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公開ワークショップ「最期まで自分らしく生きる」に期待すること

「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」研究開発領域担当 長島 洋介

アソシエイトフェロー 長島 洋介
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
社会技術研究開発センター(RISTEX)
「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」
研究開発領域担当

・意思決定を支えるとはどういうことだろうか。
・そもそも「自分らしい」意思決定を支えられるのだろうか。
 これらは、今回の企画を進める上で感じた素朴な疑問です。


幸か不幸か、人は合理性だけで物事を判断しません。一般に合理的に判断したほうが有利に働くと捉えられている経済活動でも、時に人は感情や価値観から判断することがあります(行動経済学などが参考になります)。「自分らしさ」を追求すればするほど、その人の価値観が大切になり、一元的に「こういう状況だから、こうしよう」と決められなくなります。そのためか、自分のことですら、何を望んでいるか、どうしたいのか、わからなくなることもあります。


もし、何らかの原因で自らの意思を自らの力で判断すること、伝えることが困難になって、代わりに誰かが決めなければならなくなったら。脳の損傷、認知能力の低下や未成熟など、年齢に関わらず、いつ誰の身にも生じる可能性があります。

本人の代わりに決定する立場に立ってみると、「本人の意思を尊重した上で」代わりに物事を判断することは難しいだけでなく、大きな責任が伴います。それが医療・介護や財産管理など、本人の人生に大きく関わることになれば、なおさらです。例えば同じ医療処置でも、その人の価値観や置かれている状況によって、「自分らしい」意思決定は異なってきます。そこで、「自分らしい」意思決定は、その時・その人だけでは成し遂げられないのではないでしょうか。

常日頃から自らの思いを周囲に示しつつ、共有し、自らの意思決定が難しくなったときに備える。そこで、『どういった時に』『どういった情報を』『どういった人と』『どのようにして伝え、対話するのか』。そして、困ったときは専門家に支えられながら、ともに考える。そのために、自分ができること、家族などの周りの人たちができること、コミュニティができること、社会ができることが複層的に重なり合う。こういったイメージを持っています(図)。

当然ながら、言葉では簡単に述べられますが、そう単純なことではありません。しかし、誰かの意思決定を支えることは、このように社会的にも時間的にも厚みを持ってなされる必要があるように感じています。


清水プロジェクトの心積りノートは「元気なうちから自らの思いを示しつつ、みんなで対話を図ること」を重視します。成本プロジェクトは、意思決定プロセスを通して、本人の判断能力に寄り添い、思いを読み取りながら専門家が対話していくための社会システムを提示しているように捉えられます。

これらの取り組みを題材に、幾重にも重なり合った関係性の中で、その人らしい意思決定を支える、または自分らしい意思決定をしていくために「私たちにできること、私たちがすべきこと」を考えることができればと期待しています。そのとき、「社会や地域の文化がどうあるとよいか」まで考えることができれば、豊かな日常を育めるコミュニティにまた一歩近づけるのではないかと、信じています。


最後に、私は認知症の祖母の介護を経験しました。祖母は数年前に亡くなりましたが、今でも祖母と正面から向き合って対話できたのか、祖母らしい生き方に関わることができたのか、地域の人ともっと協力できたらよかったのか、私にできることは他にあったのか、わからないことだらけです。自らの経験を通して、「みんなとの対話のあり方」の議論に貢献したいと、切に願っています。


個人、家族、地域、文化、社会がそれぞれの立場から個人や家族を支え、形作る物語。

(掲載日:2015年7月10日)

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