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  3. 全国調査データベースを用いた児童虐待の予防・早期介入システムの開発
写真:森田 展彰

森田 展彰筑波大学
医学医療系 准教授

児童虐待対応のアプリとサイトを試作

全国の児童相談所への通告事例の調査データと、全国の一時保護所入所事例のデータなどを分析し、関係者が当事者の支援に活用できるアプリとサイトを試作しました。支援に必要な情報を検索・共有できます。

概要

児童虐待は、養育に困難を抱える親に孤立・ストレス・貧困などのリスクが重なることで生じる問題です。関係機関や養育者自身が抱えるリスクを評価し、必要な情報や支援を提供する仕組みの整備が不十分なことによって、虐待の発生につながっています。
本プロジェクトは全国の児童相談所への通告事例の調査データ(注1)と全国の一時保護所入所事例のデータ(注2)の分析などにより、児童虐待リスクの予測式と対応ガイドラインを作成しました。また、分析結果を現場で活用するために、支援者用のアプリケーションと支援者および養育者用のウェブサイト「こそだてタイヘン.com」を試作しました。これらにより、支援者の的確な援助や介入が可能となったり、養育者が自分に必要な援助を求められるようになることが期待されます。

注1)全国の児童相談所通告事例の調査データは、平成25年度に全国児童相談所長会が子ども未来財団の補助を受け、全国の児童相談所の協力を得て実施した調査研究(主任研究者:櫻山豊夫「児童虐待相談のケース分析等に関する調査研究」)において収集されたものです。本プロジェクトは、櫻山主任研究者の下で行われる二次解析の一部として、プロジェクトに参加する研究員がデータ分析を行っています。こうした手続きによるデータ使用については、全国児童相談所長会の承認と筑波大学医の倫理委員会の承認を得ています。
注2)全国一時保護所入所事例のデータは、日本子ども家庭総合研究所(現在の愛育研究所)が平成25年度において収集したものであり、このデータをもとに同研究所が行う「一時保護所の概要の把握と入所児童の状況調査」という研究に本プロジェクトの者が参加するという形で分析による成果を使わせていただいています。この手続きについて、同研究所の承認および筑波大学医の倫理委員会の承認を得ています。

プロジェクトが考える新しい公私連携

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研究開発の成果

全国児童相談所や一時保護所、乳幼児健診の大規模データを基にした児童虐待のリスク予測や基本的な評価・対応方法を見ることができる支援者用のアプリと、養育者・支援者に対するサイトの試作を行いました。アプリには、(1)虐待の可能性のある事例について評価・対応のポイントを示す機能(2)虐待事例のリスク評価の機能(3)虐待の関連事項に関する辞書引き機能(4)事例の詳細な評価という4つの機能を持たせています。サイトは、養育者と支援者に向けた内容を含み、そのうち養育者向けは、子育てに役立つ情報および養育者自身の困りごとの解決に向けた情報をわかりやすく示します。支援者向けは、支援において直面する問題の対応ポイントを示します。

研究開発のアピールポイント

支援者用アプリの試作

支援者のサポートを目的とした情報提供用パッケージとこれらを用いた虐待リスクの評価・対応を行う支援方法をまとめたものをandroid端末向けタブレット版アプリとして試作しました。本成果の担い手は、各自治体の児童相談所や保健センター、保育所、各種学校などに勤務する子育て支援に関連する専門職とその関連職です。受益者は、それら専門職らから支援を受ける養育者、特に何らかの理由によって子育てが困難な状況にある養育者です。担い手は、本アプリを活用することで、当該業務に必要な情報が将来、迅速に検索、共有することができるようになります。

養育者、支援者、および研究者向けの情報発信サイトの開発

「こそだてタイヘン.com」は、養育者および支援者を対象としたエビデンスに基づく情報、研究者向けに成果を発信する内容にしました。養育者向けサイトでは、子育てについての情報のみならず、養育者自身の困りごとや、養育者のパートナー等の周囲の人の困りごとなどの解決に向けた情報をわかりやすく伝えます。支援者向けのサイトでは、支援者が直面することが多い養育者の困難を取り上げ、その疫学や支援ポイントを紹介しているほか、当プロジェクトが主催する研修情報も発信しています。研究者向けのページでは、当プロジェクトの概要や研究成果も発信しています。

アプリ・サイトを用いた評価支援研修パッケージの試作

全国の虐待データをもとにしたリスク評価を行えるアプリやサイトは、経験の少ない支援者にとって、リスクの高い虐待の特徴を比較的手軽に客観的に調べることができるのが利点です。しかし、アプリでリスクが低く出た場合でも、個々の事例の複雑な背景やニーズを見逃さずに的確な評価・対応をする上で、養育者と支援者の対話や多職種チームで評価・対応する必要があります。本プロジェクトではエビデンス(根拠)を用いる手法を詰めていく中で、限界も明らかになったため、エビデンスに基づくアプローチに加えて、対話的アプローチを統合したアプリ・サイトを有効に利用するアプローチの手引きとそれを用いた研修会のパッケージを試作しました。

成果の活用場面

本研究で試作したアプリケーションおよびインターネットサイトは、研修会で参加者に当該アプリを搭載したタブレット端末を貸与して、実際に現場で試用してもらっています。今後は、現場で実際に使用したうえで感想をフィードバックしてもらうことを通じて、アプリケーションソフトの改良を行うことを検討しているところです。

支援者の利用イメージ:市町村や児童相談所などでの判断の参考に

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成果の担い手・受益者の声

担い手
アプリはまだまだ現場ではなじみが少ないとは思うが、今後、一つの評価方法としてありだと思う。人材不足や仕事量の問題があり広がっていくといい(50代、スクールソーシャルワーカー)
児童相談所や市町村の職員にとっても、判断のヒントとなる、職員増員により専門性が下がっているため有意義だと思った(40代、児童福祉司)
受益者
支援を求める方法がわからないなどで、虐待のリスクがある母親への援助につながらない場合、アプリが利用できる環境が整うとよい(50代、研究者・子育て中の方)
このアプリやサイトを利用することで、客観的に評価でき、また、関係スタッフが情報を共有でき、対応もよい方向へ向かうことができるとよい(40代、看護師)

目指す社会の姿/今後の課題

今の日本における子育ては、親類や地域とのつながりが減り、貧困、教育・就労の問題、DV・離婚、障害といったリスクを抱えると、一気に深刻な危機に陥りがちです。そうした親子は困難を訴えること自体が容易でなく、専門家や多くの機関によって多様なニーズにていねいに応えてもらえることを当事者の親子に対して示す必要があります。今後も、個々のニーズに合った的確な支援を届ける仕組みを作っていきます。それによって、いざという時に助けてもらえるという安心感を当事者に持ってもらい、子育てを行える社会を目指します。

内容に関する問い合わせ先

筑波大学医学医療系社会精神保健学
[連絡先] 電話番号/FAX  029-853-3099 メールアドレス seishinhoken[at]hotmail.com ※[at]は@に置き換えてください。

事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
[連絡先] pp-info[at]jst.go.jp ※[at]は@に置き換えてください。