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地域力を総合的に評価する「在宅医療を推進する地域診断標準ツール」

研究代表者 太田 秀樹

研究代表者 太田 秀樹
医療法人アスムス 理事長

わが国は、1960年代からの目覚しい産業振興により経済大国に発展し、豊かさのなかで、科学技術としての医学の発展もあいまって世界に類をみない超高齢社会を迎えています。少子化・核家族化にも拍車がかかり、虚弱化したおびただしい数の高齢者(図表①)を一体誰がどこで支えてゆくのか、社会保障の健全な存続という視点からもきわめて重い課題が突きつけられているのです。


複数の疾病を併せ持ち、さまざまな生活障害とともに暮らす高齢者たちの健康課題を解決するには、従来の入院や外来による治すことを目的としたヘルスケアシステムの中では限界があります。生活障害や慢性疾患をもった高齢者を治療によって完治させることは難しく、むしろ長期入院による認知症の進行、筋力の低下など、副次的な病気や疾患をもたらしかねません。WHOが提唱する健康とはほど遠い結果をもたらすことが多いのです。このような社会背景のなかで、地方行政主導で地域居住の継続を機軸とし、暮らしを上位概念とする地域包括ケアシステムの構築が推し進められています(図②)。この地域包括ケアシステムは地域完結型の生活支援体制です。そのため、地域生活者の健康面を支える上で、地域密着型医療である在宅医療に対する期待が高まっています。そのため、今や在宅医療の普及は、地域における最重要課題のひとつといえるのです。


一方、徐々に医療現場は自宅から病院に移り、病院完結型の医療が整備されていきました。国民皆保険制度が施行され、社会保障制度も発展し、医療の高度化・診断機器の発展といった病院医療への信頼の高まりと普及が進み、誰もがどこに住んでいても病院で高度な治療を受けることができるちょうになりました。それは同時に、病院への依存も生み、安易な受診の増加ももたらしました。


それに伴い、1950年ごろには8割を超えていた在宅死亡率が1976年に病院死亡率に逆転されました。ほんの30年前までは家人の手に委ねられていた終末期から看取りまでの尊い時間も、病院の機能に委ねられるようになりました。このような中で、長寿化が進み、疾病構造が急性期から慢性期中心に移行するようになると、医療者からも利用者である国民からも、血圧や血液検査などの医療データ改善以上に生活の質を問う声が上がるようになりました。最期は自分らしく過ごしたい。そのような願いを叶えるためにも、住み慣れた生活の場での療養が求められているのです。


システム上の限界と国民意識の高まりを背景として、本プロジェクトでは、地域包括ケアシステム整備のなかで、特に在宅医療の普及推進を主眼とし、基礎自治体を対象とした在宅医療を推進する地域診断標準ツール開発を目的として取り組んできました。そもそも、上記のニーズを実現させるだけの地域の力に、地域格差があると考えたためです(③)。 研究フィールドである栃木県栃木市と茨城県結城市での在宅医療推進フォーラムなど市民を対象とした啓発活動や、地区医師会と協働した在宅医療推進協議会の立ち上げ、平成24年度在宅医療連携拠点事業への参加、地域の多職種間連携作り等にも積極的関与し、地域への介入を通した情報収集も進めてきました。例年に引き続き、現在もこれらの活動に力を注いでいます。


これらのアクションに加え、アンケート・ヒアリング調査、数々の公表データの分析などを通して強く実感したことは、「医療だけでは健やかな暮らしを支えきれない」、ということです。もちろん、高齢者の健康不安を和らげるためには在宅医療は欠かせません。一方で、入院治療が必要となった場合に、早期に適切な形で在宅復帰を実現するには入院医療側の姿勢も重要です。早期復帰はまた、高齢者世帯が多くなっている現在、生活そのものを支える専門的な在宅介護の充実も必須と言えます。さらには、公益的な支援の要として、行政の担う役割も大きいものです。そして、以上の様々なサービス機能が有機的につながることで、効率的で有効な社会資源となるのです。


しかし、このような専門職のみの支援ではどうしても支えきれない部分を補うものは、地域のコミュニティそのものだと考えています。したがって、利用者としての意識の高さも重要な点です。


これらの経験・データの蓄積から、当プロジェクトでは、「在宅医療・入院医療・在宅介護・市区町村行政・地域連携・コミュニティ・利用者意識」という複数の観点から、在宅医療の普及・推進に向けて地域力を総合的に評価する地域診断標準ツールの完成を目指してきました(④)。このツールの活用を通して、医療者の手に委ねられてきた看取りが、ひとつの文化として地域の中で再構築されることを心より願っています。


図①平成24年度の要介護認定率の年齢別比較
図①平成24年度の要介護認定率の年齢別比較

要介護度1以上になると、高齢になるほど要介護認定率は顕著に高くなっている。

*社会保障統計年報データベースから作成。要介護認定者の数は国民健康保険中央会「認定者・受給者の状況」(各年度5月末現在)、年齢別の総人口は「平成22年国勢調査」
(平成22年10月1日現在)による。


図②地域包括ケアシステムのイメージ図
図②地域包括ケアシステムのイメージ図

*平成25年3月 持続可能な介護保険制度及び地域包括ケアシステムのあり方に関する調査研究事業報告書 「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための論点」 31ページより引用


図③在宅看取り率の地域格差
図③在宅看取り率の地域格差
在宅看取り率の計算式



図④在宅医療を推進する地域診断標準ツール
図④在宅医療を推進する地域診断標準ツール:地域力を見える化する



太田先生が研究代表者を務められているプロジェクト「在宅医療を推進する地域診断標準ツールの開発」の紹介はこちらをご覧ください。

(掲載日:2014年3月6日)

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