事業成果

半分の貴金属触媒で世界基準をクリア!

紙すき技術応用の排ガス浄化装置2016年度更新

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株式会社エフ・シー・シー/北岡 卓也(九州大学大学院農学研究院 教授)
独創的シーズ展開事業・委託開発
「湿式抄紙製法による排ガス浄化装置」開発実施企業/代表研究者(H18-22)

紙すき技術で排ガス浄化の未来を変える

地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を抑制するため、その緩和策として自動車や自動二輪車への排ガス規制が世界中で行われている。

従来の排ガス浄化装置は、ハニカム(蜂の巣)構造のセラミックスやステンレスに、白金、ロジウム、パラジウムなどの貴金属を用いた三元触媒(排ガス中の窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素を同時に無害化する触媒)でコーティングしたものである。しかし、資源保護や安定供給など懸案事項も多く、新たな浄化装置が求められていた。そこに登場したのが、北岡卓也教授と株式会社エフ・シー・シーの独創的シーズ展開事業・委託開発から生まれた「湿式抄紙製法による排ガス浄化装置」だ。この製法は「紙すき」という日本に昔からある技術を応用したとてもユニークなものである。

貴金属量の少ない浄化装置の開発が急務

自動車や自動二輪車の生産は世界中で拡大し続けている。今後も排ガス規制の強化は続くだろう。これまでの浄化装置は主に触媒として使っている貴金属を増やすことでしか、規制の強化に対応できなかった。しかし、この方法はすでに限界を迎えている。白金やロジウムなど有限な資源を今のペースで使い続けることはできないのだ。

貴金属使用量の少ない、効率のよい排ガス浄化装置の開発は緊急の課題であった。

湿式抄紙製法による画期的な新触媒の誕生

北岡教授は、新たな触媒の可能性を探っていた。紙のように細い孔が空いた多孔質構造の触媒を作ることができれば、効率がいい排ガス浄化が可能になるのではないか。そこで注目したのがエフ・シー・シーというクラッチの専業メーカーだった。実はこの会社、クラッチの主要部材である摩擦材を作るために紙すきの技術を使っていたのだ。この技術を応用できないか?ここから画期的ともいうべき両者の共同研究がスタートした。

紆余曲折を経てたどり着いたのは、セラミックスの粉末にパルプを加えた原料を手すき和紙などを作る要領で、シート状にするという方法「湿式抄紙製法」だった。さらに、それを巻き取り、ハニカム(蜂の巣)状に成形する。高温加熱してパラジウムとロジウムを触媒として加えることで新しい排ガス装置が完成したのだ。

貴金属の使用量はどうなったのか?なんと白金は使う必要さえなくなったのである。そして、これまでの約半分の貴金属量で、現在の世界基準、欧州自動二輪車の排ガス規制EURO3(一酸化炭素;2.0g/km、炭化水素;0.3g/km、窒素酸化物;0.15g/km以下)をクリアすることができたのだ。これで効率のアップはもちろんのこと大幅なコストダウンも実現できたことになる。従来の問題点であった耐熱性も高く、1000℃でも浄化性能が低下しないという大きな特性も持っている。

ペーパー触媒はすでにエフ・シー・シーによって製品化が実現した。紙すきという昔からの技術を利用して画期的な成果を生み出したのだ。

新しい装置の製造過程

画像:新しい装置の製造過程
  • (1)叩解工程・抄紙(湿式抄紙):セラミックス粉末やパルプを主成分として抄紙し、紙質シートを作製。
  • (2)成形:コルゲート状に成形後巻き取ることでハニカム構造を作製。
  • (3)焼成:高温で焼成(有機成分の焼失/細孔の形成)。
  • (4)触媒担持:バラジウム触媒とロジウム触媒を担持したマグネトブランバイトをコーティング、低温で焼成して触媒定着。
  • (5)キャニング:ステンレス管に保持材としてセラミックスマットを使用してハニカム構造を圧入。

湿式抄紙製法による排ガス浄化装置

画像:湿式抄紙製法による排ガス浄化装置

水素製造触媒や光触媒などへの展開にも期待

この装置は、ハニカム構造の素材が多孔質セラミックスであるため、軽量であり、粉砕しやすく貴金属のリサイクル性にも優れている。実車に搭載可能な強度や浄化性能をクリアし、コストパフォーマンスもいいので、汎用機や自動二輪車などでの普及に大きな期待がかかっている。また、新技術による紙特有の構造体は水素製造触媒や光触媒などへの展開も期待される。いずれにしても、この研究開発の成果は、今後さらに深刻化する環境問題への取り組みに大きく寄与し続けることだろう。

※化学反応の速度を上げる物質でそれ自体は変化しないもの。また、その作用。望みの生成物だけを作り出す選択性を合わせ持つ。