事業成果

シミュレーションと観測値を融合

台風・ゲリラ豪雨を早期に予測2019年度更新

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三好 建正(理化学研究所 計算科学研究センター チームリーダー)
CREST
科学的発見・社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用推進のための次世代アプリケーション技術の創出・高度化『「ビッグデータ同化」の技術革新の創出によるゲリラ豪雨予測の実証』研究代表者(2013-2019)

「京」「ひまわり8号」などで高精度を実現

近年は地球規模の気候変動が進むなか、過去に経験がなかったような激しい気象災害が起こっている。CRESTの研究代表者である三好建正チームリーダーらは、世界最高レベルの処理速度を誇るスーパーコンピューター「京」によるシミュレーションと、気象衛星「ひまわり8号」や高精細気象レーダーの観測値を融合させるデータ同化を用いて、気象の変化を高精度に高速で予測する手法を開発した。

気象衛星ひまわり8号は2015年7月より運用が始まった。ひまわり7号に比べて観測性能が大幅に向上し、地球全体を撮影する頻度が従来の1時間に1回から10分に1回に増えたほか、センサーの性能も向上し、データ量は従来の約50倍に増えている。このビッグデータを「京」で処理することで、これまで困難だった急速に発達する台風や、集中豪雨を高い精度で予測することが可能になった。

より局地的な気象変化の予測に対しては、1枚の板の上に多数のアンテナを並べたフェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)を用いる。PAWRは2012年に大阪大学吹田キャンパスに国内で初めて設置され、京阪神の中心部を覆う半径60キロメートル、高度14キロメートルの範囲を100メートルの格子状に区切った観測値が30秒ごとに送られてくる。ゲリラ豪雨と呼ばれる局所的な大雨や竜巻などを引き起こす積乱雲の規模は数キロメートル程度と小さく、従来の2キロメートル四方のシミュレーションでは予測が困難だったが、PAWRを活かした100メートル四方のシミュレーションならば狭い範囲での気象変化を詳細に捉えることができる。

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スーパーコンピューター「京」と三好チームリーダー

事前予測の困難に挑む

台風や集中豪雨は、洪水や土砂崩れなど甚大な災害をもたらす。こうした災害を減らすには、事前に予測し備えることが重要である。また、ゲリラ豪雨も事前予測のニーズが高まっているが、これらの気象変化は狭い範囲で急激に発生するので、事前の予測が難しいという側面がある。三好チームリーダーらはこの困難に挑んだ。

現在、気象予測はスーパーコンピューターを使った気象予報シミュレーションに基づいており、シミュレーション結果を一定時間ごとに実際の高精細気象レーダーや気象衛星の観測値と突き合わせて軌道修正している。このデータ同化の精度を上げることで、予測困難な突発的豪雨や洪水などの把握が期待できるようになれば、次世代の気象予報を実現することができる。

30秒で30分後の天気予報を計算

ひまわり8号の観測ビッグデータを生かすことで、2015年で最も強かった台風第13号の急発達(図1)や、9月の関東・東北豪雨の予測精度を向上させることに成功した。従来の手法では12時間先の雨の範囲が実際より西に約100キロメートルずれて予測されていたが、新たな手法では実際に雨が降った地域とほぼ同じ範囲で大雨が予測された。また、従来は6時間に1度しか更新できなかった鬼怒川の流量の予測(図2)も、10分ごとに新たな観測データを取り込んで予測を更新することで、流量急増の早期警戒に生かせる可能性を示した。

PAWRを活用した気象予測では、実際の観測値からゲリラ豪雨の様子を再現することに成功した(図3)。世界でもまれに見るほどの大規模で高頻度のビッグデータ同化により、実際に起きたのと同じようなゲリラ豪雨を「京」の中に再現することができたのである。現在は、30秒以内に30分後の天気予報を計算できるまで処理速度が向上している。さらに実用化に向けた試みとして、PAWRを生かした「3D降水ナウキャスト」という手法を開発し、30秒ごとに更新される10分後までのリアルタイム降水予報を、2017年7月から公開している。

図1 2015年8月2日22時(日本時間)における台風第13号のシミュレーション

図1

左はひまわり8号データ同化なし、中央はひまわり8号データ同化あり、右は実際のひまわり8号観測を示す。ひまわり8号赤外輝度観測のデータ同化によって、実際に観測された台風の詳細な構造を再現できたことが分かる。

図2 2015年9月9日の河川流出量の予測結果

図2

6時間ごとの従来型観測のみの場合、河川流出量予測も6時間ごとにしか更新できない(図の黒線と黒破線)。一方、10分間隔の高頻度で観測するひまわり8号を最大限に活用すれば、降水および河川流出量予測を10分ごとに更新することが可能となる(色線、赤に近いほどより遅い初期時刻)。頻繁に予測を更新することで、洪水リスクをより長いリードタイムで捉えられることを示した。いずれも、理研の数値天気予報モデル、データ同化システムを用いた計算。

図3 「ビッグデータ同化」によるゲリラ豪雨のシミュレーション再現例

図3

フェーズドアレイ気象レーダーにより100メートルの分解能で30秒ごとに観測される3次元降水分布と、解像度100メートルの高精細シミュレーションを組み合わせて、積乱雲内部の状態を詳細に再現できた。赤色は雨が最も強い部分。地図データは国土地理院提供。

環境・水産分野への応用も可能

今後もひまわり8号やPAWRから得られる予測データを有効に活用し、豪雨や洪水のリスクをより早期に捉えることで、革新的な次世代の気象予報の確立を目指す。ゲリラ豪雨に関しては、将来的には30秒で30分後の予測が出せるレベルまで精度を上げることを目標にしている。併せて防災体制などの技術的・社会的課題を解決することで、気象災害の被害軽減にも貢献できると考えている。

観測値とシミュレーションを融合していくデータ同化は、気象分野以外にもさまざまな分野で応用できる可能性がある。例えば衛星データを使った森林の増減シミュレーションでは、人工衛星が撮影した画像を使って葉の面積を割り出し、これを観測値として木々の予測値に融合させることで、森林の増減を高精度で予測することも不可能ではない。さらにマグロの行動や赤潮の予測など、水産分野などでも活用が期待できる。