国立がん研究センターに設置されたAI解析エリアと中央病院内視鏡科の録画サーバーを接続し、研究をさらに加速させる。そして肉眼での認識が困難な平坦・陥凹病変をAIに学習させてシステムの精度を上げ、臨床試験を行った後、日本のみならずグローバルでの実用化を目指していく。

図4

図4:早期臨床応用(社会実装)を目指し、中央病院・研究所が一体化し研究を加速させる