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「年をとることの幸せ」

関根千佳
領域アドバイザー  関根 千佳
株式会社ユーディット 会長兼シニアフェロー
同志社大学政策学部・大学院 総合政策科学
研究科 教授

 50歳になると、JR東日本では「大人の休日クラブ」に入れる。JRが5%引きだ。65歳になるとなんと30%引きである。年をとるということは、なんて素敵なことなんだろう!東日本だけでなく、全国でも使えるジパングというパスも申し込める。子供のころ、早く大人になりたいと思っていたが、この年代になっても、早く大人になりたいと、願えるものがあるのはいいことだ。

 海外では、リタイアメントというのは、おめでたいことである。ハッピーリタイアメント!と、まるで誕生日のようにたくさんのお祝いメッセージが届く。今まで会社のため、生活のために働いてきたけれど、これからは、もっと人生を楽しもう、家族と過ごそう、世のため、人のために動いていこうという新しい出発なのだ。心地よいリタイアメントコミュニティに移るのも良し、Aging in Placeを実践し自宅で年を重ねるのもいいだろう。会社の都合で転勤するのではなく、自分で選べるなんて素敵。自分の時間や能力を、社会のために使えるリタイアーってかっこいいというイメージだ。

 日本では、高齢社会というと、なんだかクライ雰囲気で語られることが多い。シニア側はお金や健康など、老後の備えが不安だし、若い世代には世代間格差から恨めしい目で見られてしまう。どっちももっと、ポジティブに物事を見ればいいのに。どっちももっと、お互いを羨ましがればいいのにと思う。若い人には未来があっていいなあ、いろんな可能性があるじゃない、とシニアは考える。今は時間もお金もないかもしれないけど、これから経験を積むということができるじゃないの。羨ましいよ。で、若い人はこう思えばいい。羨ましいな、シニアって。自由になる時間、多くの人脈、いろんな経験が語れるじゃないか。そして、何より、いろんなことを、自分で選択できるんだ。

 どっちも恨めしく思うのでなく、どっちも羨ましがればいい。無いものを数えるのでなく、在るものを楽しめばいい。高齢者の8割は元気である。時間も、そこそこのお金も、向学心も高いという優良顧客層が、これからは主流になると、企業や自治体は、ユニバーサルデザインのまちやものをこぞって作っている。労働力が減るって?確かに体力は少し低減するかもしれないが、経験のある層が80代まで若年層を知恵で助けることができるはずだ。労基法を根本から見直そう。50歳でリタイアして次へコマを進めるライフスタイルを作り出そう。

 そのためにも、もっともっと、シニアには学びが必要だ。年を取ると自分はどうなるのか?自分の地域・環境で使える社会サービスは?コミュニティビジネスの起業方法は?きちんと家でICTが使えるようになりたいんだが?こういった学びの場が身近に増えれば、シニア自身が大きな社会資源になる。海外の大学のLLI のように、地域のシニアが大学の講義を若い学生と一緒に取れる環境を整備することも重要である。 日本でも、学びたいシニアが確実に増えている。先日出会った65歳の女性が言っていた。「孫育ても可愛いけどね。自分も育ちたいの。論文を書いて博士号もとったけど、今年から新しいテーマで、別の博士論文を書く予定。人生は楽しいわ」 引退後の20年間を、学び、育ち、社会への貢献に使える楽しいものにできれば、それが新たな需要を生み、かつ、若い世代にも還元されていくだろう。人生を楽しもう。若い世代に羨ましいと言わせよう。それが、シニアの義務である。


LLI(lifelong learning institute:生涯教育機関)

(掲載日:2012年4月4日)

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