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ほっとコラム

「『介護』は人を成長させ、地域を再生する」

木村清一
領域アドバイザー  木村 清一
東京大学高齢社会総合研究機構 
学術支援専門職員

我が国は、高齢化率23%という世界に類を見ない「超高齢社会」に直面しています。同時に、長寿社会の必然ともいえる要介護認定者数は、いま500万人を超えてきています。このことは、配偶者や子供をはじめ、ケアマネやヘルパーなど介護関係者までを含めると2500万人以上の人々が、何らかのかたちで「介護」にかかわっていることを意味しています。「介護の社会化」を基本として平成12年4月、我が国に介護保険制度が設置されて十年が過ぎました。すでに皆さん御承知の通り、この間にさまざまな課題や問題が表出し、3度の法改正を経て今日の状況に至っています。

介護の現状を見ると、介護に疲れて無理心中する人や介護疲れから「うつ」になり辛い日々を送っている人。寝たきりの親を何もせず放置している人や介護施設に預けて会いにも全くいかない人など。このようなマスコミ等を通じて報道される事案にも驚かなくなるほど、私たちの身近な生活の中でも、事が起きてきています。

一方、介護に直面しても、そのかかわりを通じて家族崩壊する人ばかりではありません。むしろ、介護によって家族の絆を深めている人も多く存在します。いわゆる介護地獄に陥ってしまう人と、逆に何とも幸せ介護にしてしまう人との違いはなんでしょうか。

私は、まず介護と子育ては基本的な共通点があると考えています。障害者も同じです。それは人間の「命が見える」ということではないでしょうか。弱い命にかかわるということは、その命を支える自然や環境、そして、身近な地域社会の大切さが解るということです。これらは、当事者ばかりでなく、その人を取り巻く家庭や地域もよく見て対処することになり、さらに真正面から取り組むならば、その人を含む家庭や地域を再生することに繋がっていくことになるからです。つまり、人は「介護」という現実に出会うと、その生き方や考え方、果ては思想性までもが問われてくるのかもしれません。家族で対応するのか。制度を活用して在宅でするのか。さらに、介護施設へ入所でするのかなどの選択が迫られます。このとき、介護という現実を特定の人が背負った場合に「悲劇」が生まれているように思います。では、どうしたらいいのでしょうか。答えはシンプルです。介護される人が、最も幸せな生活が送れることを第一にすることしかありません。例えば、家族で介護をするなら、みんなで役割分担すること。いわゆる嫁や女だけがすることではないでしょう。兄弟姉妹、孫、ひ孫まで、男女問わず介護に何らかのかかわりを創るのです。望むなら隣近所やボランティアの方々にも思い切って実情を伝え、「話し相手」や「友達づきあい」をお願いしてもよいと思います。事情によって施設へ入所したなら、できる限りみんなで、あるいは個々にでも会いに行きましょう。小さな理由をつけてもよいですから、近況報告や世間話にせっせと通うことです。会いに行けないほど遠くの施設なら、ITを活用しFAXやメールに想いをのせて「定期的」に送ることだってできます。自分たちの知恵と工夫を凝らすことが何よりも大切です。遠く離れていても、多くの方はきっと楽しみにしていると思います。このような例は、私が介護現場で実際に経験したことの一つで、いきいきとした施設生活を送る方を見ています。

介護保険制度が創設されて十年が過ぎました。介護サービスは、介護を必要としている方の暮らし方や生活の質に合わせて、うまく組み合わせて利用することが重要です。制度があるといっても介護職員は、優しく丁寧な生活支援はできても、家族の絆ばかりは持つことはできないのです。客観的にみて、家族としての繋がりや精神的な安定の確保は、『家族以外は誰もできない』ことを改めて認識したいものです。そこから介護事業従事者との役割分担に基づく信頼と連携を生み出し、介護される人の生活の質を高めていくことになります。

そして「私も赤ちゃんのとき、おむつを替えてもらったり、ミルクを飲ませてもらい、優しい言葉で話をしてもらったりしてきたのです。そのお返しをするときなのだ」と思いたいものです。

我が国の介護制度は、いかなる状況にあっても揺るぎのない家族の絆を基盤にして存在するものでなければなりません。それが日本人のDNAなのだと世界に向かって叫びたいものです。

最後に、私自身は仕事しながら「介護」にかかわってきましたが、家庭では介護度4のおふくろを様々な介護サービスを使いながら、在宅介護して十年になります。おふくろは隣県に住んでいるため、遠距離通勤、家族との介護別居中ですが、必要に応じて妻と二人の娘が交代で介護をフォローしてくれます。さらに、訪問診療をしっかり受け止めてくれるかかりつけ医師や訪問看護師、ケアマネやヘルパー、隣近所やボランティアの方々などに支えられています。

いま週に1回ぐらいしか来ませんが、孫娘に向かっておふくろは「今度いつくるの?」という言葉が口癖になっているところです。


(掲載日:2011年10月21日)

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